無茶無謀な今回の作戦。
「随分、早かったな」
シャーロット達を迎え入れたモルゲンは言う。これまでにない来訪の早さだった。彼も何らかを察してはいるようだ。
「……詳細は、いつかはお話させてください。今はとても」
モルゲンには話せる心境ではなかった。
今回こうも駆られたのも、シャーロットの直感によるものと、夢の状態もあった。今にも呑まれそうで、差し迫った状況であると悟ったのだ。
「……そうか、わかった。今のことを考えようか」
シャーロットは立ったままだ。リッカも床を歩き回っていた。なら、とモルガンも壁によりかかっていた。
「――私、いくつか考えてきたんです。かなり、無理をさせることになります」
シャーロットは話し始めた。これからの計画のことだ。
「お前はいいのか」
一通りの説明を聞いたモルゲンは、承諾はしづらかった。彼女への負担を考えた末だ。シャーロットは頷いた。
「まず、私が疑われない。となると、そうするしかないと思いました」
「そうか。いいんだな」
「はい」
モルゲンはやたらと念押ししてきた。シャーロットの返事は一つだ。
「命を落とすよりかは、マシだよな。あとは」
モルゲンの方でも、考えていたことがあったようだ。それを語り始める。
「……モルゲン先生」
シャーロットは思わずにはいられなかった。モルゲンの方がよほど、危ない橋を渡ることになると。彼のその行動は。――容疑者として確定するようなものだった。
「それって無謀です。反対したいです。……でも」
「ああ、わかってくれるな。――お前が覚悟するなら、俺もしなくてどうするんだって話だ。な、リッカ?」
シャーロットの足元をまとわりつく犬にも話しかけた。リッカは、ワンと良い返事をした。
「……お願いします、モルゲン先生」
「ああ。いい子だ、シャーロット」
無理にでも納得した彼女を、モルゲンは笑顔で讃えた。
「それとだ。心配するな。今回は協力者も要請することにした。本当は巡回にでもって考えていたんだけどな。……見た目怪しくてな」
「怪しい、ですか」
「ああ。今回にうってつけだ」
モルゲンの方はもう、彼任せになってしまう。博打だ。それでも勝負に出るしかない。
「あとは。――これ、渡しておくな」
モルゲンから渡されたのは、円盤上の物。ボタンがいくつかついている。説明書も一緒に渡された。シャーロットはぱら見した。この世界における、トランシーバーのようなものか。性能的にはスマホといってもいいかもしれない。
「いわば通信機器だ。さっきの怪しい奴ら絡みだな。最終日に使おう」
「最終日ですね」
シャーロットは、ざっと目を通しただけではある。この機器製品にもバッテリーのようなものがあり、最悪充電切れで使用できないことがある。いたずらに使用は出来なさそうだ。
「といってもな。……何かあったら、すぐ使えよ。俺はお前を優先したい」
「先生……」
シャーロットは生徒思いだと嬉しくも思った。それでも、こればかりは頷けはしなかった。どうみても危険なのはモルゲンの方だからだ。
「あとは、リッカだな。いつもの隠れ場所にご飯とか水置いておくからな。一気に食べるなよ」
「……」
いつの間に二人の秘密の場所があったようだ。当のリッカはというと、どこか元気なさそうだった。
「僕も、僕にも何かできることある?」
リッカは顔を上げて、二人に問う。シャーロットとモルゲンは顔を見合わせた。
「リッカ。リッカもね、生き残ること。生きててくれればいいんだよ?」
「うん……」
シャーロットはしゃがんで、リッカを撫でた。リッカは俯いたままだ。
「……リッカ?」
やはり元気がないままだった。作戦決行の前に、シャーロットは不安が残ってしまった。
「お、言ったな。シャーロット?」
雰囲気を変えるかのように、モルゲンは明るく言った。
「リッカもそうだし、お前もだ。俺だってそうだ。生きてりゃいい。どうとでもなるよ」
モルゲンは笑ったまま、こう告げた。
「ま、その上でな? これもこなさなくちゃならない。『女神像を守り抜く』。何が何でもだ。そうすれば、俺達の未来はつながる。そうだろ?」
「……はい。はい、モルゲン先生!」
自分達が生き残る道は、女神像が壊されないこと。それに限る。
今回の作戦は万全とはいえない。リスクを背負ってのものとなる。不安はあるものの、シャーロットはある言葉を思い出す。春の女神によるものだ。――強い意志があれば、乗り越えられると。
シャーロットは笑った。気合で乗り切れと言われているようなものだ。今思えば、体育会系だなと。そんな言葉が今、彼女の原動力となっていた。
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