死をもたらした存在との再会。
二人は学園の通り路を歩いていた。曇り空で時間の感覚が掴めないが、もう夕方になっていた。アルトはぼやく。もうじき夕飯時、散策の時間は残り僅かとなっていた。
「あともう一箇所くらいかなぁ……」
一日かけて学園を巡った。ところどころ休憩を挟んでくれたので、シャーロットの負担はそうはなかった。あれだけはしゃいでいても、アルトは彼女のペースを尊重してくれていたようだ。アルトはそういう子だとシャーロットは思っていた。
「一箇所か……」
シャーロットが気になっていたのは、学園の自治委員会の存在だ。前回なら、モルゲンに案内されていた。会っておくべきかと思ったが。
『――貴女は大罪を犯しました。よって、連行します。シャーロット・ジェムさん?』
『悲しいものね。――誰も、あなたを証明できないのよ』
カイゼリンも。
『――是非とも、カイゼリン様は信用なさってください。あの方は信用に足る方です』
リヒターも。
「……」
自治委員会はこうだった。シャーロットは会うべきかと、迷っていた。会うとしても、今から行っても遅い時間ということもある。せめて明日にしようと考えた。
「……シャーロット?疲れた?」
シャーロットはぼうっとしていた。それをアルトは心配そうに見ていた。
「アルト……」
まだ時間があるというなら。シャーロットはアルトと話がしたかった。――前に起きた事。繰り返さるであろう事を話そうと。シャーロットはそう決めた。
学園の広場まで近づいてきた。ここで十字路を右に曲がり、お互いの寮に着いてしまえば、明日まで会うこともないだろう。
「アルト、あのね――」
女神像の前が騒然としていた。人だかりもあって、騒がしい。
「!」
シャーロットは血の気が引いた。またか。いや、もうか。――女神像が破壊されてしまったのか。
「シャーロット!?」
「ごめん、アルト!」
アルトを置いてシャーロットは走りだしていった。これでは、また。繰り返されてしまうと。
息を切らしたシャーロットは、広場に到達した。恐る恐る女神像を見る。
――女神像は無事だった。
「はあ……」
シャーロットは安堵のあまり溜息をついた。このまま安心したいところだったが。
見物客の生徒達。彼らが注目しているのは、女神像を守る者達だった。学園を巡回する警備兵。国軍の兵士。そして――。
「あ……」
シャーロットの心臓がドクンとなった。あの姿は忘れはしない。――金糸雀隊もいた。
冷や汗が止まらない。シャーロットはその場で動くことが出来なかった。
あの者達が。あの者達が、――シャーロット達を殺めたのだ。彼らの信仰心によって。
覆面に似たような背格好。誰が、誰が殺めたのか。それもわからない。
「!」
金糸雀隊の一人がこちらを見ていた。それから、すっと顔をそらした。それだけのことだ。それでも。
「……」
シャーロットは、動けなかった。シャーロットはわからされてしまった。やり直すということ。――彼らとも対峙しないとならないという事。自分達に絶望を与えた相手にも。
「シャーロット」
「あ……」
アルトに肩を抱かれた。彼は置いていったシャーロットを咎めることなく、ただ寄り添っていた。
「うん、わかるよ。金糸雀隊、初めて見たんでしょ。恐いよね。……恐かったね」
「アルト……」
アルトはあやすように肩をポンポンと叩いた。アルトのその優しさが、シャーロットはたまらなかった。
「一旦、離れよ?」
「うん……」
去り行く中で目にしたのは、カイゼリン達自治員会の姿だった。
「ええ、女神像の破壊などあってはなりません。わたくし達の手でも守るわよ」
「はい、カイゼリン様――」
シャーロットの目に焼きついたのは、自治委員会達の真摯な姿だった――。
アルトは寮に帰ろうと提案した。シャーロットの調子が悪そうなのを察したのだろう。
