今回の面談室会議①―令嬢殺害事件。
「すっかり待たせちゃったな」
外の売店にも寄って、シャーロットは男子寮に向かうことにした。
「……男子寮」
シャーロットは緊張するも、これ以上待たせるわけにはいかない。勇気を出すことにした。彼女は寮の呼び鈴を鳴らすことにした。
「……」
以前に男子寮を訪れた時は、話しやすい男子がいた。シャーロットは願わくば彼であるようにと思っていたが。
「わ、女子だ」
「まじだ、女子だ」
「どうしたの?誰か呼ぶ?」
ぞろぞろと寮生達がやってきた。シャーロットは男子の襲来に硬直した。が、今は自分しかいない。
「あ、ありがとうございます。アルト・モルゲン君です。知り合いでして、挨拶に来まして」
「……」
「……」
「……」
今度は男子達が固まった。彼らにとっては、あのアルト・モルゲンの知り合いの登場だった。しかも女子である。学園でのアルトの態度は、シャーロットも存じている。彼らがこうなるのも無理がなかった。
「……いや、行くわ俺。つか、普通に興味あるし」
「俺も。つか、知り合いってよりは、彼女――」
「やめろって。じゃ、ちょっと待っててね」
彼らはぞろぞろとアルトの部屋へと向かっていった。度胸試しともいえた。
「すみません……」
シャーロットは彼らの帰りを待つことにした。待っている間も、他の寮生から興味津々といった視線が集まっていた。シャーロットは会釈はしておいた。
「……」
待っている間、シャーロットの頭によぎったのはリッカの存在だ。アルト自身もそうだが、犬連れならもっと話題になってもいいはずである。まさか、と彼女は思った。
「――お待たせ。いやぁ、モルゲン弟いなくてさ」
「わかりました。ありがとうございました」
アルトは男子寮には戻ってないようだった。リッカを連れたままである。となると、もう一つの心当たりがある。そちらの可能性が高そうだった。
頭を下げたシャーロットに、彼らは手を振って見送ってくれた。気の良い男子達だった。
学園の南方にあるのは、教職員寮だ。他の建物が立派なのに比べて、良く言えば質素な造りだった。悪くは言わない。
「失礼します。どなたかいらっしゃいますか?」
玄関口に管理人室はあったが、不在だった。シャーロットはもう一度失礼しますと言って、入っていった。
すぐ近くにあるのが面談室だ。シャーロットはノックする。
「失礼します。シャーロット・ジェムです」
「シャーロット!」
「早っ」
秒でアルトが扉を開けてくれた。その早業にシャーロットは驚いていた。
「アルト、扉の近くでそわそわしてた。おかえり、シャーリー!」
「ただいま。おりこうさんだったねー」
リッカも出迎えてくれたので、シャーロットは抱っこした。
「いやあ、リッカいなくちゃきつかったわぁ。……こいつと二人とか」
「そういうこと言うなよ。俺達、兄弟だろうが。――っと、お疲れ様。シャーロット。学園長直々に対応してくださったようだな」
奥側の席で、男性が立ち上がる。落ち着いた大人の男性の声が、シャーロットを労わってくれていた。
見た目はウエーブがかった黒髪を真ん中に分けている、けだるげで退廃的な見た目の男性。その中身は気さくで、生徒思いで評判の教師だった。生徒を名前で呼ぶのが彼のモットーだった。
彼はアインスト・モルゲン。この学園の教師で、アルトの兄でもあった。――シャーロット達同様、記憶を引き継いでもいる。
「はい。校内も案内してくださいました。遅くなってすみません」
今となってはの話であるが、シャーロットは彼に片桐の面影を見ていた。今でも、彼と片桐が重なるところがあるが、無関係だと彼女は結論づけていた。ただ、気にしてしまうことはある。
モルゲンの左の薬指にもあるのは、指輪だ。約束された相手がいるということ。シャーロットは、どうしても気になってしまう自分に嫌悪した。
「……」
そんな彼女をアルトが見ていた。シャーロットが気づく前に、彼から会話を切り出した。
「とりあえずさ、兄貴と話は済ませておいたから。俺も覚えているって、言っといた。協力もするって」
「……そっか」
待っている間、アルトの方で話を進めておいてくれたようだ。モルゲンはというと。
「……兄としちゃ、複雑だ。俺でもきついんだぞ。お前にも耐えられるのかって」
「今更だし。俺は何も出来ない方が嫌だ。つか、散々話したでしょ」
「……そうか」
弟の固い決意に、兄であるモルゲンはそれ以上言うことはなかった。
「アルトの方はわかった。――で、今回の件についてだな」
「……はい」
アルトもそうだが、モルゲンもそうだ。前回の放送は聞いている。被害者の名前は――。
「シェリア・カイゼリン様ですね」
「そうだ」
シャーロットの発言に、モルゲンも頷いた。この学園の生徒であり、自治委員会のトップ。彼女が今回の被害者となる。
「……そうだ、アルト。モルゲン先生もですね。教えてください。私の放送の時、共犯者がどうこう言ってました。共犯者が誰かさえわかれば――」
わざわざ無実のシャーロットの名前は出したくらいなのだ。ここで、共犯、いや真犯人であろう名前が出ないのはおかしいだろうと。
「……それが、さあ」
「……それが、なあ?」
兄弟は顔を見合わせた。説明することにしたのは、モルゲンの方だった。
「それがなあ?お前の名前だけ。相手の名前は出してないんだよ。……ふざけた話だ」
「……なんだかねぇ。お偉いさんとかで?もみ消されたりとか?」
不都合なものを隠したといったところか。ここで確認が出来れば有利だったが、そうはいかなかったようだ。




