魔法屋と幼馴染と。シャーロットのそんな日々。
「おー、おっちゃんらじゃんか」
入口側から、アルトがやってきた。村のギルドの一員で、アルトとも友好な関係を築けているようだ。
「よー、アルト。お前はいつもここばっかだな」
「まあね。俺の家みたいなもんだから」
「まーた、いってら! いつものヤツかよ」
いつもの軽口かと、彼らは盛大に笑った。アルトもつられるように笑っていた。
「シャーリー。水、汲んでくるよ。バケツ借りるね。これ終わったら清掃しとく。扉の汚れ気になってたんだ」
「うん、ありがとう。――って、待って。アルト、ギルドの仕事はいいの?」
自然にアルトが店を手伝う流れとなっていたので、突っ込んだ。
今日は休日だ。アルトはギルドの仕事もあるのではないのかと。シャーロットは確認することにした。
「だって。シャーリーが無理するなって」
「え。いや、言ったけど」
「なんてね。俺、深夜のクエストいってきたから。もう、休んでいいかなって。だから、今日はギルドの仕事はお休み」
「そうなんだ。って、結局休めてないじゃない!」
アルトは夜勤でギルド仕事をやってきたようだ。終わらせた分、彼のオフ日となった。それでやるのが、シャーロットの店の手伝いだった。と、シャロットが思いを巡らせている内に。
「アルト、もう行っちゃったぜ?」
「早っ」
アルトはつまり寝てないことになる。徹夜だからああもハイだったのか。
「……シャーロットちゃんさ。俺らいつものだからさ。ちゃっちゃと済ませてよ。で、あいつ追っかけてやんな」
「あの、すみません」
いつもは客は世間話で長く滞在することが多い。それを今日は無くして、アルトを追いかけろといってくれた。
「いいんだって。アルトが、俺達とこの店をつないでくれたもんだしな」
「はい、その通りだと思います」
シャーロットは心から思っていた。消極的なシャーロットに代わって、店の宣伝を行ってくれたり、紹介してくれたりもしていた。力仕事も店に訪れた際に、やってくれたりもしていた。
アルトがこうして、尽力してくれたからこそ。シャーロットは店をやっていけてもいた。
気の良い彼らは購入後、退店していった。シャーロットは戸締りをして、アルトを追うことにした。
アルトが向かっていったのは、清らかな水が流れる川だった。店の裏手から近いこともあり、追いつくのはあっという間だった。
「あれ? 店どうした?」
アルトはバケツどころではなく、どこから持ち出したのかた水用タンクまで抱えていた。それらを軽々と持っていた。
「皆さんのご厚意に甘えて、いったん閉めてきた」
「えー? 迎えにきてくれたのー? でもさぁ」
アルトは満更でもなさそうだったが、眉も下げていた。
「店、閉めなくても良かったんだよ。ちゃんと店のこと大事にしてんだからさ。俺、そこはわかってるから」
「アルト……」
彼はいつもそうだった。何かにかこつけては、シャーロットの店にやってはくる。それでも、邪魔をするわけではなく、他の客がいたら下がる。
「アルト、本当にありがとう。君こそ、店のこと思ってくれてるんだって。アルトがいたから、ここまでやって来られたんだよ」
シャーロットは感謝の気持ちを伝えた。店のこともそうだが。
「アルトの明るさにも助けられてる」
社交的なアルトを通して、シャーロットは多くの人と出逢えた。彼の明るさにつられるように、やっと笑えるようになったのだ。
前世の時のドス黒い感情とは違う。アルトは大切な幼馴染だ。妬み嫉みや自己嫌悪に陥ることもない。温かい心をもたらしてくれる相手でもあった。
「……いまいち、伝わってないのかなぁ」
あさっての方向を見ていたアルトは、ぼそりと呟いていた。
「……まあ、いいか。でさ、シャーリー? なんで追いかけてきたの? なんでなんで?」
「なんでって。アルト、徹夜したんでしょ?寝てないんじゃない」
「いや、軽く仮眠はとってきたし。全然大丈夫」
「全然大丈夫じゃない。一旦寮に戻った方がいいよ」
アルトは学生寮で暮らしている。名門の寮だけあって、立派な造りだ。そこなら十分に休める。
「えー、また戻るの? 山の上まで? 徹夜明けで可哀そうな俺に? シャーリーは可愛い顔して鬼なの?」
「くっ……」
彼が言う通り、歩いて戻るとなるとそれなりの距離になる。
