今回の面談室会議②―令嬢殺害事件。
どのみちシャーロットの取る道は決まっていた。彼女は伝える。
「――私、入学することにしました。その方が探りやすいと思いまして」
「……わかった。危険なことだけはするな、と言いたいところだが。せめて相談してくれよ。な?」
「……はい。よろしくお願いします」
一人で乗り越えられるわけではなく、難しいことでもあった。力を合わせてなら乗り越えられる。シャーロットは素直に承諾した。
「よし。いい子だ、シャーロット――」
「はい、セクハラ阻止」
「おい、セクハラって。……いや、アルト?痛いんだが?」
この流れで頭を撫でようとしたモルゲンを、すかさずアルトが止めた。モルゲンの腕を強く掴んでいた。アルトの目は据わっていた。
「だめだめ、絶対にだめ。別にさ、他の子らにやってもいいけどさ。知らんし。この子はだめです。この子に対しては、完全にセクハラです」
「なんだそれは……」
自分だけが何故と、モルゲンは納得いかなかった。
「いや、あんた教師でしょ」
アルトが正論で返した。
「はあ、アルトはいいよな。お前は頭撫でてもらってたっけか?はあ、幼馴染は気楽だよな。幼馴染はな」
「ちょっと、モルゲン先生……」
確かにシャーロットはアルトの頭を撫でたことはあった。アルトの要求によるものだ。彼女としては蒸し返さないで欲しかった。
「は? ……え、また、覚えてないこと?」
動揺したアルトの力が弱まった。モルゲンは手を軽く払った。その流れで彼女を撫でることはしなかったが、面談室の扉を開けた。
「行くんだろ? 自治委員会。付き添うぞ」
「はい、お願いします」
モルゲンを介してなら、話も色々と通りやすいだろう。シャーロットは頭を下げた。
「はあ、いってら。リッカとお留守番してるわ。あ、でも。兄貴は先行ってて」
「どうしてだ」
「リッカのことで話があるんだよ。ほら、行った行った」
「……なんなんだ。職員寮の外で待ってるな」
モルゲンの退室を確認すると、アルトがリッカを抱え込んだ。彼の話は何かと緊張するシャーロットと、アルトの部屋行きで緊張しているリッカ。アルトだけが飄々としていた。
「こいつのトイレ事情の話、しときたくて。リッカ、なんか緊張しっぱなしでさ。ここで、ようやくした」
「ここでって。……なるほど」
リッカは面談室で致したようだ。
「ごめんなさい。ここ、シャーロットの匂いがして、安心して……」
当人は気まずそうに目をそらしていた。シャーロットは怒ることはしなかった。緊張したというのもあるのだろう。
「そっか。次、気をつけようね。でも、そうだね。場所とか決めてなかったな」
シャーロット家だと、リッカの申告で外に出してさせていた。
「うん。次はちゃんとお外でする。学園でもそうする」
「うん、そうしようね」
次に期待して、シャーロットはリッカをなでなでした。
「……アルトのお部屋は、我慢する」
「我慢しなくていいっての。リッカ、即席だけどトイレ用意するから。そこでするよう、覚えような?」
「……うん」
リッカは頷いた。リッカのトイレ問題は片付いた。アルトの話はこれで終わりかと思ったが。
「あと、シャーロット。なんか言わないのもだから、言っとくね。――兄貴、独身だから」
「……え」
「なんかー。薬指チラチラ見てるからー。俺としても面白くはないけどー。あ、ちなみに相手は知りません。そのうち、親にでも紹介するんじゃない?」
知らんけど、とアルトはどうでも良さそうにいった。アルトにとってはどうでもいいこと。自分だってそうだと、シャーロットはそう考えた。結局はお相手がいるということだ。それ以上でもそれ以下でもないと。
「……うん。教えてくれてありがと。同じ薬指に指輪ある者同士、どうしても目についちゃって」
「あー、それね。……呪いとかは、もう言わないけど。謎だよね」
シャーロットにもある、左手の薬指の指輪。生まれた時からあるものだった。成長した彼女の指にもジャストサイズにはまっている、謎は謎の代物だった。
「じゃあ、そんなとこだけど。ああ、行かせたくねぇ……。でも、大事な話なんだよなぁ……」
アルトはリッカを盾にして、シャーロットに行ってとお願いした。去りゆくシャーロットを彼は見ないようにしていた。
「う、うん。またね、アルト」
「はい、またね来た! また、明日だー!」
「まあ、そうだよね。リッカを女子寮に連れていかないと」
「そうそう。それから俺とデートだー!」
明日会うのはわかる。シャーロットはリッカを迎えにいく必要があった。そこからデートまでアルトはこぎつけてきた。確かに大抵はアルトに学園を案内してもらうパターンだったが。
「明日、女子寮に迎えにいくからー」
「う、うん……?」
アルトの中で決定事項のようだ。シャーロットはというと、反対することもなかった。
「アルトと一緒にお散歩だね」
「うん!」
シャーロットの言葉に、リッカは嬉しそうに頷いた。
「あれ? 俺、華麗にデート回避された……?」
明日は休日。授業が始まるのは、明後日からだ。リッカとの時間も減る。束の間の休日を楽しむことにした。
「お待たせしました、モルゲン先生」
教職員寮の外で、モルゲンが待機していた。雲が流れるのを見ていたモルゲンは、シャーロットの方を向く。
「いや、全然だ。――アルトがよく解放してくれたな」
「……。アルトもわかってくれてますから」
モルゲンに故意はないのだろう。彼も何かを考えてそう言ったわけでもないのだろう。それでも、シャーロットはドキッとしてしまった。
「この後、吹雪くんだよな」
「……はい」
これだけ晴れているのに、この後天気が大荒れになる。そう、モルゲンも。シャーロットも知っているのだ。――この日を迎えたことがあるから。
「不思議だよな。なあ、シャーロット。また……始まってしまったな」
「……ですね」
ようやく訪れた平穏の日々も、今は遠ざかってしまっている。また、大切な人を失う日々の始まりだ。
「心配するな。俺がついている」
「!」
シャーロットの頭をぽんぽんと叩くと、モルゲンは笑った。
「ああ、今のな。アルトの前でやったのが、悪かった。あいつ、妬くしな」
「……いえ、アルトの前とかでもなくて。私としても」
シャーロットとしても、困るものだった。されて嫌ということもないが、かといって、大喜びかというとそれも違う気がしていた。複雑、シャーロットの心境はその一言に尽きた。
「ああ、すまなかった。今のご時世厳しいしな。撫でるのは控えるか……」
「そうですね」
モルゲンが控えるというなら、シャーロットもどうこう言うこともなかった。
二人が向かうは、本校舎にある彼らの活動本拠地だ。そこに、――シェリア・カイゼリンも待っているだろう。




