少女の前世。――教師への恋。③
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ひとまずですが、前世の話はここまでです。
後書きにて、ざっとではありますが記しております。
冬花は気がついていた。わかっていた。わからされていた。
学校に登校すると、いつものように注目に晒される。ここ最近になって、酷さは増すばかりだ。
「―片桐先生と付き合ってるって、あの子でしょ」
「片桐ちゃんもいけないでしょ、生徒に手を出すとかさ」
「でも、聞いたけど?片桐センセってさ、確か―」
周囲からの視線が、刺すのようなものであると。好奇心、軽蔑、羨望、それから―。
様々な意味が込められた視線の中、冬花は一人廊下を歩いていた。
受験も終わり、卒業式も控えていた。この日は休日だった。片桐の家ではない。冬花の自宅だ。
冬花は自室のベッドに越しかけていた。スマホの画面をスライドさせる。どれも、自分と二人で映っているものはない。学校のイベントの時に、他の女子生徒に便乗して撮ってもらったものだ。
「片桐先生……」
前に二人で逢ったのは十二月。今年に入ってからは、学校以外では逢ってはいない。交わすのは最低限の挨拶だ。
「……結婚予定の人、いたの?」
片桐の評判が地に堕ちたかというと、そこまでではない。彼には別の相手がおり、結婚の約束もしていたという。女性と指輪を選んでいるところも目撃されたという。
あくまで片桐は一生徒に一方的に好意をもたれていただけ。時折、マンションに訪れていたのは、相談に乗っていたに過ぎない。そこは厳重注意はされてはいた。また、女好き疑惑も新たに発生した為、ノーダメージではない。
「私の片思い……?ううん、私達は違う。先生のお相手だって、何かの間違いで」
冬花はそう信じて、耐え続けてきた。
「私は信じますから」
教師を好きになった時から、覚悟をしていたことだと。
三月に入り、冬花は卒業式を迎えることとなった。晴れて、本日卒業となる。
学業にも身が入らず、本命の大学は受からなかった。滑り止めの所へ通うこととなった。
親は大層失望していた。仕事の都合で二人は来られないと言っていたが、本当にそうなのだろうか。冬花は疑う気持ちしかなかった。
「おめでとー!ねえ、一緒に撮ろ!」
「このあと、集合なー!打ち上げいくぞー」
卒業生達が卒業を祝して、はしゃいでいた。輪の中に入れない冬花は、遠くから眩しそうに見ているだけだった。
冬花にとっての高校生活は、片桐で埋め尽くされていた。彼に救われて、彼に恋して。彼と一緒に笑って、触れ合って。彼だけが、冬花の救いだった。
「……?」
生じたのは違和感だった。冬花は目の前が眩みだす。ふらつく体を支えきれず、その場に崩れ落ちてしまった。不眠がたったのか、緊張のしすぎか。原因はいくら考えてもわからず。
騒ぎの中、駆けつけてくれたのは片桐あった。そこで、冬花の意識は途切れた。
そこからの冬花の記憶は不明瞭だ。記憶にノイズが走る。ぶつぎりの映像を見ている感覚だった。
担ぎ上げてくれた人は、片桐だった。彼の匂いがした。
保健室のベッドで仰向けになっていた。天井が揺れていた。
彼女の呼吸が、不規則でやたらと荒い。
気がつけば、学園の屋上にいた。見上げるとそこには。
雪だ。三月に雪がはらりと降っていた。
目の前にいるのは、片桐だ。彼は口を開く。耳を塞いだのは冬花だ。
彼が紡ぐ言葉で、冬花はこれだけ覚えていた。冬花にとっては。全てが込められたものだった。
彼は言った。
―終わりにしよう。俺は、終わらせにきたんだ。
そこからさらに、記憶が混濁していく。どうしても、どうしてもはっきりと思い出せない。
抵抗しているのか、暴れているだけなのか。半狂乱の冬花。
抑えようとしているのか、逃れようとしているのか。怖ろしいくらいに無表情の片桐。
二人はもつれあうように、そのまま倒壊した柵ごと。―落下していった。
血まみれになった二人に、悲鳴が上がる。倒壊した柵などない。柵は元通りになっていた。あるのは―。
「……せんせい。いくや、さん」
冬花の意識が遠のいていく。ああ、自分は助からないのか。ならば、せめて。冬花は相手の名を呼んだ。その目は閉じられていく。
「ああ……」
目の前にいる彼は、すでに事切れていた。
こんなはずじゃなかったのに。自分達は幸せになれるはずだったのに。いや、片桐だけでも。
冬花は思い後悔していた。
片桐だけでも幸せであって欲しかった。どうしようもなかった自分を救ってくれた。誰からも慕われる彼が。自分と出逢ったことにより、このような最期を迎えてしまったのだ。
冬花は悔いと共に、こうも願っていた。自分と出逢わなければ良かった。もし、来世があるのなら。
片桐先生と出逢うことはありませんように。
包むのは白く暖かい光たち。冬花は安らぐような思いだった。命の終わりを迎える、その時まで。
―冬花。
「……」
この白い光達はどこまで優しいのだろう。あの大好きな先生の声で、そう聞こえてきたのだ。優しくて儚い幻聴だったとしても。冬花は満たされた思いだった。
前世の大体の話となります。
冬花という少女は、教師である片桐に思いを寄せており、彼からも好きだとは言われます。
猛吹雪の中、片桐の自宅に向かうと、女性が出てきまして、疑惑も出てきます。冬花は信じようとしましたが、片桐には他にも女性との噂が絶えません。
卒業式になれば、結ばれると信じてきた冬花。片桐から告げられたのは、終わりにする。その言葉でした。
その頃の記憶は曖昧で、ただ、片桐と共に屋上から落下し、二人は絶命してしまいます。自分と出逢わなければよかった、自分の存在が人望ある片桐の未来を潰してしまったと、冬花は後悔しながらでした。
そんな内容でした。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




