彼に愛される日々。―アルトメリバルート突入中④
看板は閉店のもの。店は休みにした。二人でゆっくりと過ごした。
二人はソファに座っていた。アルトの足の間に、シャーロットは座っていた。暖炉についた炎が揺らめく。
煤汚れなどはほとんどない。部屋の汚れもだ。部屋はいつだって清潔だ。料理もアルトの愛情が込められたものである。――シャーロットの生活は満たされていた。アルトが尽くすことによって。
「はい、乾かしましょうねぇ」
アルトがドライヤーにあたる器具を手にもつ。シャーロットの髪を乾かす。
お風呂上がりの二人のお決まりの時間だった。アルトがシャーロットの髪を乾かす。自分の分は適当だった。
「いつも私が先だし。というか、自分でやるから」
「だめでーす。却下でーす。シャーロットでもでーす。俺の至福のひととき奪わないでくださーい」
いつものやりとりだった。
「じゃあ、妥協する。シャーロットのが終わったら、俺にもやって?……またがって、こう」
抱え上げられたシャーロットは、アルトの太ももの上に乗せられた。真正面で向き合う二人となった。
「こ、これって……」
かなり恥ずかしい体勢となった。シャーロットだけではなく、アルトもそうだった。
「って、実際にやるとやばいわー……。なにこれ、やばいわぁ……。やっぱ、なしで」
「いいよ。これからはそうしよう。順番だって、交替にしよう?」
触れたいのはアルトだけではない。
「……私だってそうなんだよ」
シャーロットもそうだった。彼の濡れた癖毛に、指を添わせた。
「わぁ……」
アルトは声をもらした。そればかり連呼している。
「わぁ、今すぐにでもお願いしてぇ……いや! まずはシャーロットの髪をちゃんとやろう!」
シャーロットを定位置に戻した。髪をとかしながら、乾かしていく。
「髪、さらさらだね。綺麗だわぁ……」
アルトはうっとりしながら、彼女の髪に触れていた。艶々で光沢のあるカナリア色の髪だ。
「そうかもね。アルトと暮らし始めからは、本当にそう思う」
髪だけではない。肌艶もそう、何もかもが潤っていた。村の人達に言われるようになった。――本当に綺麗になったと。
「シャーロットは元から可愛いじゃんか……昔から、だっつの」
「アルトがそう思ってくれるなら、嬉しいな」
シャーロットは背後のアルトに向けて、微笑んだ。
「……」
アルトは黙ってしまった。そのまま黙り込むかと思いきや。
「……今は乾かす。今は維持する。このキューティクルを守る。今は、今は」
ブツブツ言いながら、シャーロットの髪を乾かし続けていた。
「はい、終了!」
と同時に、シャーロットを自分の太ももの上に乗せて、真向いにさせた。向き合う二人は体を密着させた。
「あっ、私の番か」
アルトの手つきに心地よくなっていたので、シャーロットは反応が遅れた。ソファの上にあるのは道具やタオルをとろうとする。手を伸ばそうとすると。
「……こんなん、こうするでしょ」
「!」
アルトからのキスだ。軽く、何度も唇を触れ合わせる。
「……」
最初の頃に比べれば、シャーロットも呼吸の仕方が上手くなった。もう呼吸困難に陥ることもない。それも。アルトが彼女のペースに合わせてくれていることもあった。
「って、アルト。髪、乾かすんじゃ」
流されるわけにもいかずと、シャーロットは彼の唇が離れた隙に道具をとろうとした。
「いいよ。俺のことはあとで」
「あとでって……!?」
口づけは深くなっていく。こうなると、シャーロットは思考がままならなくなる。ただ、このことしか考えられなくなる。彼の首に腕を回した。しがみつく形となり、二人はより近づく。
何度も何度も。もう、お互いのことしか考えられなくなっていた。
「……はあ」
どれだけ時間が経ったのか。二人の唇は離れた。
「とりあえずは、このへんで。ほら、お休みの準備しないと」
「うん……」
寝る前の支度や、明日の準備もある。一旦、中断することになった。
「あらら」
アルトの髪は自然乾燥任せとなってしまった。シャーロットはアルトによって立たされるも、腰に力が入らない。嬉しそうに笑ったアルトが、彼女を抱き上げた。
「ね、シャーロット。今夜はこのままベッドに直行しよっか。たまには、ね?」
「うん……」
二人が寝るところは、シャーロットの部屋のベッドだ。アルトの自作ということに、シャーロットはびっくりした。商品としても十分通用するレベルだった。
あの壊れかけのベッドは処分された。新しいベッドは二人で寝るには若干狭いものの、くっつけると特にアルトが満足そうだった。
部屋に着くと、シャーロットはベッドに下ろされた。せっかく着た寝間着も脱がされている。アルトも服を脱ぐと、ベッドの下に放り投げた。几帳面な彼にそぐわない。それほど、彼は焦れていた。早く、早く。
ありのままの姿で、彼女と触れ合いたかったのだ。
「シャーロット、綺麗だね。本当に綺麗……」
彼女を見たアルトは、うっとりとしていた。
「綺麗……」
シャーロットは何度見ても、彼の裸は見慣れない。月の光に照らされると、より露わになる彼の姿。整った顔立ちも、細身でありながら筋肉質でもある体躯も。
「アルトの方が綺麗だよ」
いつだって、優しくて。明るくて。愛で包んでくれる。そんなアルトこそが、綺麗だとシャーロットは思っていた。彼の頬に手を添えて微笑んだ。
「そっか……」
アルトも目を細めて、その手に手を重ねた。ねえ、と彼は話しかけた。
「もうすぐ君の誕生日だね」
「……うん」
「まず、籍入れにいってさ。式あげてさ、そのあと俺がご馳走奮ってさ。……で、初夜じゃん。初夜なわけじゃん」
アルトは興奮気味だった。いけない、と彼は自身を落ち着かせた。
「……最後までしようね?」
駄目かな?と彼は不安そうにしていた。しょぼんとしている。
「アルト……」
その言葉の意味は、シャーロットにもわかっていた。
「……うん、しよう」
わかった上で、シャーロットは頷いた。
「はあ、言ってみるもんだ」
アルトは幸せそうに笑った。
最後の一線はまだ越えてはいない。アルトとしては、彼女の心の準備が出来るまで悠長に待つつもりだった。一線はまだ越えてないながらも、――その夜も二人は愛し合った。
「わたしは、しあわせ」
シャーロットは幸せだった。彼の愛に包まれて、満たされていた。
溶けない雪のようだと。そう言っていたのは誰だったか。
唯一溶かしてくれるというなら。終わりを、結末を迎えられるとしたら。
それは、彼に溶かしつくされること。彼との未来を選ぶことなのだろう。




