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まさかの容疑者。

「……」

 シャーロットは祈り続けるばかりだ。健気に待っているであろうリッカの無事。危険な立場であるモルゲン達の無事。

「……アルト」

 シャーロットは彼にされた感触。その生々しさは体中どこもかしこも残ったままだ。あれだけ愛されていた。ただ、その愛はとても歪であった。

「それでもね。私は君を――」

 もうじき夜となる。この日を終えたら、ついに容疑者があぶり出される。

――おそらくモルゲンの可能性が高い。

 モルゲンはこう言ってくれた。女神像を守りきればいいのだと。そうだ、とシャーロットは頷く。シャーロットの目は光を失っていない。

「……!」

 シャーロットは身構えた。コツン、コツンと足音がした。誰かが来たようだ。まだ、事が起こるには早いはずだ。ましてや、カイゼリンたちが早目に迎えにきたとも考えにくい。

「アルト……?」

 今回のループではアルトとは会えていない。彼がシャーロットを探し当てたかとも思ったが、足音は複数だ。シャーロットは最悪の事態を覚悟した。――このアリバイは成立せず、金糸雀隊が狩りに来たのかと。

「……え」

 シャーロットの牢の前に立つ二人は意外過ぎた。――カイゼリンとリヒター。その二人だった。

「――シャーロット・ジェムさん。貴女の無罪は確定よ。お迎えに上がりました」

「私が無罪……」

「ええ。これで貴女の心配事もなくなりましたわね」

「……!」

 呆然としていたシャーロットも、それどころではないと悟る。シャーロットが容疑者が外れたとなると、他の誰かが確定したのだ。いや、と考える。シャーロットは頭が混乱するが、整理する。

 まだ女神像は破壊されていないはずだ。なのに、どうしてシャーロットの無罪は確定しているのかだ。それでは、他の誰かがまるで。

「カイゼリン様、あの……!」

 立ち上がろうにも、シャーロットはよろめいてしまった。

「貴女、空腹に加えて寝不足でしょう? ご無理はなさらないの」

 カイゼリンは鍵を開けて、リヒターを連れ立って牢内に入ってきた。リヒターにもたせていたのは、小瓶に入ったハチミツとスプーンだった。空腹状態のシャーロットに与えるためのものだった。

「用意したのよ。さあ、召し上がりなさいな。――リヒター、差し上げなさい」

「承知致しました、カイゼリン様」

 カイゼリンの命で、リヒターも近づいていきた。

「ありがとうございます……ですが」

 シャーロットは今になって空腹状態だったのを思い出した。ハチミツは大変有難いものだった。ただ、気がかりなのだ。そっちを聞くのが最優先だった。

「あとでいただきますね。それで、カイゼリン様。私が容疑に外れたということは、他の誰かがってことですよね。あと、女神像は破壊されたってことですか。あと――」

「お、落ち着きなさいな。まずは貴女のことではなくて? 顔色が悪いでしょうに!」

「私は平気です。お願いします、教えてください!」

 シャーロットは悠長にハチミツを食べている場合ではなかった。シャーロットは無理をして立ち上がって、平気だと主張していた。

「……何でも押し切れば良いと。そう、お思いですか」

 そう言ったのはリヒターだ。彼が自分のこと気に入らないのだろうと、シャーロットは常日頃考えた。彼がどう言おうが、どう思うが

「今はそうだと……ふごっ!?」

 言おうとしたシャーロットの口に突っ込まれたのは。ハチミツを乗せたスプーンだった。据わった目つきのリヒターによるものだった。

「……カイゼリン様からの施しです。有難く受け取りなさい」

「い、いえ、わたくしはそこまでは。ねえ、リヒター? 彼女、苦しそうでしてよ? そのくらにして差し上げて……?」

 狼狽えているのはカイゼリンだ。シャーロットの心配までしてくれた。

「……。カイゼリン様が早くせよ、と仰せです」

「……!」

 シャーロットは必死で舐めた。舐めきって、彼女自ずからスプーンを取り出した。口元が涎とハチミツ塗れとなった。

「……」

 リヒターが見てくる。口元が汚いと思われているだろう。シャーロットはハンカチで拭いはした。最低限だが、気にはしていられない。とんでもない男だと、シャーロットは内心で罵った。

「もう、貴女方は……。そうね、実物を見た方が早いわね。――リヒター」

「はい、カイゼリン様」

 リヒターは懐からビラ紙を取り出した。

「――昨夜に行われたのは、都にある女神像近辺への威嚇攻撃。近くには大穴が空いていたそう」

 カイゼリンは語る。そう、モルゲン達は予告から、脅しの攻撃までやってのけたのだ。彼らは女神像を破壊したわけではない。

「今回は威嚇に過ぎなくとも。それでも『審議』にはかけられたそうよ。異例でもあって、検討に検討も重ね。捜査も難航したとか。そうして割り出された容疑者が。……嘆かわしいこと!」

「こ、こ、これは……」

 シャーロットがビラを持つ手が震えていた。一体どうして、こんなことになってしまったのか。

『春の女神像破壊未遂事件。容疑者はリッカ(犬)。発見者はただちに報告せよ』

 今頃都中にも、学園中にも。ビラはばらまかれ、貼りまくられていることだろう。

 モフモフとしたワンコの写真を載せたものが――。


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