表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/532

君を解放するね。

 床のひんやりとした感触がする。シャーロットは目を覚ました。

 ここはいつもの夢の中だ。シャーロットはぼんやりした目を瞬きさせ、上を見た。

 鳥籠は赤い血管のようなものではなく、いつものものに戻っていた。シャーロットは中腰で歩いて、柵に触れた。冷たい感触だ。

「でも……」

 赤黒い錠前は残ったままだった。サイズは元のサイズになったものの、錠前の鍵穴からは舌をのぞかせていた。相変わらずだった。

 シャーロットがどうしてくれようか。そう考えていた時だった。

「シャーロット!?」

 騒々しい男がやってきた。この夢で会うのは、おそらく初めてであろう、彼だ。

「え。アルト……?」

 シャーロットは目をぱちくりさせた。――アルトが現れたのだ。

「え、なんで!? なんで、閉じ込められてんの? 今、助けるからね!」

 アルトは錠前に目星をつけた。大型のが一つ、中型が四つあった。これらをどうにかすれば、彼女を出してあげられると彼は考えた。

「待って、アルト。一旦、私の話を聞いて」

「……うん。君がそういうなら」

 アルトは今にも蹴りそうな動きを見せていた。シャーロットは一旦落ち着かせることにした。

「……なんでかは、私にもわからなくて。ここは私が昔から夢に出てくる場所なんだ。生まれた頃から、こうで」

「……危ない目に遭ってるわけじゃないの」

「うん。ただ、閉じ込められてるだけだから」

「いや、閉じ込められてるだけでもさ……」

 アルトは観察した。この鳥籠はまるで意思があるかのようだった。それもとても強い意思だ。

「シャーロット、やっぱ危険だって。――君に対する執着、それが半端ない」

「私への……?」

「うん。俺にはわかる気がしてさ……うん、俺にも」

 アルトは一点を見つめ続けていた。

「ムカつくけど、他のは手出しできなさそう。でも、これなら――」 

「アルト!?」

 シャーロットは驚愕する。アルトがその場でジャンプして、――赤黒い錠前に触れたのだ。

「!?」

 アルトはそれに触れると、彼に衝撃が走った。着地に失敗し、床に打ちつけられた。

「だ、大丈夫!?」

 シャーロットは柵まで駆け寄る。アルトは無事のようだが、頭を抱えながら横になったままだ。

「俺は、大丈夫、大丈夫なんだけど。……俺は、なんだけど」

 シャーロットをちらりとだけ見ると、気まずそうに顔をそらした。それから彼は顔を赤くしたまま、ブツブツ言いだした。

「大丈夫じゃないんじゃ。ねえ、アルト……」

 本格的に打ちどころが悪かったんじゃないかと、シャーロットは心配した。そうやって、声を掛けると。

「ひゃあっ! だ、だめ。今の俺を見ないで……!」

 アルトはここまでかというほど顔が赤くなっていた。恥じらいぶりが乙女のようだった。

「なんだこれなんだこれなんだこれ! なんだ俺! なにしてんだよ俺!」

「え……」 

「ど、ど、どんだけチュッチュすれば気が済むんだよ! なにこれ、え、こんなん俺がしてきた妄想じゃん! なんで俺が叶えてんだよ! どんだけいい思いしてんだよ、俺!」

「ま、まさか」

 繰り返しの日々の中で、アルトに愛された日々もあった。その記憶は本来、今のアルトには持ちえないものだ。けれども、今のアルトの様子からすると。

 アルトは脳裏に映像をたきつけられていた。あの錠前に触れたのがきっかけだった。

「な、なんてこと……」

 シャーロットは顔が赤くなったり、青くなったりしていた。どれだけ恥ずかしい思いをさせられるのかと、シャーロットは恨みたくもなった。しかも、これだと自分のあられもない姿までみられているのでは。シャーロットの目の前が真っ暗になっていたが。

