シャーロット・ジェムとして転生した世界。
「ん……」
ベッドがギシっと鳴る。長年使っていたこともあり、老朽化が進んだベッドだ。買い替えることもなく、本日これまで使い続けていた。
「また、あの夢。……はあ、目覚め良くないな」
少女が繰り返し見る夢は、ここ最近になってより鮮明になってきた。自分が暮らす世界とは違う風景、見知らぬ男性。今の自分とは異なる姿。
記憶の中の少女は、皇冬花という名だった。今の自分とは違う名前、姿。
「私は生まれ変わったんだ。……しかも記憶持ち」
生まれ変わりの伝承は知っていた。自分が住んでいる国の伝承だ。
――春の女神信仰。
かの女神がおわす聖なる泉があるという。人と人は分かたれようとも。強い思いによって、やがては再び巡り合うと。生命は巡り巡るものだと、幼少期にまず教わることだった。
「ちょっと、勘弁してほしいかなぁ」
少女は苦笑いした。彼女自身もその女神は崇拝している。その女神の御業であっても、それは望んだことではなかった。
「片桐先生と出逢うことはありませんように。だって」
その願いも、冬花という女学生が過ごした世界も記憶も。今もこうして覚えている。生まれ変わったと考えるのが、彼女にとって一番納得のいく答えだった。
「よっと」
少女はまだ寝てたい気持ちはあれど、起き上がった。起床予定の時間から遅れていた。
寝室から螺旋の階段で下りていく。居間兼仕事場のそこは、食事をとる場所でもあり、作業をする場でもあった。キッチンや食卓もある一方で、薬品棚や大窯も置いてある。あれこれ混在していた。
「今日も冷えるなぁ」
少女は体を震わせながら、昨日の夕飯の残りを朝食に回していた。食事をとったら、朝の身支度もそれなりに済ます。長めの髪も一つ結びにした。これで準備は終わった。
扉を開けると新雪が積もりに積もっていた。昨日の猛吹雪によるものだ。雪かきをしておこうと、少女は憂鬱ながらも決意していた。
少女は家から出ると、立て看板を表にした。そこにはこう書かれている。
『シャーロット・ジェムの魔法屋』
彼女が営む店が開く。シャーロット・ジェムの一日が今日も始まった。
時は十二の月。前世と月日の流れは一緒だった為、シャーロットは十二月としていた。毎年手作りのカレンダーも壁にかけられていた。
寒さの厳しさが増していく頃だ。
世界の北方に位置するは、ダイヤノクト国。山々にも囲まれている寒冷地でもあった。王都は山の上にそびえ立つ。
ダイヤノクト国。優れた王が統治する、治安が良い国だった。犯罪も軽微なるもので、重罪にあたるものは、起こることもない。平和が約束された国であった。
そのふもとをさらに南に向かうとあるのが、エーデル村だ。農業が盛んだが、近年開発が進みつつあり栄えてもいた。移住者も増えているという。
カナリア色の髪の少女、シャーロット・ジェムもその一人だった。
彼女は孤児院で暮らしていたが、そこから出て一人暮らしをしていた。
シャーロットは、生まれた時からある特徴があったという。これは、小さい頃にきかされた話だった。
『――その力はあなたを守るもの。そして、誰かを傷つけるもたやすいもの。決して、忘れないで』
シャーロットが持つのは、氷の魔力だった。生まれた時から備わっていた力だ。幼い頃はコントロールをするのに苦労していたほどだ。
成長したシャーロットは氷の力に加えて、独学で魔法学や薬草学を学んできた。エーデル村の好意と出世払いということで、格安で店を借りることができたのだ。
最初は奮わなかった商売も、様々な人に助けられてここまでやってこられた。評判が評判を呼び、それなりに賑わいを見せている。
冬花として暮らしていた世界も懐かしくはある。それでも、ここがシャーロットの住む世界だ。
「シャーリー! おはよー!」
シャーロットをあだ名で呼ぶ青年。この世界での幼馴染、アルトだ。賑やかな彼が来たので、シャーロットは迎え入れることにした。
お読みいただきましてありがとうございました。
ちょっとアレな幼馴染の登場です。




