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図書室のボス。

 それから、学園長自ずから学園の案内をしてくれた。学園長からの親切心を断る思いもなく、学園を知る機会だと、シャーロットは有難く思っていた。

 学園長の軽妙な説明に、シャーロットも和んだ。彼の人柄もあって、シャーロットもすっかり打ち解けていた。

「シャーロットさんよ。ここが図書室じゃよ」

「図書室ですね。私、好きなんです――」

 そう告げた途端、シャーロットに蘇るのは多くの記憶だ。前のアルトに、放課後デートと称して迫られたこと。それだけでもない。――甘美な夢の舞台でもあった。シャーロットが図書室でうたた寝してしまった時に見たものだった。

「……はい、私、こちらもたくさん通いたいです」

 結局は相手が誰かわからないままだった。アルトが第一に浮かぶシャーロットだったが、こうとも思う。アルトは眠る相手にはしない、我慢していたとも言っていた。

 あれは単なる夢だ。鳥籠以外の夢があまりにも珍しかったから、覚えていただけ。シャーロットはそう考えることにした。

「ふぉふぉふぉ。それは、『あの子』も喜ぶのう」

 学園長は嬉しそうにしていた。図書室の扉を開けると、既に誰かがいた。その人物に、彼は声を掛けた。

「作業中、すまんのう。編入生の子じゃ。本好き、私達の同志じゃよー」

 ほのぼのとした声掛けをした学園長は、受付カウンターに向かう。シャーロットを手招きしながらだ。

「おはようございます、学園長。同志、でしょうか?」

 穏やかな語り口の生徒だった。椅子に座っていた生徒は、カウンターから出てきた。

「……」

 シャーロットはその生徒を目にし、見惚れてしまっていた。

 綺麗な顔立ちの男子生徒だ。制服は男子のものだ。中性的であり、優雅に微笑んでいる。浮世離れしたような、儚い存在ともとれた。その優れた見た目もあるが。

 特徴的なのは、ふわふわな頭の上にある二つの耳だ。シャーロットもたまに都で見かける存在。――獣人族だった。尻尾はズボンの中におさまっているのだろうか。

「……?」

 そう、だからこんなにも気になるのだと。女性と見紛うほどの美しい見た目だから、こんなにも胸がざわつくのだと。

「……ええと。珍しいよね、獣人は」

 その男子生徒は、気まずそうにしていた。シャーロットの視線が気になっているようだ。

「あっ。すみません、失礼でしたよね」

「いえいえ。僕が気にしすぎかなって。こちらこそ、ごめんなさい」

 シャーロットは失礼を詫びた。気にはなっていたものの、気を悪くしたわけでもないようだ。

「彼はエミル君じゃよ。この図書室のボスじゃな」

「はは、ボスって。普通の図書委員ですよ。はじめまして、エミル・ジュッツェです。高等部の三年生なんだ」

 図書委員のエミルは、笑顔で挨拶をしてくれた。シャーロットも返そうとするが。

「……ん、はじめまして?」

 そう口にしたエミルは、顎に手をあてて考え込んでいた。視線に気づいた彼は、何でもないと笑った。

「……?私はシャーロット・ジェムと申します。よろしくお願いします」

「うん、よろしくね。ジェムさん」

 にこりと笑う彼は、とても上品だ。落ち着いた物腰で話しやすそうな先輩だった。それこそ、あの胸のざわつきは何かの間違いだったと、シャーロットは思えていた。

「うんうん、青春じゃのう。エミル君にも春が訪れたのかのう」

「学園長、お戯れはよしてください。それはともかくとして、僕から説明しておくね。図書室の利用方法だけれど――」

 エミルが説明してくれるので、シャーロットも耳を傾けた。その様子を、学園長は微笑ましく見守っていた。貸し借りのルールや、取り扱いの注意。そして、利用時間についてもだ。

「休日は午前中だけ。司書さんの代わりに僕が入ってるんだ」

「そうなんですね……」

 だから、エミルと会うこともなかったのか。シャーロットは合点がいった。その午前の時間もあと少しで終わる。

「ふむふむ。エミル君よ、私と代わるかのう?あとは若いお二人さんでのう」

「……学園長、それは突然のお話ですね」

 学園長はどうやら世話を焼こうとしているようだ。エミルは当然というべきか、戸惑っている。それもそうだ。面識もなかった相手である。このエミルも、そこまで外向的ではないようだった。

「お気遣いありがとうございます。私の方は大丈夫ですよ」

 シャーロットもそうだろうと笑って答えた。学園長一人が残念そうにしていた。

「……あ。ジェムさん、ごめんね? 午後は、その、……家のことがあって」

「それでしたら、尚更ですよ」

「そう……」

 さぞエミルは気まずいのだろう。だからこそ、シャーロットは何てことないと笑ってみせた。

「……空気感が一緒じゃからのう。お似合いかと思ったのだがのう」

 学園長一人が腑に落ちてなさそうだった。が、気を仕切り直した。

「では、シャーロットさん。爺との散歩はまだまだ続くのじゃ」

「はい、喜んで」

 シャーロットとしても、それが良かった。気が楽であった。それに話の続きも気になっていたのだ。彼の奥さんがあのあとどうしたのか、その続きである。

「じゃあ、エミル君。邪魔したのう。また来るぞい」

「失礼しました。私も通いますね」

 シャーロット達は連れ立って退室しようとした。

「……ジェムさん。やっぱり聞いておきたくて」

「はい、どうぞ」

 エミルに呼び止められたので、シャーロットは立ち止まった。学園長は一人ワクワクしていた。

「――やっぱり、僕達。どこかで会ったことある?」

「あなたと、ですか……?」

 シャーロットは記憶を辿る。この際、ループ時も含めてだ。

「うーん……」

 どうしても思い出せない。シャーロットは諦念した。正直に伝える。

「すみません。どうしても思い出せないです」

 あと覚えがるとしたら、胸のざわつきくらいだが。それをわざわざ伝えることもないだろうと、シャーロットは考えた。

「……そうか。それじゃ、お互い初対面だね」

「はい。そうだと思います」

「ごめんね、呼び止めて」

「いえ、失礼しますね」

 今度こそシャーロット達は退室した。エミルも小さく手を振って見送った。

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