「しかも! か、か、肝心の、シャーロットのアレな姿が見えない! なんで、うまい具合に見えなくなってんだよ! 俺だけが美味しい思いしてんじゃん!」

「……肝心のって」

 シャーロットは引いた。自分の裸は見られてないものの。

「あ、でも、表情とか、声とかは……うん」

「本当にもうやめて……なんでこんなことに……」

 甘えきった姿はみられていたのだ。シャーロットは気まずい。 

「……うん。全部、俺なんだよね。俺がしそうなことだし、実際に俺がやってたこと」

 顔は赤いままだが、アルトは静かに言った。

「アルト……」

「ねえ、シャーロット。君の幸せって、あそこじゃなかったんだよね」

『私、帰りたい場所があるんだ。覚えてないけど。ここではないの』

 この言葉までも。アルトは錠前によって知らされた。思い知らされた。

「シャーロットは、あの未来では幸せじゃなかった」

「――しあわせだったよ」 

 アルトは今にも泣きそうな顔をしていた。彼を見たシャーロットは心内を打ち明けた。

「君に愛された日々は、しあわせだった。でもね私、欲張りなんだ。……アルトもそう。いろんな人がいて、みんなが笑っていられる未来。私が望んだのが、そうだったの」

「……うん、そうだよね。そっか、そうだった」

 アルトはしきりに頷くと、赤黒い錠前を見据えた。

「俺だけがいればいいんじゃなかった。俺、妬きはするけどさ。君がいろんな人と話そうとして頑張ってるの、見てるのも好きだった」

 アルトは軽く準備運動をすると、後ろに下がり始めた。

「あー、シャーロット? 離れて、離れて。そうそう、そのくらい」

 シャーロットは言われるがままに、後退した。ありがとう、アルトはそう笑った。

「――君を解放するね」

「アルト……?」

 シャーロットの目に映ったのは、赤黒い錠前が砕け散る音。破片は砕け散って、床に散らばっていた。バラバラになった中、舌にあたるものがピクピクしている。

「っと」

 アルトは華麗に着地した。その顔はスッキリとしていた。

「俺の分はよし、と」

「アルト、君は……」

――君を解放するね。

 シャーロットは深くは聞かない。この言葉が全てだと、彼女は思ったからだ。

「――で、シャーロット? 他のって、なんかヒントとかないの? 君自身がピントきたものとかさ」

「うん、そうだね……」  

 アルトのが無くなっても、まだ錠前は残っている。シャーロットは完全に開放されたわけではない。大型のと中型のが残っている。シャーロット自身も何か思いつかないものかと、頭を巡らせていた。

「ん……?」

 シャーロットは瞬きをした。見間違えだと思ったからだ。違った。――錠前の数が変化していたのだ。

「いやいや、そんな……」

 大型の数はそのまま。アルトのを破壊後、中型の錠前が。――三個となっていた。シャーロットは見落としていたのだ。いつからかはわからない。

「いや、そんな、ねえ?」

 シャーロット自身には本当に心当たりがなかった。それもアルト曰く。

『君に対する執着、それが半端ない』

「……」

 それほどの思いを自分に抱く。シャーロットはそこまで人と関わっていたりはしていなかった。となると、元々あった錠前も謎は謎ではあった。

「あれ、心当たりあるかんじ?」

 アルトが、じっと見ていた。アルトが、じいっと見てきた。アルトが、じいいっと見たままだ。

「ううん、本当にわからなくて」

 シャーロット本人にも見当がつかないものだ。いくらアルトに見られてでもだった。

「ま、いいけど。なんか思い出したらでいいよ」

「うん」

 アルトはあっさりと下がった。彼は本当に変わったと、シャーロットは思っていた。

「あ……」

 シャーロットは次第に眠くなってきた。

「なんか、眠くなってきた。ここで寝たら、どうなるの?」

 アルトも欠伸をしていた。彼も眠そうだ。

「日常に戻れる――」

 そこまで言うと、シャーロットは眠りに入った。

「……あらら、寝ちゃった」

 アルトは床に胡坐をかいて座った。眠るシャーロットを見つめていた。

「――ま、消えたわけじゃないからね」

 アルトの手の中にあるのは、黒い錠前の一部。未だに蠢いている舌だ。

 アルトは『ソレ』を、大事そうに懐に仕舞った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