表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/532

自治委員会との接触開始。

いつもありがとうございます。

すみません、今回区切るところの見極めが難しかったため、長めです。

「失礼する。モルゲンだ。入ってもいいか?」

 部屋の前で、モルゲンがノックをした。在室なのは二人はわかっていた。

「あら、モルゲン先生? ――ひとまず、向かわせますわ」

 そう、わかっていた。この声は、お目当ての令嬢によるものであり。そして、扉を開けさせたのは、――彼女の側近である人物なのだと。

「ごきげんよう、モルゲン先生。――そちらのご婦人は、編入生の方でしょうか」

 女子生徒の指示により、出迎えてくれたのは理知的な男子生徒だった。若干短めの前髪を斜めに流したこげ茶の髪に、切れ長な目が印象的だ。端正ながらも感情が読み取れない無表情な彼は、無機質な印象を人に与えていた。

 迎え入れたこの生徒も、奥にいるであろう委員の長も。委員会特有の制服を纏っていた。詰襟タイプで厚手素材のものだった。ズボンとスカートとで下半分のデザインは分かれていた。

「業務中に悪いな。お前に紹介したい子がいてな。明後日から、うちに通うことになった編入生だ」

「ええ、存じてます。初めまして、選ばれし方? わたくしは、シェリア・カイゼリンよ」

 内向きに巻かれた髪は肩くらいの長さだ。華やかな顔立ちに強い眼差しの女生徒。彼女は玉座そのものの椅子で優雅に構えていた。女王たる態度だ。

「……」

 ただ、それだけではないことをシャーロットは知っていた。朗らかで、表情豊かで、犬にメロメロなことも知っている。彼女は、汚れきっていたリッカをも躊躇なく抱きしめてもいた。

 シャーロットのこともそうだ。自分の荒唐無稽な提案も、生徒の為なら。また、女神の信仰の為ならばと。力になってくれた寛容な面も知っている。

 シャーロットはとても思えなかった。このような人が。――殺されることになるとは。

「シャーロット」

「……すみません」

 ぼうっと見ていたことを、モルゲンにこっそり指摘された。態度があからさまだったかもしれない。

「……」

「……」

 シャーロット達の傍らにいる、側近・補佐でもあるこの男。妙に鋭い男だ。今もこうしてシャーロットを見ていた。長身であるアルトよりも、若干高い彼はシャーロットを完全に見下ろす形となっていた。

「……」

「……」

 男子生徒はまだ見ていた。シャーロットは落ち着かない気持ちのまま、自己紹介をすることにした。

「初めまして。私はシャーロット・ジェムと申します。よろしくお願いいたします。――カイゼリン様」

 シャーロットは深々とお辞儀をした。と、同時にこれでよしと満足そうだった。

 側近の男に強要されたのだ。『カイゼリン様』と呼ぶようにとだった。シャーロットとしても、同じ注意はされたくはなかった。これなら前のように、執拗に言われることもないと。そう考えていた。

「――シェリアさん、でよろしいかと」

「え……?」

「親しみを込めた方が喜ばれます。……私は、敬意を込めてカイゼリン様と呼ばせていただいておりますが」

 シャーロットが顔を上げた矢先、彼はそう口にした。シャーロットもそうだが、モルゲンも口をあんぐりとさせていた。言っていることが、前と違うからだ。

「わたくしはどちらでも構わなくてよ? 彼の言うことはお気になさらないで?」

「かしこまりました。……では、カイゼリン様と」

 シャーロットの返しはこうだった。

「……」

 口出ししてきた男からの視線が痛い。シャーロットはその圧に屈しそうになるも、引き下がることはなかった。彼女は自分でもわからなかった。この男の言う通りにするのも、なんだか癪でもあったのだ。

 この男は、自分のことを良く思ってないだろう。シャーロットはそう思えてならなかった。繰り返しの日々の中で、シャーロットのことをいつも鋭い目つきで見ていた。シャーロットのとる行動にも納得がいってないかのような、そんな感じだった。

「おいおい……」

 モルゲンもモルゲンで見ていて心配だった。彼女らしからぬ振る舞いだったのだ。

「リヒター? 貴方、彼女とお知り合いなの?」

 カイゼリンが訝しげに男に尋ねていた。彼女もらしくないと思っていたようだ。

「……いえ、初めてお見かけしましたが。カイゼリン様、どのような意図でしょうか」

「意図もなにも。いえ。そのような気がしただけよ。わたくしの気のせいですわね」

「ええ、そのようですね」

 男は一定の調子で答えた。普段通りね、とカイゼリンは質問を無かったことにした。

「失礼、彼はリヒター。わたくしの補佐を務めてくれているの。本日は休日ですから、わたくしとリヒターのみよ」

「そうなのですね。本当にお疲れ様です」

 シャーロットは素直に尊敬した。トップは休日返上なのに、部下たちは休める時は休ませているのだ。労いたい気持ちだった。

「ええ、ありがとう」

 カイゼリンも微笑んだ。

「――で、リヒターは苗字な。俺もこいつに限っては苗字で呼んでいる」

 モルゲンは何を思ってなのか。リヒター本人が説明するはずのものを、モルゲンが先にそうしていた。

「承知しました。リヒターさんもよろしくお願いしますね」

「……」

「……リヒターさん?」

 リヒターは思案しているようだったが。

「はい、リヒターは苗字です。そちらでしたら、お好きにお呼びください。呼び捨てていただいても構いません」

「……はい、その、慣れましたらで」

 シャーロットは思った。カイゼリンの呼び方の件も、今となってはそこまで反発する内容でもなかった。これ以上、彼に反発することもないだろうと。ここは、大人しく従うことにした。慣れたら、ではある。。

