学園のアイドル、撮影中。
「うう、流されていたかも……。なんとか、なんとか……」
シャーロットは己の自制心を誉めながら、学園の廊下を歩いていた。出口となる玄関口に向かっていたのだ。
「……」
図書委員のエミルまで落ち着いていたのに、聖女と謳われるクラーラで一気に空気が変わった。この学園はどうしたことか。
「……?」
玄関先で、男女の人だかりが出来ていた。シャーロットが通ろうにも、そうはいかなかった。
「あの、すみません――」
シャーロットは謝って通ろうとするも――。
「――すみません、じゃないっての。あんたの声が入ったじゃないのよ!」
愛らしくもカン高い声でもあった。その声の主は、人だかりの先にいる少女だった。
「わあ……」
シャーロットは目をぱちくりとさせた。これはまたもの凄い美少女がいた。
黒いツインテールの髪に、大きな目は睫毛は増し増し、唇もぷっくり艶やかだった。自身の可愛さがわかっているうえでの、完成度の高いメイクだった。
彼女は制服を着ているようだが、既存のものからはかけ離れている。フードやフリルまでつけたアレンジしまくりのものだった。
「もう、やり直しだわ!」
一人の男子生徒が撮影用の小型装置を彼女に向けていた。声入りの映像をとっていたようだ。囲んでいる人達は、取り巻きや見学客のようだ。
「その、お邪魔して申し訳ありませんでした」
邪魔をしたのなら悪いことをしてしまった、その気持ちは本物だった。シャーロットはお詫びをした。
「……ま、いいけど。よしとしてあげる。『リナ』は優しいから。わかったら、大人しく見てなさいよ」
「はい、気をつけます」
「ふふん。――最初から、おねがーい」
気を取り直したのか、彼女達は撮影を再開した。シャーロットもこの撮影が終わるまでは、大人しくしておくことにした。
「はい、てっしゅー! 次は、リナが廊下を歩くシーンよっ」
女生徒の一声で、集団はずらずらと歩いていく。集団は彼女のファンであり。先頭を歩くこの少女は、さながらスーパースターのようだった。
「……すごかった」
最初はただの見物人だったシャーロットも、見ている内に彼女の表情などに目を奪われるよ
うになった。冬花の頃の、アイドルに対する情熱が蘇るようだった。
「……うちのがすみませんでした」
「!」
呆けていたシャーロットは声を掛けられた。撮影係だった男子生徒だった。あの煌びやかな少女の側にいるのにふさわしい、整った顔立ちの青年だった。
「邪魔していたの、こちらでしたよね」
彼は撮影による通行止めの件を詫びてきていた。それも確かにそうだが、中断させてしまったのはシャーロットでもあった。
「いえ、こちらこそすみませんでした」
シャーロットの方からも謝った。青年は色々と気遣ってくれているようだ。
「お気を悪くされたと思いまして。見ない顔ですが、編入生の方でしょうか」
「はい、そうです。……あちらの方、有名人なんですね」
あれだけの容姿、アイドル性。さぞ学園の人気者だろうと。シャーロットはそうとらえた。
「はい、『リナ・ゼンガー』です。もちろん、彼女も学園では有名ですが。あのゼンガーの娘ですから」
「ゼンガーって」
世情に疎いシャーロットでも、耳にしたことがある名だった。この国の有名な人だからだ。――ゼンガー氏は国民的な歌手だった。
「ちょっとー、何してるのよー!」
「リナは決して悪い子ではないんです。それもお伝えしたくて。――ごめん、リナー! すぐ行くからー」
遠くで少女が呼んでいる。シャーロットに説明していた青年も会釈をし、彼女の元へと走っていった。
「有名歌手の娘さんまで……。こう、すごいところに来ちゃったんだ」
シャーロットは立ち眩みをしそうになった。すごいところに自分は入学をしてしまったのだと。
「これこそがブルーメ学園」
一部であろうと、シャーロットはこの学園のことを知ることができた。あとは――。
「……カイゼリン様も、すごい方なんだよね」
学園の秩序を守る生徒主導の組織。『自治委員会』の長にして、カイゼリン財閥のご令嬢。――シェリア・カイゼリン。その人こそが、シャーロットの入学の決め手でもあった。




