彼に愛される日々。―アルトメリバルート突入中⑥
日々は順調に進んでいた。アルトとの愛も育まれていた。
今日も開店の準備をする。シャーロットは店の前に立つと、変哲のない一本の木を見た。ありふれた木だ。とりとめもないはずである。
『――はね、こわくないんだ』
『ーが幸せならいいや』
「……」
確かにいたのだ。愛しい存在がそこにいたはずなのに。シャーロットは頭を抱える。やはり思い出せなかった。
「シャーロット? どした?」
アルトが後ろからやってきた。
「……ううん、何でもないよ」
「そ? でさ、教会貸してくれるって。タダでいいって言ってくれたけどさ。そこはちゃんとするから」
「ねえ、それなら」
お金を払う件にはシャーロットも特には反対しない。村の厚意だとは思うも、異論はなかった。彼女がしたいのは、別の提案だった。
「ご家族は厳しいなら、村の人達はどうかな?すごく祝福してくれるし。もちろん、ギルドのみなさんだって――」
「誘わないよ?」
「え……」
アルトは当然といわんばかりに微笑んだ。
「シャーロット? 俺達二人だけの式だよ?」
「だって、あれだけ仲が良いんだし」
シャーロットは振り返る。学校での彼のことは知らない。そう、知らないはずだ。だが、ギルドや村民たちと接している彼は、あんなにも笑っていたのにだ。
「仲良し、ね。そりゃ、愛想はよくした方がいいじゃん。でも、それだけ」
「!」
アルトははっきりと言い捨てた。シャーロットは驚愕した。
「って、お客さんでしょ? ちゃんと接客しますってー。もうー、どうしちゃったの?」
「どうしたって……」
さもシャーロットがおかしいように言う。
「ってことで、招待客は無し!」
アルトはいつものようにシャーロットを抱きしめた。アルトは低い声で言う。
「ウェンディングドレスのシャーロット、世界一可愛いじゃん。誰が見せるかっての」
「……」
「あ、でも普段のシャーロットも。仕事着も。うちの学園の制服姿も可愛いのかな。ね、ね、寝間着シャーロットも可愛いし?あー、だめだ! どのシャーロットも優勝すぎる! 俺には決められない!」
アルトは人の耳元で騒ぎ立てた。シャーロットは黙ったままだ。
「あれ、引いた? ……あっぶね。ありのままのシャーロットとか、言わなくて良かった」
アルトは言ってしまっていた。いつものシャーロットならば。ここで怒るなり、冷めた目をするなりしてくるはずだが。
「……アルト、いいの? 私達だけで。私達以外はいらないの?」
シャーロットはぽつりと言った。アルトは溜息をついた。
「やだな、シャーロットは極端なんだから。俺だって、自分達だけで生きていけるとか考えてないって。生計立てなきゃ、だし。……でも、それいいよね」
アルトは淀んだ目をしながら、言う。
「シャーロットと俺だけの世界でさ。ずっと二人だけ。ずっと、愛し合うんだ。ずっと、ずっとね――」
「……」
「ああ、しあわせだなぁ……」
そうだ。シャーロットもそうだと思った。自分は今日もしあわせであると。
目の前にはアルトがいて。アルトの愛に満たされているのだから。
シャーロットの幸福な日々は続いてた。アルトに愛される、満たされた日々だ。
今宵もベッドの中でアルトが寝ている。彼もシャーロットも寝間着姿だった。
シャーロットはそっと抜け出した。彼が反応しなかったことに、安堵している自分がおかしいと思いながらだ。
シャーロットは、机の引き出しを開いた。とっておいたのは、学園からの推薦状だ。どうしてだろう。記憶にないのに、懐かしいと思うのは。
『俺はな。お前には楽しく過ごして欲しいんだ。学園生活をな』
『お前なら友達だってすぐに出来る。部活動だって、入ってみたかっただろ』
『弟を頼む。こいつを、どうにか……』
知らないはずだ。覚えてないはずだ。なのに、なかったものとも思えない。
「あ……」
シャーロットの頭に響いたのは、落ち着いた大人の男性の声だ。温かみのあるその声に、シャーロットは胸をしめつけられるようだった。
「――誰のこと考えてるの」
アルトはいつの間に、シャーロットの背後にいた。後ろから彼女を抱きしめる。
「アルト!?」
彼のこと、また起こしてしまったのか。シャーロットはまた詫びようとするが。
「だからいいんだって。俺、前もそうだったけど。寝てないから。君のこと、ずっと見てた」
「寝てない……?」
「……うん。まあ、寝てないっていっても。なんだろ、眠る必要がないのかな。ずっと、こう。――高揚感があるんだ」
アルトは恍惚とした表情で、左胸に手をあてた。ドクンドクンという音が、シャーロットまでにも聞こえていた。やけに大きな音だ。
「あれかな……シャーロットといすぎて、おかしくなっちゃたのかも」
アルトは笑うも、シャーロットは笑えなかった。おかしい、その言葉がシャーロットの中で反芻される。――おかしいのかと。
「ま、起こされたってことにしとこっと」
「アルト!?」
シャーロットをベッドに押し倒し、アルトは上になる。
「そうそう、シャーロットに起こされちゃったの。連日は疲れるかなーって、遠慮してたけどさ?――やっぱさ、今夜もしちゃおっか!」
明るく言ったアルトは、のっけからディープキスをしてきた。シャーロットの頭はくらくらする。こうなると、もう彼女はされるがままだった。
このままずるずるとアルトに愛される。しあわせな夜となった。
「……」
しあわせなはずなのに。シャーロットは集中しきれずにいた。
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ヤンデレメリバエンド、成立直前です。




