ある少女の独白②-プロローグ、そしてエピローグ。
お久しぶりの方、初めましての方、
古駒フミと申します。
新しいエピソードです。
よろしくお願い致します!
ふわふわの手触り。撫でる手から伝わるのはぬくもり。モフモフの彼は、私に身を委ねてくれる。
もう寝る時間だね。モフモフと私は、ベッドの上でまったりしていた。今日が終わると、新しい年だね。
「よいお年を」
あらら、不思議そうな顔してる。こっちだと、結局そう言う習慣なかったみたい。それにしても、君ってば。あ、仰向けになった。毛布は、ずれてないみたいだね。
さっきまですごかったね。君のお腹、ぱんぱんだったね。食べたねぇ。食べつくしていたねぇ。料理、美味しそうだったもんね。
私も今度作り方教えてもらうね。え?いつものも美味しい?
「本当にこの子はー! 可愛いな、可愛いなあ! いいんだよ、私がそうしたいんだから、いいんだよ!」
あ、こんな遅い時間に興奮し過ぎちゃった。え、『彼』みたいって?
「似てた? そんなに?」
言われてみたら、かな?でも、認めるのもこう、なんか。あれかなって。
その彼もそうだけど。今日、遊びに来てくれて良かったね。彼だけじゃなくて。みんなで楽しかったね。盛り上がったね。こうやって、笑い合えるの、いいよね。
ふふ、笑った。君もご機嫌だね。あ、涎。ふふ、拭くね。ご馳走だったもんね。
モフモフは寝息を立てていた。寝ながら、前足は動いていた。うん、料理が美味しいのもそうだけど、たくさん遊んだもんね。本当に楽しかったね。
「幸せだねぇ」
モフモフを見て、私は幸せをかみしめる。
今回も守り抜いたんだ。私達が望む未来を勝ち取ったんだ。幸せな私は、安らぐモフモフを撫でた。このぬくもりも本物だ。
「すやすやだねぇ……」
純白でフワフワモフモフな君。君は怖がりだけど、純粋な気持ちで誰かを助けたいというのも。本当は勇気があることも。ちゃんと、知っているよ。
「……」
静かだ。静けさが訪れると、どうしても私は考え込んでしまう。
「よいお年を、か」
そう言って、笑ってくれた大人の男の人。私が、好きだった人。
生まれ変わりって、信じられているよね?この世界の伝承だったね。
人と人は分かたれようとも。強い思いによって、やがては再び巡り合うと。生命は巡り巡るものだって。私も小さい頃に教わったよ。
そう、私の前世の話。私はね、『皇冬花』って名前の子だった。その子は、報われなかった恋の果て、――命を落としたの。
つい、思い出しちゃった。君には話せない話だけど、忘れたままで良かったんだけど。こういった記憶って思い出したら最後、なかなか消えてくれない。
前世での私、皇冬花。彼女は日本で暮らしていた高校三年生だった。担任の片桐先生に恋をしていた。一度だけ、好きと言ってくれた先生。私は片思いが実ったと思って、もう、有頂天になっていて。あの人に溺れきっていた。
私の高校生活は、片桐先生一色だったといっていいくらい。かつての私は真剣だったんだ。
そう、大晦日だった。受験勉強の息抜きにって、テレビをつけてしまった。それなら、久々に見る推しの生配信にしておけば。それこそ、何も見ないとか。なんで、私はテレビをつけてしまったのかな。
生放送で、初詣の人達が中継されていた。そこでインタビューを受けていたのが、爽やかで明るそうな男性と優しそうで美しい女性。どう見ても、恋人同士。ううん、――夫婦にも見えていた。その男性は。
片桐先生だった。その隣に立つ、大人の女性は決して私ではなかった。
片桐先生は、他にも遊び相手がいたりという疑惑もあった。私も、彼のマンションからまた別の女性が出てきたところ、見たことあるから。というか、出くわした。彼の本命にになれないって。彼は思わせぶりだって、その人に忠告までされた。
片桐先生は、私を好きだとは言ってくれた。本命は私なんだって、信じ続けていたけど。信じただけ。あの人には、色々聞いてもはぐらかされて終わりだった。私は、もう、信じるしかなくて。信じて、信じ続けて。
