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ブルーム学園の男子寮。

 次の日となった。アルトの部屋を訪れる為に、シャーロットは男子寮へ向かうことにした。

「シャーリー、いこ」

「うん、行こう――」

 リッカが尻尾を振りながら、部屋の入り口にスタンバっていた。ついて行く気満々だった。

「アルトのところでしょ? えへへ、僕ちゃんと言えるようになったんだ」

「ああ、リッカぁ。賢いねぇ、偉いねぇ」

 リッカは活舌を克服していた。シャーロットはひとしきりに撫でた。彼女がうなされた甲斐もあった。

「お話するなら、僕も行きたい。大人しくしてるんだ」 

「……うん。そっか。じゃあ、一緒に行こうか」

 アルトは犬のことがあまり好きではないようだ。とはいえ、リッカは賢くて偉い子。シャーロットは自負していたので、アルトの部屋に連れて行くことにした。


 すぐ隣の男子寮はもちろん近い。といっても。

「シャーリー? 入らないの?」

 シャーロットは男子寮の前で立ち往生していた。こてんと首を傾げたリッカは不思議そうだった。

「うん、うん。入るよ、入らないとだけどね?」

 リッカは勇気を出してくれたが、シャーロットには度胸がなかったのだ。

「だ、だ、男子が……。大量の男子が……」

 冬花の頃からもそうだった。同世代の男子と上手く会話が出来なかった。冬花にも男の子の幼馴染もいたが、彼とも結局は疎遠になってしまっている。

「――わふわふっ」

 リッカは突然犬語になった。どうしたかとシャーロットは思ったが。

「おはよー!今から迎えにいこうと思ってたのに、早いんだー!」

 ニコニコしながらアルトがやってきた。シャーロットも挨拶をした。

「やっぱ、いつものシャーリーなんだよな。ノーマルシャーリー優勝」

 私服姿のシャーロットの姿を見て、アルトはしきりに頷いていた。アルトまで私服だ。

「あれ、私服? 制服じゃなくて?」

「もう、休んじゃおっかなって」

「……私の都合だから、言うのもなんだけど。登校はしてほしいなって」

「えー? おねだりー……ん?」

 アルトはいつものくだりを展開するかと思われたか。

「……犬?」

 やはり指摘された。アルトは犬を観察するように見ている。

「……そう。保護した犬で放っておけなくて。大人しくさせてるから。駄目かな?」

 シャーリーは気持ちを込めて頼む。リッカも精一杯可愛い顔をした。

「駄目かって……」

「――モルゲン弟が、女連れてきてる」

「まじか。イケメンの彼女か。やっぱ、可愛いじゃん。だよな、そうだよな。世の中クソだな!」

 アルトが答えようとしたところ、出かける男子生徒達に目撃されつつあった。

「……とりあえず、俺の部屋行こ?」

「うん、ありがとう。良かったね、リッカ?」

 アルトからの了承を得られたのだろうか。ひとまず安心だ。リッカも頷いた。

「……。じゃあ、シャーリー。行こうか」

「う、うん」

 アルトが男子寮の扉を開けてくれた。シャーロットは緊張する。

「ふふ。シャーロット、大丈夫だって。俺がついてるから」

「……うん、そうだね」

 シャーロットが異性、人との交流が不得手なこと。アルトにもそれはよくわかっていた。緊張で青白い彼女を励ます。

「昔からそうでしょ?」

「うん。アルトがいると心強い」

「でしょ?」

 シャーロットが心強いと思ったのは本当のことだ。そして。

「……うん」

 シャーロットは結局は甘える形になってしまった。いつも、アルトに助けられていた。

 男子寮についに足を踏み入れた。シャーロットは緊張のあまりに強張るも、アルトが彼女の緊張を解すように、その背中に手をあてる。シャーロットがホッとした表情になると、アルトも笑んだ。

 玄関フロアやエントランスでも、男子生徒達が集っていた。放課後の予定や、学園でのこと。女子生徒のことなど。楽しそうに話していた。

「おい、あの子。オレ、おととい見た子だ」

「あのアルト・モルゲンが女連れかよ!人間に興味があったんだな」

「あのクール男がねえ。はえー」

 やはりというべきか、シャーロットも言わずもがなアルトも注目されていた。

「あのモフモフかわええ……」 

 モフモフ好きもいた。

 この学園の人達は、口をそろえてこう言う。――アルトが人間に興味が無い、冷たい人間であると。シャーロットは納得いかなかった。自身に対する明るさもそうであり、村での彼はあんなにも話し好きなのに。

