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いつだって、限界寸前だった。

 この日も、シャーロットは自治委員会を訪れていた。学園内でも巨大な力をもっている。彼らが力になっているのなら、心強いことこの上ない。

「ええ、わたくし共も女神像は大事に考えております。ですが、どう貴女のお言葉を信じればよろしいのかしら? 戯言と思うのが普通ではなくて?」

 答えは決まってそうだった。学園の生徒でもない、赤の他人同然だった。

「――でしたら、私が一晩中張り込んでます。その上で、ご判断のほどお願い致します」

 一番疑われるシャーロットが、一番疑われる状況にいる。モルゲンも反対することだろう。

「……」

 金糸雀隊が来なくなった頃から、シャーロットは何度か試みていた。自分が見張るしかないと。猛反対していたモルゲンも、結局は付き合ってもくれていた。――結果、共犯扱いとされてしまったが。

 自治委員会を巻き込むのは初めてだった。乗ってくれる可能性も低い。それでも勝負に出たかったのだ。

「まあ」

 カイゼリンはいつもの豪華な椅子に座りながら、思案していた。隣にいるリヒターにも相談しているようだ。

「……」

 リヒターが見ている。彼はシャーロットを観察しているようだった。

「――シャーロットさん? わたくしも、同じ女神像を崇拝する身として。我が自治委員を派遣してもよろしくてよ。その一日でよいのでしたら、それくらいはよいでしょうよ」

「カイゼリン様! ありがとうございます!」

 シャーロットは深くお辞儀した。感謝の気持ちで一杯だった。

「ええ、かまわないわよ。では、――リヒター。一晩中ついていてあげなさい」

 シャーロットは勢い良く顔を上げた。まさか、リヒター一人に負担をかけさせる気なのか。

「仰せのままに。カイゼリン様」

 リヒターは顔色一つ変えずに、カイゼリンに恭しく接していた。

「……よろしくお願い致します。リヒターさん」

「……」

 リヒターはまた、シャーロットを見ていた。

「――いえ、失礼致しました。カイゼリン様の命は第一ですから。お気になさらず」

「はい……」

 その忠臣ぶりには、頭が下がる。

 シャーロットの心も軽くなった。自治委員会のアリバイ証言は心強い。


 シャーロットはその夜を迎えた。防寒具を着て、女神像前へと座り込んだ。犯行時間は毎回夜から朝にかけてだった。シャーロットは徹夜する覚悟でした。

「……」

 リヒターもまた、待機してくれていた。彼の恰好は、自治委員会用の制服だ。つまり、防寒対策が何もなされてない。厚手素材とはいえ、限度があった。

「……」

「……」

 二人の間には会話がない。シャーロットはそれでも良かったが、気になっていたことを尋ねてみることにした。

「寒くないですか?」

「寒いです」

「ですよね。これ、良かったら――」

 リヒターは即答だった。それならと、シャーロットは自分の防寒具を貸そうとする。

「いえ、お構いなく。寒かろうと熱かろうと。この服装に誇りを持つべきだと。カイゼリン様のお言葉です」

「立派だとは思います。ご無理はなさらないでくださいね」

「はい」

「……」

「……」

 またしても沈黙が流れる。シャーロットはそれでよいと思った。

 時間が流れる。賊の気配はないものの、いずれは現れるはずだ。

「――必死ですね」

「え」

 リヒターは一定の調子で言ってきた。困惑したシャーロットはともかく、人によっては煽られているともとれた。いや、煽っているのではないかと。シャーロットも思い始めてきたからだ。

 なにせこの表情の無さだ。表情の変化がないなりにも、話を続けてきた。

「女神像に思い入れでもあるのですか」

「思い入れは、あります。綺麗だと思いましたし、こう、見守っておられるなって」

「さようでございますか」

「はい、大事な像だと思います。だから、失いたくないんです」

 シャーロットのその言葉は、強い気持ちが込められていた。女神像が大事なのも本当だが、喪失しないことで守られる未来もある。

 リヒターの言う通りだ。シャーロットは必死だった。

「……」

 リヒターは黙ってしまった。シャーロットも黙る。

 静かだ。本当に静かだった。このまま、何事もなければとシャーロットが思っていた。その時だった。

 誰かが倒れた音がした。この場にいるのは、シャーロット。そして――。

「リヒターさん!?」

「……」

 無言で倒れたのはリヒターだった。シャーロットは慌てて彼の元へ。失礼など気にしてられない。シャーロットは顔を近づけて、呼吸を確認する。呼吸はしていた。

「でも、頭打ってるんじゃ――」

 シャーロットを覆うのは影。そう、ここに賊がいるのだ。シャーロットが振り返ろうとするも。

「!?」

 大きな手で視界を塞がれた。シャーロットの口元に放られたのは、覚えのある匂いの。――睡眠薬だった。

「……手荒なこと、したくないんだ。といって、暴れられても困るし」

 軽々とシャーロットは抱え上げられた。眠る彼女を何者かが連れていく。

「ああ、沸いてくるなぁ。次々と、次々と。シャーロットの周りに、邪魔者ばかりが沸いてくる。ねえ、シャーロット。俺がどんな気持ちで見ていたと思う。ずっと」

 ゆらりと揺れながら、シャーロットは連れていかれていく。

「ずっと。不思議だった。記憶にないはずなのにね。ずっと、ずっと。君が、他の奴と話すのを。他の奴から触れられるのを。他の奴を思うのを。ずっと、見てきて。ずっと、見せつけられてきて。ずっと、ずっと。ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと――」


 代償とはなんだったのだろうか。微睡むシャーロットは考える。いつかリッカが言っていた。

『――雪みたいだね。積もって、積もりつづけていく。でも、雪みたく溶けない。ずっと残ってるの』

 それが彼からの思い、愛が含まれているとしたら。不用意に積もり、積もらせてきてしまったとしたら。

 もう溶けもしないとしたら。終わりがないのだとしたら。

 代償とはなんなのか。何が代償だというのだろうか。

ずっとの箇所ですが、ずっと手入力してました。

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