モフモフ大好きな人達。
女子寮に着くと、寮長が迎えてくれていた。シャーロットの紹介を済まし、シャーロットも挨拶をする。
「うんうん、よろしくね!……で、ワンコ君か」
「はい」
薄汚れた犬も同伴だった。寮の規則でも違反とはなってない。が、実際に飼っている寮生を彼女達は目にしたことがなかった。戸惑いの声が大きい。
「悪いな。数日でいいんだ」
「すみません。リードとかないので、抱っこして移動するようにしますので」
モルゲンと共に頼み込んだ。寮長は渋々といった感じで了承はしてくれた。
「……犬、苦手な子が結構いてね? まあ、賢そうなワンコ君だし、大人しくさえしてくれればいいよ」
「ありがとうございます……!」
周りの寮生は遠巻きに見ていた。見るだけで近づいてくることもない。
かつて処刑された日、彼女達はいなかった。蔑む目で見てきたのは他の生徒達だった。といっても、シャーロットは警戒を緩めることはない。この人の良さそうな寮長だって、いつ豹変するかわかったものではないと。
「きゅーん……」
リッカが心配しているようだ。シャーロットの顔が強張っていたからだ。
「きゅーん、だって」
寮生の一人が言った。それに便乗するかのように、他の寮生達もテンションを高くしていく。
「あのモフモフなでくりまわしたーい!」
「高速でなでなでしたーい!」
彼女達はモフモフと連呼し続けていた。興奮状態だ。
「こら! 私だって、モフモフ欲を抑えてるんだぞ!……すまんね、シャーロット君。そのワンコ君を早く連れていってくれ! 寮生が暴徒と化す前に!」
さあ早く!と寮長に急かされた。
「あの、寮長さん?普通にモフモフしていただいても――」
「早く、早くするんだ! 私の手が、この手が! モフモフを、モフモフを求めているんだ!」
「お気持ちはわかります。……あの、鍵をいただけますか? 施錠はちゃんとしたいので」
それはシャーロットにとって大事な事だった。前はこのタイミングではもらってなかったので、すぐにでももらっておきたかったのだ。
「鍵?……ああ、鍵ね。そうだね、大事だね」
落ち着いたのか、寮長はスタスタと管理室に向かっていた。スタスタと戻ってきた。シャーロットに個人部屋の鍵を渡した。いつもの彼女に戻ってくれたと思われたが。
「さあ、モフモフ! モフモフさせてくれぇぇぇ!欲望のままにぃぃぃ!」
戻ってなかった。寮長は欲望に染まってしまっていた。
「あ、ありがとうございました。モルゲン先生も、お世話になりました」
「お、おう。俺も帰るよ。……モフモフ欲、か」
シャーロットは一礼して、階段を駆け上っていった。
「……私、意固地だったんだ」
『ずっと張り詰めっぱなしってのもよくないからな』
モルゲンが言っていた事だ。確かに、とシャーロットは表情を緩めることにした。
寮の自室に入ると、シャーロットはリッカを下ろした。施錠もしっかりとする。
リッカはふかふかの絨毯に着地すると、シャーロットの服を見た。
「シャーリー、服が汚れてる……」
「え? ホントだ」
「モリュゲンも手が汚れてた」
リッカは俯いた。視界に入るのは薄汚れた自分の体だ。抱っこや触れたことによって、シャーロット達を汚してしまったこと。気にしているようだ。
「いいんだよ。洗えば落ちるから。リッカはまず怪我を――」
「うう……」
自分の体をなめて綺麗にしようとしているようだ。少しでも汚れをうつさないようにと。
「リッカ……」
シャーロットはぺろぺろしている犬をそのままにし、浴室に入っていった。温めのお湯でタオルを濡らすと戻ってきた。
「はい、リッカ。おいで」
シャーロットはぺろぺろを止めさせると、膝の上に抱え込んだ。タオルでリッカの体を拭いていく。モルゲンが手当してくれた患部は今は避ける。
「……ふう」
最初は緊張していたリッカも、シャーロットに身を委ねていった。瞳を閉じて気持ち良さそうにしていた。
「やっぱ、シャンプーが一番なんだけど。それは良くなってからね?」
「お風呂!?」
あれだけリラックスしていたのに、リッカが一瞬で竦み上がった。
「リッカはお風呂嫌い?」
「お風呂きらい……」
「ふふ、そっか。ゆっくり慣らそうね。ゆっくりでいいんだよ」
「うん……」
リッカは気持ち良さそうだった。
新たなタオルでリッカを入念に乾かす。リッカはブルブルと体を震わした。
「そうだ。リッカ、ご飯は食べた?」
「へっへっへっへっ」
リッカは涎をたらしていた。お腹もキュルキュル鳴っている。
「……そうだよね。待っててね」
前のように、小分けにして与えようとシャーロットは考えていたが。待ったをかけたのがリッカだった。
「あのね、シャーロット。僕、前よりお腹空いてないんだ。わからないけど」
「そうなの?」
「えへへ、シャーリーのおかげだ」
「そうだといいな……」
不思議な話だった。ただ、リッカが満足そうにしていた。シャーロットも笑った。
シャーロットは寮長に相談しにいくことにした。余っている野菜や玄米、ドッグフードになりそうなものが望ましい。
「――あのワンコ君の為? 喜んで!」
寮長は嫌な顔をせず、寮にある食料を分けてくれた。シャーロットは彼女にお礼を言った。軽く調理をしたシャーロットはリッカへと持っていった。
リッカはがつがつと食べていた。彼の真剣でいて神聖な時間でもあった。シャーロットは温かく見守っていた。
そのあと、シャーロットも入浴を済ませ、二人でしばらくまったりして。就寝の時間を迎えた。
「リッカ、こっちで寝ないの?」
シャーロットが布団を上げて招きいれるも、リッカが来ることはなかった。
「僕、こっち」
リッカは布団の上で丸まった。シャーロットの足元にあたる部分だ。
「好きだね、足元」
「うん」
「ふふ」
シャーロットは小さく笑い、布団をかぶった。
「シャーリー。明日、僕お部屋にいるね」
「そっか……」
アルトと校舎内を巡ることになっている。このモフモフがいては目立つだろうし、アルトが良い顔をするかもわからない。少なくとも、先程のやりとりでは、リッカに良くない思いを抱いているようでもあった。
「モリュゲン、わるい人じゃない」
「ん? うん、そうだね」
「アリュト、こわい。でも、アリュトもきっと……」
「うん……」
「僕、ちゃんと言えるようにするね」
「そっか……」
シャーロットはうとうとしてきた。快適なベッドに、足元にはモフモフ。心地良いまま眠れると思っていた。




