自治委員会ライフの幕開け。
「学園の細部まで、見落とすことなく。カイゼリン様はそう仰せです」
「は、はい……」
「へっへっへっへっ」
シャーロット達は今、委員会の巡回路を辿っていた。細部という言葉通り、学園の隅々、端から端まで徒歩で移動していた。
余裕そうなリヒター。息も絶え絶えのシャーロット。歩き足りないワンコ。三者三葉だった。
移動が終わると、今度は校舎内だ。シャーロットはまずは初等部。そして、中等部の校舎。
「この学園、広いんですね」
「ええ、広いでしょうね。私は慣れたものですが。ちなみに校舎は往復します」
「え!」
「え、とは。あなたも補佐の補佐にあたるのですから、早く慣れてください。音を上げてくださっても結構ですが」
リヒターは、息を切らしてばかりのシャーロットを見ていった。
「は、はい、早く慣れますね……!」
シャーロットは今の無様の姿は承知の上で、そう答えた。彼女としては死ぬよりはマシなことなのだ。これからの苦難と立ち向かうことに比べたら、序の口だと。
「さようでございますか。――リッカ様。歩いてくださっても結構ですよ」
「わふっ」
これまで抱っこされていたリッカは、迷うことなく下りた。
「リヒターさん……?」
校舎内を歩かせていいのだろうか。抱っこする気でいたシャーロットは彼を窺う。
「実際は犬を担いでということもありませんから。途中で申し出ていただけたら、善処しましたのに」
確かにリヒターの言う通り、駄目元で頼むのもありだったかもしれない。
「なるほど。でも、約束しましたし。私はこれで良かったです」
が、シャーロットはそれを良しとはしなかった。
「さようでございますか。ああ、今だけは私が責任を取ります。ご心配なく」
「わかりました。リッカ、トイレ行きたくなったら、早めに教えてね?」
リッカは元気よく返事した。
「ええ、是非ともそうしていただけますと。私が躾けなくてすみますから」
「!?」
リヒターは変わらず無表情だ。なのに、この底冷えするような迫力はどうしたものか。
「おかしいでしょうか? 私が責任を持つとなると、そうしたことかと存じますが」
「あ、いえ。ただ、私の方でしっかりしますので。そういうのは、本当に大丈夫なんで」
「かしこまりました」
リヒターがすんなり下がってくれて、シャーロットもリッカもホッとした。リッカにいたっては足がガクブルしていた。
「今回は免じましょうか。このまま部屋に直行し、業務の説明へと移らせていただきます」
「はい、よろしくお願いします」
往復もそうだが、本校舎内の巡回も容赦してくれたようだ。彼らは活動場所へと向かうこととした。
「失礼致します。リヒターでございます」
リヒターは部屋の扉をノックした。部屋の主、カイゼリンからの返事もあったので入室した。
「あら、おかえりなさい。そして、シャーロットさん?貴女、リヒターの補佐にあたってくださるとか」
「はい。この度はご承諾いただきまして、ありがとうございました。精一杯務めさせていただきますので、よろしくお願いいたします」
今回はカイゼリンが許可してくれたことあってだ。シャーロットは深々とお辞儀をした。
「……あら、そうなの。そういうことでしたら」
「カイゼリン様?」
カイゼリンの声音が変わった気がした。シャーロットは顔を上げて、彼女を見る。
「ええ、よろしくお願いしますわね。――シャーロット?」
にたりと笑ったカイゼリンがそこにいた。彼女の目が怪しく光った気がした。
「――ジェム様。続いて、内務での仕事をお教えします。こちらへお越しください」
「はいっ」
カイゼリンの様子も気がかりだが、シャーロットは彼の元へと向かうことにした。
「ほほほほほ。――ええ、楽しみだこと」
カイゼリンの高笑いと共に、シャーロットの自治委員会ライフが幕を開けた。




