彼に愛される日々。―アルトメリバルート突入中②
「……アルト、あのね。ご家族招待しない?結局、ご挨拶できないままで」
孤児のまま院を出たシャーロットと違い、アルトは引き取られていた。アルトは家族の話をしたがらない。シャーロットもそのままにしていたが、こうした機会に、場を設けたいということもあった。
「いいっていいって。俺からアイツらに報告だけはしとくからさ。……俺のこととかどうでもいいだろうし」
シャーロットも深く追求はできていなかった。これはアルトの負の部分であり、彼が抱え続けてきたもの。
「アルト……」
それでも、時間かけて分かち合っていきたかった。彼の胸にそっと手をあてた。
「いつかは話してね。私だって、支えたいから」
「シャーロット……うん。君には話すから。時間かかってでも」
シャーロットからの言葉に、アルトも愛しそうに微笑んだ。
「ご家族かぁ」
シャーロットの本音は、逢ってはみたかった。そう、シャーロットは思っていた。彼にも優しくしてくれた家族はいたはずだと。――彼の兄がそうだ。厳しくはしつつも、弟思いの存在がいるはずなのにと。
「……お兄さん?」
シャーロットは疑問だった。どこから彼の兄が出てきたのだと。
「え、なに。シャーロット。俺がオニイサンってこと?」
唐突だなぁとアルトは笑う。シャーロットはそうではない、と尋ねてみることにした。
「アルトにお兄さんっていた?」
「……え、本当に急すぎない?なんで俺に兄貴がいるって」
「わからない。あの、アルト」
シャーロットは本当にわからなさそうにしていた。ふと、アルトの顔を見る。不思議に思われたのもあるだろうが、正体不明の不安もあった。――他の男の話をして、アルトは悋気を起こさないかと。
「気、悪くした?お兄さんに興味とかじゃなくて。私でも本当にわからなくて、勝手に浮かんできたというか」
シャーロットはやけに言い訳がましくもあった。まるで浮気を咎められた気分になっていた。
「もう、シャーロット。怯えないのっ!」
「!」
アルトはシャーロットのほっぺたをむぎゅっとした。
「モチモチやで……って、それどころじゃないか。恐い顔してたんなら、俺こそごめんね?こう、シャーロットのスピリチュアル的な何かじゃない?」
「そういうものかな……」
「シャーロットなら不思議じゃない。俺のシャーロットは何でもありだ。うんうん」
アルトはひとしきり頷くと、笑んだ。
「兄貴くらいなら、いいよ。いつか会わせてあげる」
「え……」
アルトは穏やかだった。余裕もあるくらいだ。
「まあ、兄貴さ。こう見た目が、こう、大人な男ーって感じだし。つか、シャーロットにも惚れそうだし! ほんとはね、あんま歓迎したくないんだけど!」
「いや、惚れるとかは……」
さすがにないだろうとシャーロットは苦笑する。そもそもまだ出逢ってないはずだと。
「いんや、危険だね! ……でも、いいんだ。だって、シャーロットが好きなのは俺だもんね。それはもう揺らがないわけだし!」
「アルト……うん、そうだね」
シャーロットも同意した。素直な気持ちだった。
「……そうそう。シャーロットはもう、俺のもの。他の奴にとられることもないんだ」
「うん。……うん?」
他の奴。他の人間。シャーロットはハッとして、アルトから離れた。
「アルト! お客さん! お、お、お客さん!」
「あら、パニくりシャーロット? どしたん?」
慌てふためくシャーロットをアルトはおちょくる。かわいいねぇと呑気だった。
「私、お客さん放置して! って、今までのも見られてたり――」
店は営業中であり、たくさんの客もいた。この一連の流れを見られていたとしたら、羞恥そのもの過ぎる。
「これこれシャーロット。あの人らからの伝言だよ。えっと、『若いお二人さんがラブラブなので、おいちゃん達は帰ります。仲良くおやり』だってさ」
アルトがカウンターに置いてあったメモをひらひらさせていた。代金も置いてあったが、販売金額をかなり上回っていた。彼らなりのご祝儀かもしれない。
「私はお客さんを放置して……! お金だって返しにいかないと」
シャーロットはカウンターに手をついて項垂れた。もう、とアルトは言う。
「こういうのって気持ちじゃない? っていっても、シャーロットだし。今度来たら返してあげたら?」
「……うん。そうする。伝票と照合しなきゃだし。はあ」
シャーロットは基本的には伝票を用意している。見知った仲のアルトならともかく、他はちゃんとしたかった。そのアルトも最近は購入はしていない。ギルド仕事をしなくなったからだ。もちろん、直接シャーロットからもらえるということもある。
シャーロットは顔が赤くなったままだ。結局、どのタイミングで帰ったかはわからなかった。
「そうそう。じゃあ、続きを――」
アルトは腕を広げた。シャーロットがいつものように飛び込んでくるのを待つ。
「待って。お客さん、ずっと来てなくない? ……私、確認してくる」
「えー。じゃあ、俺も俺も」
シャーロットは思い当たることがあった。常連たちは気を利かせてくれた。二人になるようにだ。そして、それから途切れた来店客。まさか、店の立て看板が閉店になっているのかと。
「すぐ戻るし。だって、すぐそこだよ?」
店を出ればすぐの距離だ。それでもアルトはついていこうとした。シャーロットはやんわり遠慮した。
「はーい。じゃあ、伝票チェックしときまーす」
「うん、ありがと」
アルトに礼を言って、シャーロットは店を出た。言うだけ言うものの、アルトはそれほどつきまとったりはしない。アルトには余裕があった。