「……もったいない。みなさん、アルトの良いところ知らないの?誤解されてるんだよね?」

 アルトの態度もあった。シャーロットはそうは思う。彼の朗らかさを前面に出していけば、こうも言われることもないだろうと。

「……はは、気にしなくていいよ。俺も愛想とか振ってないし」

「愛想って……」

 シャーロットはなんだか悲しくなった。愛想というもので、接しようとするのが。

「色々外野から言われても、直接絡んでくることもないし。こっちから喧嘩ふっかけることもないし。この方が楽」

「……そんな」

 本当にアルトは悲しいことを言う。シャーロットがやるせなくなったのが、そう語るアルトの顔に。――悲しみがなかったことだった。当然のように彼は言っていた。

「……」

 確かにアルトはこうして遠巻きに見られているだけだ。アルトは怖がられてもいた。そんな彼に絡もうとする者など――。

「――あっれー? 弟くーん? カワイイ子連れてんじゃーん? ねえ、君なんていうのー? ねえねえ、これから弟君の部屋行くのー? えっ、彼女? ほんとにー?」

「……え」

 絡もうとする猛者がそこにいた。シャーロットは急に接近してきた男子に対し、硬直した。男子生徒はまだ絡む。

「カワイイって言えば、そのワンコもカワイイじゃん? その子、名前なんていうのー?」

 男子生徒はシャーロットに目を合わせてくると、次はリッカを見て笑った。犬にも興味津々のようだ。

 彼は前髪ストレートのサラサラヘア、太陽のような笑顔。ノリの軽さ。この世の陽気を凝縮したような、明るい男子生徒だった。

「……」

 男子が苦手なシャーロットも溶かされそうな。――不思議な存在だった。だから、答えられたのかもしれない。

「あの、リッカ、です」

「へえ、リッカちゃん!大人しくしてて、えらいねー。ねえねえ、この子さ、寮内で飼ってるの?キミに懐いてるみたいだし、やさしくしてんだねー? よかったなー、やさしいご主人様でなー?」

 男子生徒が絡んでいるのは、アルトではなく。シャーロットと犬にだった。もう、アルトそっちのけであった。

「ば、ば、ばか! やめとけって」

 男子寮生達は見ていて冷や冷やしていた。あのアルト・モルゲンではなく。彼女と思わしき方に絡んでいるときた。あのアルト・モルゲンが青筋を浮かべていた。

「ナンパとかやめて……もう、シャーリー。相手にしなくていいからね。ああいう人、スルーしないとだよ?まず、犬の話とかして油断させてくるんだ」

「そう……?」

 アルトは穏便に対応した。彼はここは耐えた。といっても、シャーロットの背中にあてていた手を、肩を抱く方にもっていってはいた。シャーロットはされるがままだ。

「……へえ、シャーリーちゃん! それって、名前? それともあだ名?」

 ひっと寮生達が声を上げた。シャーロットもそうだ。アルトの彼女を抱く肩の力が強まっていた。

「あだ名ですけど? 俺専用の、俺だけが許される呼び名ですけど?」

 凍てつくような目でアルトは彼らを見ていた。

「ひいっ」

 リッカはつい、人語で声を上げてしまった。シャーリーと呼んでいたのは、リッカもだった。彼もまた、ガタガタ震えていた。

「こっわー」

 怖いと言いつつ、男子生徒はけらけら笑っていた。どこも怖がってない。

「……つうか、なに。なんでこの子に絡んでんの。まず、俺に話通してくれない?」

 こういっていいかはわからない。あくまでアルトだけが、臨戦態勢あった。

「あ、あの。突然の訪問、すみません。お邪魔します。すぐお暇しますので」

 ここは勇気を振り絞ることにした。シャーロットはがちがちに震えながらも、口に出した。

「……シャーロットの勇気に免じるか。ほら、おいで」

「うん……」

 アルトは彼女の肩を抱いたまま、自分の部屋へと連れていくことにした。

 遠くから聞えるのは、無謀な男子生徒を責め立てられる声だ。あのアルト・モルゲンに何をしてるんだ。しかもなんで彼女らしき少女に声かけてるんだ。あれこれとシメられていた。

「……」

 シャーロットはなんともいえない気持ちになった。


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