助かった、それが正直な気持ち。
「ごめん、帰る!」
彼が離れた隙にと、シャーロットはふらつきながらも立ち上がった。逃げようとしているのに、アルトは楽しそうに見ているだけだった。可愛いとも呟いていた。
玄関に近づくにつれ、犬の吠える声が聞こえてきた。時折、咳き込んでいた。どれだけ吠え続けていたのだろう。
「リッカ……!」
シャーロットは扉を解錠した。苦しそうにしていたリッカがそこにいた。この子は異変を察知したのだろうか。シャーロットを助けようと、吠え続けていたのだ。
「……犬ねぇ。別に俺はいいよ?犬に見られながらでも」
背後からやってきたのはアルトだ。彼は余裕そのものだった。
「アルト……」
「俺、小動物いたぶる趣味もないし。シャーロットも悲しい顔させたくないからさ。だから、大人しくしてるよね?」
これはリッカに向けた言葉だ。リッカは震えながらも吠え続けていた。シャーロットは吠える彼を抱っこしようとしたところ――。
「だめでしょー。リッカちゃん放り出したら」
「えっ……」
シャーロットではなく、リッカを抱っこしたのは先ほどの男子生徒だった。よしよしと背中を撫でていた。
「オレ、遠くから見てたんだけどさ。その子、お座りしたり?ぐるぐる回ってたりで落ち着きなくて。で、急に吠え出したから。いよいよ放っておけなくてさー」
リッカをあやしながらも、彼は語っていた。おー、よちよちとまで言っていた。
「……で、なに。そのまま犬の相手でもしてくれるの?助かるけど」
男子生徒はこの気だるげで色気漂うアルトと、息が上がっている女生徒を見た。見比べて、彼は手を打った。
「いんや! アルト君、学校行こ!」
「……は?」
「はい、寮長なんでー。そこんとこ、しっかりしとかないといけないじゃーん? はい、制服に着替えた着替えた!」
実は男子寮の寮長でもあった彼は、勝手に仕切り出した。
「で、シャーリーちゃん? 寮の入り口まで送っておくからさ」
「なに、勝手に――」
アルトは寮長を睨んだあと、シャーロットを見た。彼女は顔を青くしながら。――アルトを怯えた目でみていた。
「……」
じっとシャーロットを見ていたが、アルトは顔をそらした。
「時間は、そうだ。たっぷりある。――もっと、わかってもらうだけだ」
アルトはそれだけ言うと、部屋へと戻っていった。
「……」
シャーロットは閉じられた扉を見ていた。
「……ねえ、大丈夫だった?」
男子寮長は、心配げな表情をしていた。彼の明るさが鳴りを潜めていた。
「……あの、色々とご心配かけました。リッカもごめんね?」
リッカは首を振った。男子寮長が歩き始めた。リッカも流れで彼の腕の中にいる。良い感じに収まっていた。リッカが嫌がってないようなので、シャーロットはお任せすることにした。
「いいって、いいって。あ、寮生発見ー。授業サボる気かー? って逃げるなー!」
寮長はそこらにいる寮生に声をかけていく。一人ひとり名前を呼んでいた彼は、分け隔てなく接していた。アルト相手もそうだ。
そうこうしている内に、男子寮入口までやってきていた。リッカはシャーロットに戻された。
「それじゃっ! 今度も遊びに来てねー。リッカちゃん連れてさ」
「はい、お邪魔しました」
両手を振る男子寮長に会釈し、リッカを地面に下ろす。散歩として校内を散策することにした。
「シャーリー、大丈夫?」
「……!」
リッカも心配そうだった。しっぽも下がっている。
「うん、大丈夫だよ……アルトともね、お話できたから」
話は思わぬ方向にいってしまった。あとはもう自衛を心がけてくれればと、シャーロットは願った。今はアルトの顔も見れそうになかった。
「……そうだ。リッカ、喉渇いたでしょ。売店でお水買ってこうね」
「お水。僕、モルゲンのところまで我慢する」
「モルゲン先生……?」
「だって、アルトとお話したでしょ? モルゲンに教えないの?」
リッカは無垢な瞳で訊いてきた。その純粋さがシャーロットにとって、痛く眩しかった。
「……そうだね。モルゲン先生にいただこうね」
「お水ー、お水ー」
歌う犬に続いてシャーロットも歩いていく。
学園の広場にさしかかった。相も変わらず警備兵や金糸雀隊がついていた。そこには、モルゲンもいた。彼は今夜一杯貼るつもりだろう。他の兵達とも打ち合わせをしている。
「わふっ」
リッカはシャーロットのズボンの裾を加えた。去ろうと言っているようだ。モルゲンもまだこちらには気づいてない。
「……うん、帰ろうか」
シャーロットは迂闊に近寄れないのもあった。リッカと共に帰寮することにした。
これだけの警備なのだ。モルゲンだってついている。心配するようなことはないと。
自室に戻ってくると、シャーロットはまずリッカに水を与えた。リッカはボウルに顔を突っ込んで飲んでいた。かっこんでいたともいえた。
シャーロットは窓から見るのは女神像だ。こうして見守ることしかできない。
歯痒い思いを抱えながら、シャーロットは一日を終えた。
お読み頂きましてありがとうございます。
こちら、訂正入れました。ご指摘ありがとうございました。
というのも、こちら本来は平日のはずが、休日のつもりで書いておりまして。
以後、気をつけて参ります!