「――兄貴が発端らしいよ。まあ、兄貴がっていうと違うかな」
「え」
アルトが急にモルゲンの話をしだした。
「あのね。あいつがさ、なんか発見したんだって。うちの学園の像、都にある方も。爆破予告があったって。それで、警戒が強まっているらしいよ」
「モルゲン先生が……」
シャーロットの喉はごくりと鳴った。彼女は思った。モルゲンは思い切った手に出たと。
爆破予告はモルゲンの偽造なのだろう。なにせ、この時点でそれを知っているのは、シャーロットとリッカ、そしてモルゲンだけだ。かなり危険な橋を渡っていた。
そのおかげもあってか、警備は強化されていた。これならば、女神像が破壊されることもないだろう。シャーロットはそう信じてた。
「……」
アルトに話すべきだろうか。今一度シャーロットは考える。じっと見ているシャーロットを、アルトは見守っていた。その顔は不安さもあった。アルトはさぞ不安なのだろう。昨日から幼馴染の様子がおかしいからだ。
「――アルト、話があるの。大事な話。今からいいかな」
「シャーロット……」
シャーロットは深刻そうな表情をしていた。アルトは今すぐにでも聞きたい。
「ん、わかった。でも!まずは、しっかり休むこと。……明日の朝、聞かせて?」
「私は大丈夫だよ」
「うん、でもね。話すとなると、俺の部屋かなって。ほら、女子寮の部屋に男子ってね。恐い寮長さんに睨まれるんだ」
あの寮長は恐かっただろうか。それはともかく、シャーロットは構わないと伝えようとしたが。
「今からって、もう夜でしょ?……俺がね、シャーロットを帰したくなくなっちゃう」
「アルト……」
アルトはこうも綺麗で、妖しくもあっただろうか。シャーロットは彼を遠く感じていた。
翌朝に男子寮を訪れることになった。なぜ、男子が女子の部屋を訪れたらまずいのか。それを知る為に、シャーロットは寮長に聞いてみた。
「男子生徒を部屋に招いたりするのって、罰則があったりしますか?」
「な、ななな! シャーロット君!? 不埒だよ、不埒! ここは乙女の園! 殿方に憧れる気持ちは良しとして、節度を持つべきだと思ってるよ!ぐぬぬ、彼らは不埒だ……」
顔を真っ赤にした寮長の代わりにと、他の寮生がちょいちょいとシャーロットを呼んでいた。
「……彼氏彼女っているわけでしょ?どうしたって、部屋で逢ったりしたいわけじゃない?男子寮の方が緩いの。あっちの寮長からしてね」
「ってわけで。男子寮の方に女子から訪れるってわけ」
「これ、暗黙の了解。あの寮長もなんとか耐えてるわけだから。つつかないように」
次々と教えてくれた。彼女達は楽しそうでもあった。
「勉強になりました。ありがとうございました……」
シャーロットは釘を刺されてしまうも、お礼を言った。
「いいんだよー。応援してるよー」
「ねえ、やっぱアルト君かな?そうだよね?」
「……訪れちゃうんだ。訪れちゃうんだ!」
彼女達は実に楽しそうだった。
部屋に戻ると、モフモフは仰向けで熟睡続行状態のままだった。お腹を見せて油断そのものである。安心してくれているからこそか。シャーロットは微笑んだ。
シャーロットは起こさないように、静かに動く。それでも。
「ん……。シャーリー、おはよう」
「うん、おはよう」
さっきと一緒だ。リッカは起きてきた。シャーロットは夕飯は自室でとって、リッカと一緒に食べた。食べ終わったら、リッカを濡れタオルで拭く。まったりと二人で過ごす。
「……」
シャーロットは閉めたカーテンの隙間から覗く。遠くに見えるのは女神像だ。松明が灯されており、警備は続いているようだ。
「今度こそ、大丈夫だよね……」
足元にモフモフとすり寄ってきた。シャーロットはリッカを抱き上げた。
「寝よっか。リッカ?」
「うん、シャーリー」
おやすみなさいと、一日を終えた――。




