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アルトに打ち明けるという選択。

 アルトが自室の部屋の鍵を開けると、シャーロットを通した。

「お邪魔します……」

「あら、可愛い」

 かしこまったシャーロットがツボに入ったようだ。シャーロットが何をしていても可愛いを言い続ける気なのだろうか。

 アルトの部屋は清掃が行き届いており、一つ一つが整理されていた。塵一つさえないような、大層綺麗な部屋だった。シャーロットはごくりとする。これは部屋を汚せないと。腕の中のリッカもそうだ。粗相は決してしてはいけないと。

「シャーリー、椅子に座っててくれる?お茶用意するね」

 椅子といっても、部屋にある椅子は一つだった。シャーロット達はその場で立っていた。

「……あ、そうか。抜けてた。なんで俺、椅子二つ用意しとかなかったんだろ。じゃあ、クッションはあるから。座っててくれる?」

「うん」

 シャーロットはアルトが座ったタイミングで座ることにした。お茶まで用意してくれるようなので、さすがに悪く思えてきた。

「あ、お構いなく」

「俺がそうしたいの。とっておきのあるんだ」

「それじゃ、有難くいただくね。せめて手土産もってくれば良かったね」 

 手伝おうにも、腕の中には震える犬がいる。いただく一方なのが、シャーロットは申し訳なく思えた。

「いいんだって。シャーロットは身一つで来てくれればいいの」

「え。あはは……」

 いつものノリだと思い、シャーロットは笑った。

「はは……」

 部屋をじろじろ見るわけにもいかない。リッカを抱っこしたまま、シャーロットは窓の外を見ていた。男子寮から見えるそれを目視した。――春の女神像は健在だ。

「お待たせ、シャーロット。あれ?座っててよ」

 アルトがカップとお茶菓子をトレイにのせてやってきた。ローテーブルにそれらを置く。

「あ、うん」

 背中にクッションを借りて、シャーロットは床に直座りした。

「じゃあ、俺も。――の前に」

 失礼、といったアルトは。――リッカを抱き上げた。優しく抱っこすると、よしよしと撫でた。

「……アルト? 犬苦手じゃないの?」

「うん、苦手だよ?」

 彼は柔らかく笑った。発言と表情が合ってない。彼はリッカを抱えたまま、部屋の扉を開ける。リッカをそっと地面におろすと、――部屋の鍵を閉めた。

「アルト!?」

 アルトはあれだけ丁重に扱っておきながら、リッカを部屋から追い出したのだ。シャーロットは裏切られた気持ちだった。

「うん、苦手だし。俺の空間に入ってくるのが、耐えられなくて」

 ドアの外で叩く音と、かすかに吠える声が聞こえる。リッカはそれを続けていた。

「……あっれー? シャーロット、しつけなってないの? うちの寮生、いじめたりはしないだろうけど。――追い出したりはするんじゃない?」

「!」

 アルトの冷めた言い方に、シャーロットは愕然とした。リッカも聞こえたかはわからないが、大人しくはなった。

「リッカ、大人しくしててね? 話終わったら、お散歩いこうね?」

 これも聞こえたかはわからない。それでもシャーロットは声をかけずにはいられなかった。

「……ほんとずるいよな」

 アルトが暗い顔して呟く。彼はシャーロットの隣に座った。

「……」

 二人の背後にあるのは、アルトがいつも使っているベッドだ。シャーロットはいつまでもこうしてられない、と話をすることにした。

「あのさ、アルト。アルトは、信じてられないかもしれない。でも、言いふらしたりしないって、私、信じてるから」

「信じてるよ」

「え……」

 いつの間にか、アルトの顔がこんなにも近かったのか。彼はまっすぐにシャーロットを見つめていた。

「シャーロットの言うことなら、信じる」

「アルト……」

 見つめられて落ち着きはしないものの、シャーロットは意を決して打ち明けることにした。

「私は、やり直しにきたの。私達が死んだ未来を変える為に」

「え、死ぬ……?」

「うん。女神像が破壊されることになって、私が容疑者なってしまった」

「いや、待って。……ごめん、ちゃんと聞くね。なんで君が」

 アルトにとって信じがたい事を、シャーロットは語っている。アルトはひとまずではあるものの、耳を傾けることにしたようだ。

「……私にもわからない。私が無実と証明もできなくて」

「うん」

「私が、犯人として、処刑されて。私は、あの人達に……」

「あの人達?」

「うん、あの人達……」

「言って」

 アルトは問い詰める。シャーロットが辛そうでも、彼は聞かないわけにはいかなかった。

「私は……金糸雀隊に殺された。私だけじゃないの、アルトも。モルゲン先生も」

 リッカ、と言いかけたところでシャーロットは止めた。苦手、嫌い。それ以上の良くない思いをアルトは抱いている気がしてならなかった。

「……シャーロットが、金糸雀隊に?……シャーロットが」

 アルトはそればかりを繰り返している。

「アルト……?」

「あ、ごめん……。話、途中だったよね」

 シャーロットに呼びかけられ、アルトは意識を戻す。

「ううん、話はこれくらいだよ。私、アルトに伝えておきたかったの。自衛にもなるし。……協力してほしくて」

「協力……」

「もちろん、危なくない範囲で。それとなく女神像を見守ってもらったりとか」

「もちろんだよ、シャーロット!」

 アルトは勢いよく返事した。シャーロットの手を両手で包む。

「俺、絶対にシャーロットを守るから!本当に、言ってくれてありがとう……」

「アルト……」

「今度こそ、絶対に守るから……」

 アルトはシャーロットの手を自身の額に合わせた。祈るようだった。

「……気にしてるの?」

――幼少の頃に、シャーロットが怪我をしたこと。気にしているのか。今だに気にしているのか。

 シャーロットは思った。もう、このこともちゃんと話した方がいいかと。今が良い機会なのかもしれないと。彼女は話を切り出すタイミングを待つ。

「ねえ、シャーロット。話してくれて嬉しいんだ。俺はちゃんと信じるよ。一緒に乗り越えよう。俺だけでも、本当に君を守るから」

「アルトだけ?」

「うん、あとは俺しか知らないんじゃないの?」

「そっか……」

 シャーロットはふと思った。自分、アルト、モルゲンが死んだことを教えてはいた。その時に記憶を引き継いだのは自分以外にもいると。そのことを伝えていなかったと。

「私だけじゃないんだ。モルゲン先生もそう」

「……え」

「もう相談済みだから。先生も力になってくれるって――」

 シャーロットは息を呑んだ。目の前のアルトが、無表情になっていた。

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