クラーラお姉様との昼食会。
いつもありがとうございます。
今回、若干百合描写があります。
苦手な方は飛ばしていただくか、スクロールでお願い致します。
学園長の学園案内も終盤を迎えた。残りは食堂とテラスである。
「お楽しみのランチタイムといえば、ここなのじゃ。本日は休みじゃがのう、外の売店は営業中なのじゃ。――お」
学園長が前方を見た。シャーロットもつられて見る。
テラスの方に先客がいた。華やかな女子生徒の集団だ。その中心にいるのが、肩くらいまでの黒髪に、艶やかな女生徒だった。周りにいる少女達は、目をハートにして中心の女生徒を取り囲んでいた。
「……」
その姿を見ての、シャーロットの率直な感想はこうだ。――ハーレムのようだと。いや、逆ハーレムというべきか。
「おお、楽しそうじゃのう。新しい生徒を紹介するぞい」
「楽しそうって……」
学園長は呑気だった。楽しそうは楽しそうである。だが、この昼間から。この怪しげな雰囲気を楽しそうで片付けていいのだろうか。シャーロット一人が、この場に疑問を抱いていた。
「――あら? 学園長、ごきげんよう。そちらのお嬢さんは、どちら様でしょうか?」
中心の女生徒が立ち上がり、取り巻きの少女達は残念がる。
「ふぉふぉふぉ。君と同じ、編入生の子じゃよ」
「初めまして。シャーロット・ジェムと申します。よろしくお願いいたします……!」
どうしたことだろう。シャーロットは妙に緊張してしまった。逆ハーレムの中心である彼女が、こうして目の前に立っている。近くで見ると、より際立つのが彼女の持つ色香だ。
「ええ、初めまして。シャーロットさん? 私は、クラーラ・メーディウムよ。あなたと同じ編入生。もう、三年生になるけれどね?」
遅いかしら、と彼女は笑った。シャーロットは首を振った。
「いえ、学ぶことに遅いということはないかと」
「あらそう? 嬉しいこと言ってくれるのね」
女生徒、クラーラは微笑んだ。シャーロットは当初、彼女のフェロモンにドギマギしていたが、話しやすそうな人で安心していた。
「おお、仲良さそうで安心じゃわい。シャーロットさん、その子は『聖女』と名高い子じゃ。君にもよくしてくれるじゃろうて」
「学園長ったら。名ばかりのものですよ?」
「ふぉふぉふぉ、謙遜しなさんな」
聖女。この妖艶な女生徒が。しかし、シャーロットは腹落ちした。包容力がありそうといえば、そうだった。何もかも受け入れてくれそうな、包み込んでくれそうな豊かさをもっていた。
「いえいえ、私はいたって普通の女ですから」
普通とは。シャーロットは問いたくなっていた。
「せっかくだもの。シャーロットさん、一緒にお昼食べません? ……多めに作ってきてしまってね。私達だけでは、食べきれないの」
「嬉しいです。いいのでしょうか……?」
シャーロットは女子からの誘いに心が踊った。といって、遠慮する気持ちもあった。この怪しげながらも楽しい空気を悪くしてしまわないかと。
「ええ。あなたが嫌でなければぜひ」
「それでしたら、喜んで。ありがとうございます。ごちそうになりますね」
シャーロットが快諾すると、クラーラ嬉しそうに微笑んだ。
「では、私はそろそろお暇するかのう。楽しかったぞい」
見届けた学園長は、業務にも戻るようだ。
「はい、私もです。お忙しい中ありがとうございました」
「ふぉふぉふぉ」
お辞儀をしたシャーロットに、学園長は手を振りながら去っていった。これで、学園長による案内は終了した。
「……お昼。あの子たちにも」
気になるのはリッカとアルトだったが、部屋でゆっくりしてくれているだろう。あとでお土産でも買っていこうと、シャーロットは女子ランチに参加することにした。せめてと、シャーロットは財布を取り出した。
「みなさん、お好みはありますか?」
以前、モルゲンがこの自販機のようなもので奢ってくれていた。シャーロットは迷うことなく硬貨を投入していく。
「……あら」
まじまじと見ているのは、クラーラだ。やたらと見ていた。それから、笑った。
「気を遣わなくていいのよ?私が淹れたお紅茶もあるの。あなたにも味わってほしいわ。……ね?」
「!」
彼女は近くにやってきて、後ろからシャーロットの両肩に手を置いた。クラーラは耳元で囁いた。
「――不思議な子ね。こちら、ご存知だったの? 私、学園に来てから初めて使ったのよ?」
「……それは」
シャーロットもこちらの世界ではそうだった。前世の知識があったのと、モルゲンが使っているのをみたから。だから扱えたに過ぎない。クラーラからの指摘にどう答えるべきか。
