かわいいかわいい、ふわふわもふもふ純白犬。
「はい、どちら様でしょうか」
「ああ、俺だ。モルゲンだ。突然すまないな」
「あれ、モルゲン先生?」
モルゲンその人だった。教師である彼と、こうして会うのは久々だった。彼の突然過ぎる訪問の理由、それを話し始めた。
「……ああ、アルトに用があってな。俺が出かけようと誘ったら、アイツは逃げてな。まあ、ここだろうなって」
「ここなんですか」
モルゲンが真っ先に思いついたのが、シャーロットの居場所だった。正解だった。当のアルトはというと。不在だと言ってほしいと、口の動きだけで伝えてきた。
「ええ……」
モルゲンはわざわざここまで来てくれたのだ。黙って逃げるのもよくない。話くらいはした方がいいと。シャーロットは扉を開けようとするも。アルトが涙目で訴えてくる。相当嫌そうだった。
「ええー……」
シャ――ロットは困っていた。
「……なるほど、な」
扉の向こうのモルゲンが何かを察したようだ。そして。
「わかった。それじゃ、シャーロット。俺と出かけようか。色々と見て回らないか?――二人きりでな」
「はあ!? ふざけんな、シャーロットは俺と過ごすんだよ!」
アルトは声を大にして反対してきた。あ、とシャーロットは彼を見た。反応してしまった彼を見た。
「お、やっぱりいるじゃないかぁ。シャーロット、開けてくれるか?」
「アルト? ちゃんと話はした方がいいよ」
アルトはウルウルしている。でもバレてしまっているので、シャーロットはモルゲンを招き入れることにした。
「おはようございます。モルゲン先生」
「あ、モルゲンだ!」
挨拶するシャーロットの足元から、リッカもひょっこり顔を出した。
「おはよう。リッカも元気そうだな。――それでだ。アルト?用があるって言ったよなぁ?」
「すみません。普通に嫌です。本日の予定はシャーロットで埋まってます。ね、これでいい?」
シャーロットの隣までやってきたアルトは、褒めてと笑っていた。シャーロットは話をしたのはいいとして、褒めるとなると微妙だった。
「……はあ。じゃあ、俺の用が終わったら戻ってくればいいだろ。なるべくすぐ済ますから」
「おお……」
「な、アルト? 俺の用事に付き合ってくれるんだ。今回はともかく言わないよ」
シャーロットは感銘を受けた。これが大人の対応だと。これならアルトも承知するだろうと、彼女もモルゲンも思っていたが。
「は? 嫌だし。今から濡れ透け……それは諦めるとして。実質、風呂上がりイベントなんだけど!? ほかほかシャーロットを拝めるんですけど!?ぜってぇ、やだ――」
「アルトがすまなかった。連れていくな」
イベントに現を抜かしていたアルトは油断していた。その間にモルゲンは弟を拘束し、彼を連れていく手筈は整った。アルトの馬鹿力をもってしても、それは解かれることはない。コツがあるんだとモルゲンは平然と笑っていた。
「やだって! ちょっと! 助けて、助けてシャーロットぉ!」
「またね、アルト。先生もよろしくお願いします」
「ええー……つれねぇ……」
シャーロットの助けを得られなかったアルトは、不満そうにしていた。
「――そうだ、シャーロット。俺、年末は戻ることになっていてな。年内会うのは最後になる」
「はあ? なにそのいらない情報。シャーロット、スルーでいいよ。……いってぇ!」
モルゲンは笑顔のまま、弟の拘束を強めた。
モルゲンは実家に戻るのか。一方で、彼の薬指にある存在。彼の恋人か、伴侶の元へか。シャーロットは何ともいえない表情となった。
「来年もよろしくな。――良いお年を」
「……!」
良いお年を。シャーロットにとって、随分と懐かしい言葉だった。この世界で言われたことがなかった。偶々自分の周囲だけがそうだったと、シャーロットは思い直した。
「はい、今年もお世話になりました。来年もよろしくお願い致します。……良いお年を」
本当に懐かしい感じだ。シャーロットは微笑んだ。
「ああ」
モルゲンも笑って頷いた。
「え、なにそれ。それで、デレてくれるの? じゃ、俺も明日言おうっと。明日も来るからね。大掃除手伝うからねー」
「え、それは悪いよ。アルトも年末はゆっくりしたら?」
「もう、シャーロット! 俺の楽しみを――」
二人、いや主にアルトの声が遠ざかっていく。アルトを拘束しながらも都へと向かっていった。
「二人ともいっちゃったー」
「ね、いっちゃったね。じゃ、リッカ。キレイキレイしようか」
「……はーい」
リッカは唸りはしないものの、顔中に皺を寄せていた。すごい顔だった。
最初は暴れていたリッカも、シャーロットはじっくりと慣らしていった。お湯を少しずつかけて、まずは水に慣れさせる。リッカが慣れてくると、ゆっくり洗っていく。シャンプーの良い香りがする。
リッカはすごい顔をしながらも、大人しく洗われていた。
シャーロットとリッカはソファの上にいた。暖炉の前、一番暖かい場所だ。ドライヤーのような器具をあてながら、タオルで水分を拭きとっていく。リッカはこれは気持ち良かったのか、うっとりしていた。
「すぴー」
「ふう」
時間をかけてリッカを乾かした。そこには、至福の存在があった。
薄汚れていた毛は、リッカ生来の純白のものに。ふわふわも大増量していた。シャーロットは自身の左手を押さえつけていた。モフモフ度がアップしているのだ。今にでも欲望のままにモフモフしたいと。だが、リッカの眠りを妨げるわけにもいかないと諦めた。
「ぐーすぴー」
リッカは仰向けになった。鼻ちょうちんまで出ていた。爆睡だ。
「あ、そうだ」
リッカが寝ている内にと、シャーロットはソファから立った。
自室の机の引き出しを開けた。そこにあるのは推薦状とお目当ての物だ。シャーロットはそれをとって、部屋を出た。
「シャーリー、どこー? あ、いたっ」
「リッカ」
寝てたはずのモフモフが二階にあがってきていた。起きた時にシャーロットがいなかったからか。それとも、離れた時点で起きていたのか。どちらにせよ、リッカは不安そうだった。
「ごめんね、ちょっと用があって」
「ううん」
安心したのか、リッカは欠伸をした。眠たそうだった。
「ふふ。――はい、リッカ」
シャーロットはしゃがみ込むと、リッカにふわっとかけた。――それは、犬用のケープあった。彼女の手作りのものだ。事件解決の日からコツコツと編んでいたのだ。
「もっといろんな種類作るからね」
「わあ、ありがとう!」
リッカは温かそうだった。シャーロットの気持ちも嬉しかったのだろう。しっぽを右向きに大きく振って、舌も出して笑っていた。ケープの匂いもかいでいる。気に入ったようだ。
「一緒にもどろっか」
「うん」
シャーロットは年末年始の準備は明日に回すことにした。
隣のモフモフはご機嫌に歩いていた。シャーロットを見上げては嬉しそうにしていた。
シャーロットも思いは同じだった。
掴み取った幸せな未来。みんなが笑っていられる未来。シャーロットは幸せをかみしめていた。
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