利用するは、自治委員会。
「――女神像が破壊される、ですって?」
シャーロットは自治委員会を訪れていた。モルゲンも付き添ってくれていた。自治委員会は休日も活動している。いるのはカイゼリンとリヒターの二人。それは変わらずだった。
自己紹介は済ませ、シャーロットはいきなり切り出した。
「はい、近いうちに爆破されることになります」
「いえ、貴女。どうしてご存じなの? あの女神像よ? 自治委員会のことも、お詳しいようね」
カイゼリンがおかしいと思うのももっともだ。それも初対面の相手にである。相手はどうやら自分らのこと見知っているのも、奇妙な話だった。
「編入前の面談で相談に乗っていたんだが、繰り返し夢を見るらしい。明後日の夜、女神像が破壊される。その翌日、疑われるのがシャーロット・ジェムだ」
モルゲンが面談の内容として説明してくれた。カイゼリンはまだ胡乱な目で見てきている。
「俺は、生徒の言うことなら信じたい。しかも、こいつは思い詰めたあまり、とんでもないことを言い出してな」
ほら、とモルゲンが促す。そうだ、これはシャーロットが言わなくてはならない。願いでないといけないものだ。
シャーロットは直角にお辞儀すると、カイゼリンに懇願した。
「カイゼリン様、お願い致します。――私を独房に閉じ込めてください」
「……今、なんと?」
さすがにカイゼリンも面を食らっていた。どこからそうなるのかと意味がわからなさそうだ。
「カイゼリン様……話、聞くだけでもよろしいのでは」
「え、ええ。そうね。いいわ、御上げなさい」
リヒターに言われたこともあり、カイゼリンは話を聞くことにした。
「夢ではいつも、私は容疑者になります。このままその日を迎えるとなると、私の精神がもちません。独房は不可侵であると聞きました。もちろん、私自身も出られないことになります」
「――つまり。私共をアリバイに利用しようということで、お間違いはありませんか」
リヒターが指摘してきた。その通りだ。
「はい、そうです」
その通りだからこそ、シャーロットはそう答えた。
「利用、というのは面白くはないわね」
カイゼリンは難色を示している。雲行きは怪しくなってきた。
「……」
元々無茶ぶりの奇天烈な話だ。
「お願いします、カイゼリン様。――信用に足る方だからこそ、あなたに私を委ねたいんです!」
「……!」
「私のこれからは、あなたが鍵を握ってます。私はあなたを信じてます。あなたなら、きっと信じてくださると。まだ生徒でもない私ですが、分け隔てなく思ってくださると」
「貴女……」
だからこそ、シャーロットは力押しで話し続けていた。彼女は自分でも不思議だった。こうも、人に訴えることが出来るのか。思いが、願いがあるからこそ、彼女を駆り立てていた。
「カイゼリン様、いかがなさいますか」
「えっ……ああ、そうね」
呆けていたカイゼリンに、リヒターは確認をとった。
「まあ、よいでしょう。貴女は好き好んで独房に入るだけ。――鍵はわたくしが責任もって管理しますわ。せめてお迎えには参りましょう」
「ありがとうございます……!」
カイゼリンは話を受けてくれた。犯行が行われていたのは、明後日の夜だ。その前、いや一日中でもシャーロットがそこにいれば、アリバイは成立だ。
「まあ、貴女の戯言に付き合うくらいの器量はありますわ。では、話はこれくらいかしら」
「ああ、シェリア。俺からも頼みがある。――自治委員会、緊急出動だ。俺もつかせてもらおう」
今度はモルゲンからだ。モルゲンとしては、自治委員会に力になってもらうことにしたようだ。
「……ああ、モルゲン先生。そういうことですわね」
カイゼリンは辟易していた。この少女の戯言をどこまで付き合わなくてはならないのかと。
「まあ、とことん付き合って差し上げましょう。リヒター、良いわね?」
リヒター一人でもいいだろうと、それで妥協しようとしたが。
「ああ、リヒター一人だけじゃない。お前も含めた全員だ。当日だけでもいいぞ。まあ、深夜回るが、そこは引率もいるからな」
前はリヒター一人だったからこそ、ああなってしまった。戦力としてよりは、人海作戦だった。こう、多い方がいいだろうと。正直ここは不安要素が残ってはいる。でも、最善であるとシャーロット達は信じていた。
そして、モルゲンは考えていた。要は自分であると。
「俺もな、気張らないとってな……生徒に強い意志見せられちゃな。奴相手だろうと、腹を括るよ」
「モルゲン先生……」
モルゲンと目が合った。彼は心配するなと目で伝えてくれていた。
「わ、わたくし達を駆り出そうというのですね」
「ああ、教師たってのお願いだ。シェリア?お前は学園をより良きしようといつも頑張っているよな?先生、そこはわかっているぞ?」
「……まあ、そこは。仕方ありませんわね。――リヒター!緊急招集をかけなさい」
「かしこまりました、カイゼリン様」
リヒターは恭しく礼をすると、シャーロット達の横を通り過ぎる。
「――良かったですね。相手がカイゼリン様で」
「……?寛容、ということでしょうか。はい、懐の深い方ですね」
「ふっ」
シャーロットは笑われた。そう、リヒターが鼻で笑ってきたのだ。不可解だが、今はシャーロットは気にしない。
「――さて、彼らが集う前に。シャーロット・ジェムさん? 貴女のお覚悟は、確かに伝わりました。わたくし、感銘を受けました」
「そんな、ありがとうございます」
「――では、参りましょうか。今回はわたくしが特別に付き添いましょう」
カイゼリンは専用の椅子から立ち上がると、独房の鍵をちらつかせてきた。
「……おい、待てよ。シェリア、今から連れて行く気が?」
当日だけで良かった話が、今から独房にこもる話になっていた。話が違うとモルゲンが真っ先に異議を申し立てた。カイゼリンはものともせず、シャーロットに問う。
「ええ、そうですわよ?シャーロットさん? 貴女にそれだけの覚悟があるとおっしゃるのなら。――わたくしに見せてくださるかしら?」
「……はい、カイゼリン様。よろしくお願い致します」
「殊勝だこと」
納得がいかなさそうなモルゲンに、シャーロットは一礼した。あとは、カイゼリンに連れられて独房行きだ。
「……あいつ、何かあったんだな」
今までもなりふり構わないところもあったが、今回は顕著だった。それほどの覚悟あるというのなら。
「ここからは俺次第、だな」
モルゲンもまた、計画の為に動き出していった――。