卒業式の日に告げられたのが、――終わりにしようという言葉。そこのやりとりは靄がかかっているみたいで、記憶が曖昧だった。曖昧ながらも、覚えている内容はというと。
揉めていたのかな。暴れる私を抑えつけていたのか。その逆かはわからない。そのまま先生と屋上から転落して、命を終えた。
それが私の最初の死。
相手にされていなかった。騙されていた。私はそれでも、自分を責めていた。自分との出逢いが、片桐先生を苦しませて、こんな最期を迎えることになってしまったと。だから強く思ったの。もし、生まれ変わりがあるとしたら。
――片桐先生と出逢うことはありませんように。
片桐先生の為でもあって、自分の為でもあった。私は、もう耐えられなかった。恋というものは、私に幸せな気持ちをもたらしてはくれたけど、それは、もう溶けてなくなってしまったもの。もう辛い気持ちしか残ってなかった。
もう好きという言葉は信じられない。私は騙されるだけだと。いつしか恋というものを望まなくなった。私にとって、恋は怖いものとなった。
ドロドロした汚い気持ちは、もう嫌だった。これ以上、自分のことを醜く思いたくなかった。
「君が綺麗過ぎるから……」
私に未だに残るトラウマ。汚い感情。君には知られたくない。でもね、君が好きなのも、大切に思う感情は本物だから。だから、私はこの世界で生き抜いていきたいの。
――氷の力を持つ、小さな魔法屋の店主。シャーロット・ジェムとして。
「……」
いつにも増して熟睡っぷりだね。冬花だった頃は徹夜していたし、初日の出見たりもしていたけど。
「私も、寝ようかな」
まだ大晦日のまま。今年はまだ終わってない。でも、なんだろ。すごく眠いんだ。寝よう、そう考えた私は、自分のベッドに潜り込んだ。あ、君を起こしちゃうかな。ちょっとした物音、話し声、色々心配してすぐ起きたりしちゃうから。
「大爆睡だ。……大丈夫?」
モフモフは仰向けになったままだ。あれ、本当に起きないな。耳、近づけてみよう。あ、寝息はある。うん、はしゃぎ疲れたのかな。そういう日もあるよね。
「おやすみ」
ここで眠れば、明日はもう新しい年。私達が生きていられる未来が――。
「……!?」
寝ていた体を起こした。不吉な予感に、私の体は震えた。何が、何が起こるというの。
「君まで……。何があるというの……」
あれだけぐっすり眠っていた子が、いつのまに立って唸り続けていた。そこで鳴り響くのは、拡声器による声。――不吉を知らせるものだった。
『――ゼンガー氏、殺害事件。犯人はシャーロット・ジェム。発見次第、ただちに報告せよ』
「え……」
私はその人は知っている。でも、面識なんてない。会ったこともない人を殺したと告げてきた。『いつもの』濡れ衣だ。その声にはまだ続きがあった。
『生死は問わない』
「生死は……」
生きたままか、殺しても構わないか。それは、私にとっては死刑宣告も当然だった。
来る。あの人達が来る。そう、今も。
鍵をかけた玄関は乱暴に開けられ、螺旋階段を駆け上げる複数の音。――私にとっての死神はあの人達だ。
たとえ死が迎えに来ようとも。私は最期まで抗ってみせる。大人しく殺されるわけにはいかない。
「君だけでも……!」
私は窓を全開にして、この子だけでも逃がそうとする。
この子は今回は何も関係ない。かといって、見逃してくれるような慈悲深さは無い。それがあったらどんなに違っていたことか。
「お願い、逃げて――」
逃げようとしないこの子は、私を守るように立つ。だめ、お願いだから――。
気づいた時には、目の前に血しぶきが飛び散っていた。貫かれたのは私の心臓。ああ、まただ。
血にまみれた目に、泣きそうな君の姿が映った。お願い、君だけでも――。
ここで、私の意識は途切れた。
これは、少し先の未来の話。乗り越えた先でも、また新たに訪れる死。
最初の死から、転生した今でも。死は私を逃してはくれない。
時は遡る。
お読みいただきましてありがとうございました!
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