「何故ですか」

「……え」

 何が何故なのか。聞きたいのはシャーロットだった。

「慣れるとは、どういったことでしょうか。ただ、呼び捨てればよいだけの話ではありませんか。何を慣れる必要があるというのでしょうか」

「そ、それは……」

 リヒターが矢継ぎ早に訊いてくる。シャーロットはたじたじだ。

「何故でしょうか」

 まだ訊いてくる。シャーロットは観念して答えることにした。しどろもどろになりながら。

「……人様を呼び捨てにするのは、ハードルが高いから、です。男の人なら、もっとです」

 恥ずかしさと緊張で上手く答えられたのか。シャーロットは自信がない。あの幼馴染でやっとなくらいだった。ほぼ面識のない、苦手意識のあるこの男ならハードルはかなり跳ね上がる。

「……」

「……」

 リヒターは何も言わない。シャーロットはもう、心の中でギブアップしていた。自分のようなコミュ障が相手できる存在ではないと。

「リヒター? 強要するものではなくてよ。好きに呼ばせてあげなさいな」

「大変失礼致しました、カイゼリン様」

 リヒターは恭しくカイゼリンに頭を下げた。

「……おいおい、リヒター。謝る相手、他にもいるだろ。散々絡んでおいて」

 モルゲンが怒り気味に言っていた。

「あの、モルゲン先生。大丈夫ですから」

「だけどなぁ?」

「平気です」

 その気持ちは有難かったが、シャーロットは平気と答えておいた。

「そうですね。私が重く考え過ぎていたんです。軽い気持ちで呼べばいいんですよね。ですよね、リヒター?」

 これで解決だと、シャーロットは無理をしてみた。

「リヒターさんで結構です。無理が見え見えで痛ましいものですから」

「……はい、リヒターさん?」

 シャーロットとしては相当頑張った方だった。結果がこれだった。彼女は青筋を浮かべながらも、元の呼び方に戻した。

「ここらで失礼するか。じゃあ、邪魔したな」

「あら、お帰りになりますのね。ごきげんよう。――リヒター、送って差し上げて?」

 カイゼリンがリヒターを遣わそうとしていた。

「いや、いいよ。遠慮しておく」

 モルゲンのいつもの断り文句だ。これで、二人で退室。これがいつもの流れだった。

「いえ、お送りします……カイゼリン様の命ですから」

「ええ、そうよ。ほほほほほほほほほほほ」

 殊勝なリヒターに気を良くしたカイゼリンは、高らかに笑っていた。実に気分が良さそうだった。そんなカイゼリンに、リヒターは仕える者としての姿勢を見せていた。

「まあ、送ってくれるってなんならな。じゃあ、リヒターも来いよ」

 それでいいかと、モルゲンも言う。リヒターも連れ立って帰ろうとしたが。

「――失礼ながら、モルゲン先生。近頃、あなたの態度が問題視されております」

 そのリヒターからの指摘だ。カイゼリンも同意している。

「え」

「え」

 モルゲンもそうだが、シャーロットも反応してしまった。

「女生徒、特に初等部の生徒相手に親密な態度をとられていると。気軽に接触しておられるとか」

「いや、特にってなんだ。スキンシップをしているのは、さすがに初等部までだ。それも、男女分け隔てなくだ!」

 モルゲンは誤解されている部分をきっちり修正していた。

「これは失礼致しました。ただ、お忘れなく。スキンシップ、とやらでしょうか。していようがいまいが、なのです」

「ええ、わたくしたちも存じてはおります。先生が生徒を想ってのことではあると。それもあって、幼い生徒達の心の支えにもなってはいると。ですが――」

「何事にも限度がございます。現に、初等部でも争いが勃発しております。――モルゲン先生、争奪戦でございます」

 リヒターとカイゼリンの息はぴったりだった。生徒である彼らが、教師であるモルゲンをじわじわと追いつめていく。正当性は自治委員会にあった。

「生徒のトップたる者として、見てはいられませんもの。今後、気安い接触はお控えいただけるかしら――シャーロットさんに対してもですわよ?」

「ぐっ」

 トドメはカイゼリンによるものだった。

「な、なんてご時世なんだ……。現実は辛いな……」

「先生……」

 シャーロットはモルゲンを見た。こうやって、数多の生徒を誤解させてきたのかとも思いもした。

「……まあ、いい。俺は、ただ帰り道を帰るだけだからな。方向も同じなだけだ。なあ、シャーロット」

「……ええ、そうですよね。同じ方向ですし」

 この時点で流れは変わっていた。いつものカイゼリンジョークもなく、リヒターに送られることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