リッカが望むこと。
カイゼリン達への挨拶もおざなりに、シャーロットは独房棟の階段を駆け下りていった。もう疲れた、お腹空いたどころではない。シャーロットはがむしゃらに走った。外に出ると、夜が深まっていた。シャーロットは急ぎ、学園の広場へと向かう。
「モルゲン先生!」
モルゲンは自治委員会と共にいた。シャーロットは遠くから声を掛けた。モルゲンが無事であることは喜ばしいが、今度はリッカが大変な目に遭っていたのだ。
広場の女神像は破壊されてはいない。そうだ、まだ『真犯人』が訪れる時間ではないからだ。これからというのに、――金糸雀隊の姿はなかった。
「シャーロット……」
モルゲンは彼女を見つめていた。独房で一人耐え続けていたのだ。やつれて、焦燥しきっていた。そんな彼女を労いたくもあったが、今は教師として。また、女神像を守る者として接する。
「――あいつらは、都の方に注力するそうだ。あと、容疑者の捜索だな」
「……はい」
「シャーロット。俺が教えたルート覚えているか。これは、鍵だ。……行ってやってくれ」
モルゲンは鍵をシャーロットに託す。シャーロットは思い出した。それは、モルゲンが逃走ルートとして教えてくれた場所だ。地下道を通るルートだった。そこは独房も通過することになってるという。
「あとな。そろそろ、それ。つけといてな」
「はい」
シャーロットは頭を下げると、自治員会にこっそりと抜け出していった。
距離が出来た時点で、通信機器から受信があった。モルゲンだ。狭い範囲だが、モルゲン周辺が映し出されいた。彼もまた、女神像から一旦離れていたようだ。
『ちゃんと、つながってるか?』
「問題ありません」
『わかった。通話だけは切るが、電源だけは入れておいてくれな』
「はい」
モルゲンの言われた通り、電源は入れっぱなしにした。シャーロットはリッカの隠れ場所へと急いだ。
ルート通りに進むと、古びた倉庫があった。試しに鍵穴に差し込むと、開いた。ここだった。
「――シャーリーだよ。いるかなー?」
リッカの名は迂闊に呼べない。自分だとシャーロットは名乗り出た。恐がらせないように、優しい声であるように努めた。
「……シャーリー?」
樽の裏側から、小型の犬が姿を現わした。シャーロットはああ、と声をもらす。
リッカだった。無事だと安心するが、この子もまた、暗いところで一人でいたのだろう。
「頑張ったね。あとは大丈夫だからね……」
リッカもそうだった。独り耐え続けていたのだ。ずっと撫でているわけにもいかないので、シャーロットは立ち上がる。リッカはここで安全でいてもらおうと思ったが。
「シャーリー。僕も役に立ちたい」
「え……」
リッカもまた、立ち上がっていた。彼が気にしていたことだった。ただ、大人しくしているだけではなく、力になりたかったのだ。一緒に立ち向かいたかったのだ。
「気持ちは嬉しいよ。でも、君はね」
そうリッカは容疑者だ。容疑者自らが前に出てくるのだ。
「……そっか。僕、容疑者だった。迷惑かけちゃう」
うう、とリッカは俯いた。シャーロットは彼を見た。この子はただ、純粋に役に立ちたいだけなのだ。それでも、危険なところに放り込むことにはなってしまう。
「……君は。ずっとそうだったね。力になりたい。叶えたいって。それじゃ、力貸してくれる?ちょっと大変だけど、君なら頑張れるよね?」
「シャーリー!」
リッカは嬉しくなって、シャーロットの周りを駆け回った。
「じゃあ、まずはこれを我慢してね」
「わっ」
シャーロットは粉を振りかけた。リッカはぷるぷると粉を振るい落とそうとするも。
「だめ、じっとしていて」
「うう……」
リッカは払い落したくなる衝動に耐えながらも、粉を全身に浴びた。粉は時間と共に、消えていった。
「吸収できたね。それじゃ、行こう」
「シャーリー。今のなあに?」
「――体力増強剤。魔法の粉だよ」
ここが正念場だ。シャーロットはドーピングをして、挑むこととなった。
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