「私が暮らしていた地域ではありまして。学園から遠くにあるのと、今もあるのかわかりませんが。試作品だったのでしょうかね?」
「あら、そうなの。羨ましいわ。あると便利なのよね」
その場しのぎの嘘だ。幸い、クラーラがこれ以上追究してくることはなかった。
「さあ、こちらへどうぞ」
「はい、失礼します」
クラーラに手をとられ、シャーロットはテラスの方へ足を運ぶことに。
「……でも」
迎えるは、クラーラを慕う少女達だ。良く思われないだろうと、シャーロットは覚悟していたが。
「あら、素敵なお姉さま。綺麗な髪ね」
「ふふ、困惑してらっしゃる。可愛らしいこと」
少女達は微笑みながら歓迎してくれた。そこに妖しさを漂せつつも、シャーロットのことを招き入れてくれた。
「新入りさんですもの、あなたはこちら。特別よ?」
「……」
クラーラが促したのは、二人掛けのソファだった。そこは某教師に騙し討ちという形で、座らせられた過去がシャーロットにはあった。気持ち遠慮はしたくあったが、笑顔のクラーラに押し切られる形となった。
「ふふ、シャーロットさん。あーん?」
「お、お、お気遣いなく」
クラーラの手ずから、シャーロットはサンドウィッチを食べさせられそうになっていた。クラーラにとっては当然ともいえるような態度だった。シャーロットは遠慮して自分で食べようとしたが。
「こういうのはお嫌い……?」
「い、いえ、嫌いということは」
「ふふ、やった。はい、あーん」
涙目の美女に迫られた。シャーロットは断れない。顔を赤くしながら、サンドウィッチを頬張った。
「……すごい美味しいです」
「ほんと! ふふ、嬉しい。……みんな食べてくれないのよ。ちょっと、自信なくしてたの」
「……おお」
はしゃぐ姿は愛らしく、からの憂い帯びた表情の移ろいよう。これがモテる女というものかと、シャーロットはしきりに感心していた。
テーブルの上には、クラーラお手製の料理が並べられていた。彼女の言う通り、少女達は手をつけてなかった。
「だってぇ、私達胸がいっぱいでぇ……」
「クラーラお姉様と一緒にいるだけで……」
少女達はほう、と溜息をついていた。恋する乙女そのものだった。
「それは嬉しいけれど。……せっかくだもの、召し上がってほしいわ」
クラーラは上目遣いでお願いした。少女達はそれなら、と口にしていった。料理自体は絶品だ。彼女達は平らげた。ご相伴に預かったシャーロットも満足がいく量だった。
「――ごちそうさまでした。お招きもありがとうございました。私はそろそろ失礼しますね」
彼女達とのランチ会は楽しかった。シャーロットがそろそろ失礼しようとしていたところ。
「ねえ、シャーロットさん? ……お楽しみはまだ、これからよ?」
「え――」
シャーロットの首筋に、クラーラは唇を寄せた。
「……あなた、独特な匂いがするのよね」
「え!」
エーデル村からこの学園まで徒歩移動だった。寒くても汗はかいたこともある。その匂いだろうか。ここはただでさえ、食事の場だ。シャーロットは全力で詫びようとしたが。
「ああ、誤解しないで? ……そうね、混沌としている匂い。私好みの匂いよ」
「は、はい……」
とはいえ、『匂い』だ。シャーロットはそっちが気になってしまっていた。混沌とは何だと思ってもいた。
「クラーラお姉様? なんだかおかしいわ。香り、ではなくて?」
「そうよそうよ。私も、良い香りだと思うわ」
乙女達もフォローしてくれたのか。その優しさにシャーロットは感動していた。
「……ええ、もちろん。良い香りね。とても清らかで」
――汚したくなるような、香り。
「!?」
クラーラの唇が、シャーロットの耳に触れた。囁きと共に触れたソレは、そっと離れた。
「これから私の部屋で集まるの。あなたもいかが? ――夢のような時間をお約束するから」
「……」
ね?と、微笑まれた。魅惑のお誘いに、他の乙女達も恍惚としきっていた。シャーロットも眩みかけるが、首をかぶり振った。少し正気に戻った。
「……あの、約束がありまして。本当に今日はありがとうございました」
シャーロットは口早にそう告げると、足早に去っていった。
「行っちゃいましたねー」
「ねえ。クラーラお姉様のお誘いを断るなんて。まあ、いいですけど」
乙女達は不思議がっていたが、加わらないならと。もうシャーロットへの関心は失せていた。
「……あらあら」
早歩きで去っていく少女のことを、クラーラは興味深そうに見ていた――。
クラーラ・メーディウムという女生徒の登場です。
同じ編入生で、三年生です。最高学年です。
聖女と呼ばれているらしいです。モテモテです。




