表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/532

君の死だって、乗り越えてみせる。

 シャーロットの自宅に戻ると、アルトは後ろ手で鍵を閉めた。窓のカーテンも開けられてはおらず、部屋の中は薄暗かった。

「……」

 シャーロットは一瞬どきりとはするが、大丈夫だとはすぐに思った。今のアルトなら、もう大丈夫だと。

「……夢でも見てんのかな、俺」

 今のアルトは。巡回兵に見せた作り笑いでもなく。シャーロットに見せた泣き顔でもなく。ただ、深刻そうな顔であった。

「夢じゃないよ。私は本当に生きているよ」

「うん。そうだね……あっちが悪夢で。今が現実だ」

「うん、そうだよ」

「そっか……」

 アルトはシャーロットの肩から手を離すと、カウンター席まで招いた。シャーロットも続く。お互い同時に座った。隣り合わせとなった。

「……夢、だったんならいいんだ。あんな夢。そうだよ、夢に決まってるんだ」

 あー!と声に出したアルトは、髪をぐしゃぐしゃにした。

「あ、花束回収しとかなくちゃ。あれはね、シャーロットにあげられない。絶対にあげない。俺が責任もって持って帰るからね。もう、処分しかないし。花には悪いけど」

「……うん」 

「つか、びっくりしちゃったでしょ。もう、なんだったんだよ、あの夢は!」

 アルトは首を傾けながら、シャーロットに笑ってみせた。そう、彼に笑顔は戻った。それでも、まだ彼の瞳は不安に揺れていた。

「……そうだよ。あんなに生々しくても、夢は夢だ……あんなことには」

「アルト……」

 アルトの今の恰好。彼がこうも嘆いていたこと。今日会った時からの態度からそうだった。

 シャーロットは思い至る。一つの結論にだった。ただ、知りたいことがあった。それは、アルトが辛かろうと、知っておきたかったことだった。

「アルト。話せたらでいいんだ。どんな夢だったの」

「……それは」

 アルトは口にはしたくないようだ。下手に口にして、実際そうなったらって思いもあるのだろう。

「……話せなかったらそれで。これ、信じるか信じないかだけど。悪い夢って、人に話した方が現実にならないんだって」

「えー……急にスピリチュアル的な」

「うん、そうだね。スピってたね」

「ジンクス信じてるの、かわえぇ……」

 アルトは小さく笑った。少し調子が戻ってきたようだ。

 アルトは語り始める。それは彼は夢の話と思っていても。シャーロットにとっては、違う話。――あのあと、殺された後。その後の話になる。

「……まあ、大晦日の朝方くらいかな。シャーロットが、その、ああなってしまって」

「うん、わかるから」

「……うん。急に放送が聞こえてきて。俺、飛び起きてさ。速攻で寮出て、そしたら、君のビラが舞ってて、村に着いた時にはもう――」

「うん」

「――『金糸雀隊』だっけ。そいつらが集団でいて」

「……うん」

 金糸雀隊。シャーロットにとっての『死神』だ。その存在によって彼女の生を終わらせられるのが、ほとんどだった。手段をも選ばない。狂信者ともいえた。

「君が、そいつらによって。そうだって、すぐにわかったよ」

「……」 

 シャーロットは言葉にならなかった。

「……殺してやりたかったよ。でも」

 アルトは、顔をそらした。暗い表情で俯いている。今でも耐えているかのような、静かな怒りだった。

「……それは、しちゃいけなかった。君も悲しむだろうし、俺も、よくわからないけど。それは違うって」

「アルト……」

 これまでのアルトだったら、返り討ちにしていただろう。彼のそうした思い、シャーロットは責める気持ちはなかった。大切な人を失った時、恨まないでいられるかというと。それはないからだ。

「みんな、おかしいんだ。シャーロットがあんなことになったのに。みんな、君を大罪人だって。そこから、あんま覚えてなくて、記憶になくて……」

 アルトの手は震えていた。また、涙まで溢れてきていた。

「でも今朝になって、寮のベッドで目が覚めて。夢みたいなことが、現実に思えてきてさ。あ、俺が弔ってあげなくちゃって。……俺だけでも、送り出してあげなくちゃって。そこから、お墓たてて、花束も供えようって思って」

 アルトから溢れる涙は止まらない。彼は涙を流しながらも、話を続けていた。

「でもさ、おかしいわけ。あの巡回の人もそう。裏のおばあちゃんもそう。今朝になって、――君が生きているとか。昨日から店が営業しているとかさ」

「……」

 そうだろう、とシャーロットは静かに聞いていた。確かに彼女は『昨日』も店を開けていた。普通に店に立っていたのだ。

「あれは夢だったんだ、現実なわけない……!」

「アルト」

 シャーロットは彼の震える手に手を重ねた。彼はゆっくりとシャーロットを見た。

「私の死は耐えられない?」

「それはそうだよ。どうして平気だと思うの……?」

「そうだよね。私だって、そうだから……」

 シャーロットだってそうだ。死に慣れることはなく、怯えるばかりだ。それでも、未来を迎える為にと強がっているに過ぎない。アルトならば尚更だと。人や犬には興味がないとのたまいながら、情に厚かったりもするアルトなら。尚更だろうと。

「アルトは……」 

 このアルトはおそらく、――ループの記憶を保持している。だからこそ、今日が続きだと思っていたのだろう。

 アルトはきっと、シャーロットの繰り返される死には耐えられない。その記憶を抱えたまま、アルトの精神は保てるのだろうかと。

 それは、彼が彼女のことを痛いほど想っているから。自惚れでは決してない。シャーロットはそのことを痛感していたのだ。

「……」

 シャーロットは胸が痛くなった。前回の時に、アルトは知ってしまっているのだ。シャーロットが繰り返しの日々を送っていること。アルトもまた、記憶を引き継いでいるのだ。

 そんなアルトが望むこと。それは――。

「……シャーロット、あのさ」

 涙で目を腫らしたアルトが、まっすぐに見てきた。

「俺のこと、仲間って言ってくれたでしょ」

「……うん」

「――俺も一緒に乗り越えたい。一緒に未来をみよう、シャーロット」

 これしかない、とアルトは力強く伝えてきた。

「知ったからにはもう、なかったことになんてしたくない。……君の死だって、乗り越えてみせるから」

 あれだけ言葉にするのを避けていたアルトが、そう断言していた。彼なりの覚悟だった。

「アルト……」

 前にも『アルト』に打ち明けたことがあった。その時は大変な事態を招いてしまったが、そう今、シャーロットの隣りにいるのは。――このアルトだ。

「ありがとう、アルト。決して、無茶はしないでね」

 シャーロットはアルトの覚悟ごと、彼を受け入れた。アルトも頷いた。

「つってもね、君の為ならね?いくらでも無茶しそうだけどね、俺!」

「無茶はしないでね」

 アルトがにかっと良い笑顔をしていたので、シャーロットは再度は釘をさした。

「わあ、大事な事を二回言われた」

 アルトに明るさが戻った。シャーロットも笑顔になる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