「そこは頑張ってもらうしか」
「わあ、ここで根性論。……ねえ、シャーリー?」
アルトの方からやってきた。シャーロットに目線を合わせる。しかも、うるうる涙目だ。
「俺、シャーリーと一緒に休日過ごしたくて。それで、徹夜ハイになりながら討伐終わらせてきたのに。夕飯のメニューとか張り切って考えてきたのに」
「くっ」
「シャーリーは、俺の事金ヅルとしか見てないの? うう、だから買い物したら帰れ、なんだ」
「う……」
大柄な男がしょげている。シャーリーまでもがいたたまれなくなっていた。
「……部屋のソファ貸すから。せめてそこで休んで」
「わあ、シャーリーのお部屋!」
アルトはしょげ顔はどこへやら、一気に顔を華やがせた。
「ごめんね。客間とかあれば良かったんだけど。せめてお布団もう一組とか」
「気にしないで? 俺、家具とか自作するし。シャーリーのも作りたいし。ほら、ベッドぼろいとか言ってたじゃん……? ベッドとか、作るしかないじゃん……?」
「気持ちは有難いけど。アルトに負担かけすぎかなって」
「シャーリーがつれねぇ……。あと俺の部屋発言、スルーされたぁ……」
アルトは世知辛さを嘆くも、気を取り直した。
「とりあえず借りるね。夕方くらいになったら、起こしてくれる?」
アルトは荷物を抱え直すと、欠伸をした。寝ると決めたからか眠さを隠さなくなったようだ。
「わかった。それにしても、徹夜ハイか。だからテンション高かったの?」
アルトが彼女を誉めまくるのはいつものことだったが、今朝はいつにも増してすごかった。徹夜明けのテンションというなら、合点がいく。
「……通常運転じゃない?」
アルトはただ、そう答えた。
「そう?」
「そうだって! つか、俺がシャーリーのこと、可愛いとか。大好きとか。早く結婚しよ、とか! いつも言ってんじゃん! 無風だけど!」
「あはは……」
シャーリーは笑うしかなかった。アルトは言うだけで何かをしてくることもない。関係が進むこともない。周りの女子にも可愛いと言っているのは目撃もしていた。
「笑ってごまかされたし。……はあ、シャーリーの激ニブさんめ」
「もう、またそういうこという」
「こっちが、もうって言いたいよ……」
うだうだしている彼の背中を、シャーリーはぐいぐい押すことにした。
「あれ、シャーリーったら。押してくれるの?」
「なんか、動かないから」
「……ふふ、そうそう。ほら、もっと力入れて――」
「アルトォ……?」
アルトはわざとらしくその場に踏みとどまろうとしていた。シャーロットもムキになって押していく。二人はちんたらちんたら歩いていった。
店に戻った頃には、またしても待っている客がいた。
「すみません! すぐ、お店開けますから」
「あらぁ、いつも仲良しさんねぇ」
「ははは、楽しそうだなぁ。睦まじいのは結構なことだ」
客たちは気分を悪くすることもなく、むしろ初々しい二人を微笑ましく思っていた。傍からみればそうだった。じゃれ合っているも同然だったのだ。
「そうそう、もっと言って。もっと言って!」
「はいはい。家入っててねー?」
やけに興奮しているアルトを、落ち着かせることにした。シャーロットは彼をさっさと押して家の中に入れた。
「すみません、二階いかせますんで」
「シャーリー、つれない!」
早く二階で大人しくしていて欲しいところだが、アルトはそうはしない。それどころか、客と雑談を始めだした。それから、勝手に紅茶まで用意していた。つまり、彼に寝る気はない。
「アルト、寝てなよ」
「今、盛り上がってるんですー。シャーリーの頼みでも聞けませーん。――でさでさ、その後どうなったの?」
アルトは雑談を再開した。とことん寝る気はないようだ。ここから別の客がやってくると、さらに盛り上がっていく。アルトがよく盛り立てていた。
アルトがいると明るい。皆が笑う。シャーリーにとって大切でいて、憧れずにもいられなかった。
「……」
アルトは会話の最中も、シャーロットの方を見たりもしていた。彼女の作業を見守るかのような、そうした視線だ。たまに目が合うと、アルトは実に嬉しそうに笑んでいた。
「……」
シャーロットは落ち着かなかった。そうされると、本当に勘違いしてしまいそうだと。
アルトや客たちが長々と居座り、客が客を呼ぶ。その日は盛況な内に終わった。




