女神像破壊事件を終えて。
お読みいただしましてありがとうございます。
こちらは前回のあらすじとなります。
読み飛ばしていただいて差し支えないかと思います。
世界の北方に位置するは、ダイヤノクト国。山々にも囲まれている寒冷地でもあった。王都は山の上にそびえ立つ。
ダイヤノクト国。優れた王が統治する、治安が良い国だった。犯罪も軽微なるもので、重罪にあたるものは、起こることもない。平和が約束された国であった。
そのふもとをさらに南に向かうとあるのが、エーデル村だ。農業が盛んだが、近年開発が進みつつあり栄えてもいた。移住者も増えているという。
カナリア色の髪の少女、シャーロット・ジェムもその一人だった。
彼女は孤児院で暮らしていたが、そこから出て一人暮らしをしていた。
シャーロットは、生まれた時からある特徴があったという。これは、小さい頃にきかされた話だった。
『――その力はあなたを守るもの。そして、誰かを傷つけるもたやすいもの。決して、忘れないで』
シャーロットが持つのは、氷の魔力だった。生まれた時から備わっていた力だ。幼い頃はコントロールをするのに苦労していたほどだ。
成長したシャーロットは氷の力に加えて、独学で魔法学や薬草学を学んできた。エーデル村の厚意と出世払いということで、格安で店を借りることができたのだ。
最初は奮わなかった商売も、様々な人に助けられてここまでやってこられた。評判が評判を呼び、それなりに賑わいを見せている。
シャーロットはある日、名門ブルーメ学園からの推薦状を受け取る。荒れ狂う吹雪の中、シャーロットは突き進んだ。
そこで待ち受けていたのは、学園にある女神像の破壊事件。都にあるものと対であるそれが破壊されてしまったという。春の女神像はこの国の信仰においても重要とされ、破壊を行った者は重罪を問われた。
アリバイが無かったシャーロットは、容疑者とされてしまった。潔白を証明することも出来ず、彼女は二度目の死を迎えることとなった。
だが、そこでは終わらなかった。やり直すことができるという。日々を繰り返すことで、シャーロットは、自分が望む未来を勝ち取ろうとしていた。
生まれ変わりのシャーロット・ジェムは、時に不思議な夢を見ていた。
自身が鳥籠の中に囚われている夢だ。生まれた時からそうであった。
鳥籠にかけられた錠前たち。シャーロットを逃しはしまいと主張しているようだった。そう、シャーロットに迫るのは、死のみではない。執着ともいえた、強い思いもそうだった。
日々を繰り返していく内に、積もっていったのはある人物の想いだった。『彼』に囚われてしまったシャーロットは、『彼に愛される未来』を選びそうになってしまう。
その彼との未来は逃れたものの、女神像破壊を止めないことには。何度も容疑者にされて、また死が訪れるのみだった。シャーロットは協力者たちと共に奮起した。そうして乗り越えた先に、ようやく望む未来が訪れてくれたのだ。
平和で穏やかな日々だった。ずっと、平穏が続いてくれる。シャーロットがそう思っていた矢先だった。
大晦日前日の夜。奇妙な男が店に訪れる。彼の依頼はこうだった。――シャーロットの魔法で、殺して欲しい相手がいると。
彼女は断った。相手が帰った後も、不安は残ったままだ。一大事だと思い、村の詰所に相談することにした。そこで、彼女は衝撃の事実を知らされる。
すでに行われていた殺人。そして、共犯者とされてしまったシャーロット。駆けつけてきた『死神』によって、またも生命が終わることとなった。
シャーロットが死ぬ度に訪れるのは、夢の中の場所であるはずの。――鳥籠の中だった。
「なに、なんで、なんでなの……?」
シャーロットは体育座りで、事態を整理しようとしていた。だが、考えれば考えるほど、頭がぐちゃぐちゃになっていく。
突然の逮捕もそうだ。共犯者ということは、実際に殺人を行った者がいるということ。そして、殺されたのが。
「どうして、カイゼリン様が……」
そう、殺されたのは『シェリア・カイゼリン』だ。
シェリア・カイゼリンはブルーメ学園、自治委員会のトップだ。朗らかで、信頼も厚くて。時には対立もし、時には助けられた。彼女が殺される理由こそ、シャーロットにはわからなかった。
「シャーリー……」
くぅーんと鳴くのは純白の犬。リッカだった。シャーロットがあげたケープもつけている。
リッカは、こうして夢に訪れてくる。出逢ったのは、学園の女神像の下だった。
最初は汚れきっており、傷だらけだった彼。人間が恐くて仕方がなかった彼だったが、シャーロットに次第に心を開いていく。彼が人語を喋れることも判明した。
春の女神がご主人様、リッカはそう言う。女神のように、人の助けになりたいと望んでいた。
リッカはこの繰り返しの日々の記憶も持つ。シャーロットの相棒として、共に力を合わせて乗り越えようと誓っていたのだ。
「リッカ!」
そう、突然殺されたシャーロットからしてみたら、その後リッカ達がどうなったかわからなかった。
「僕も、よくわからないんだ。放送が聞こえて、シャーリーを探そうとして……そこまで」
この平和な国に起きた事件は、殊更重要視された。犯人確定、もしくは容疑者の段階でも国中に知らせる放送が響き渡る。この放送によって知らされることもしょっちゅうだった。
「そっか……」
リッカ達の生存もわからないままだ。ただ、わかることは。
「このまま平和では、いさせてくれない」
「うん……」
また事件が発生したのだ。となると、繰り返しの日々を送ることになる。あの、死が容易に訪れる日々を過ごすことになるのだ。
「……」
シャーロットは怖い。彼女にとって、死は怖ろしいままだ。
「リッカ。私は逃げないよ。――また力を合わせよう」
だとしても。乗り越えたからこそ、手にした未来もあった。シャーロットは前を向く。
「うん、シャーリー!」
リッカもやる気だ。二人は頷き合った。
「それじゃ、寝ようか。おやすみ、リッカ」
「おやすみ、シャーリー……」
次、目覚めた時は。苦難の日々が待ち受けていることだろう。シャーロットは、丸まるリッカを見た。シャーロットにとって、かけがえのない存在だ。
「乗り越えようね、リッカ」
シャーロットも瞳を閉じた。日々の訪れを待つ。
囚われの少女は、今宵も鳥籠の中で眠る。閉じ込める錠前は、彼女を逃しはしないようだ。
錠前は、大型が一つに中型が三つあった。
その一つが、揺れていた。
まるで、新たに彼女を捕らえようとする存在を。――知らしめるかのように。




