生きたモルゲンとの再会。
喋り通しのアルトと共に、シャーロットは学園を訪れた。アルトが案内をしてくれるので、シャーロットは知らない振りをしてついていく。
門限に間に合ったということもあり、堂々と正門から入っていく。他の生徒の姿もあった。ちらほらとシャーロット達を見ている。
視線が落ち着かない。シャーロットは体を丸めていた。華やかで人目を惹くアルトが注目されているのだろう。その隣りにいるのは見慣れない生徒、シャーロットだ。注目される理由としては十分だ。
「気にしないでいいからね、シャーリー」
「うん……」
アルトが庇うように、彼女を隠すように。幅を寄せてきた。
「あの子、アルト君の彼女?あのアルト君に?可愛い子だけど」
「うわー、まじかー。恋愛に興味あったんだなー。あのアルト・モルゲンがなー」
傍目からみたら、仲睦まじく見えたようだ。シャーロットは余計気になってしまった。
「そうそう、気にして気にして。ほらほら、俺達注目されてるよー?」
「アルト……」
言っていることが百八十度違っていた。シャーロットはジト目で見た。アルトはへこたれない。
「――でね、学園の有名な像。春の女神のなんだって。俺、詳しくないけど」
注目されながらも、辿り着いたのが学園の広場だ。シャーロットは見上げる。
曇り空の下、今宵も美しかった。――春の女神像は健在だった。
「うん……」
「怖いお顔」
女神像を見続けていたシャーロットを、アルトはそう形容した。
「荘厳だなって。圧倒されてたんだ」
「そう。俺もわからなくもないけどね」
シャーロットがそういうので、アルトもそういうことにした。まだ、じっと彼女のことを見ていた。
「――シャーロット・ジェムか」
女神像を見ていたシャーロット達の、背後からやってきた男性。低音でいて、心地の良い声だ。
「……げ。なんでいんの」
アルトは苦々しげに。自分は門限を守ってますと主張をしながらと。
「あ……」
シャーロットは、ゆっくりと。ゆっくりと振り返って、彼を見た。
「なんでってな。門番から連絡が入ったんだよ。アルトと一緒に、見慣れない女性がいるってな。お前への指導もかねてきたわけだ」
アルトへ話しかけている彼の姿を、シャーロットはただ見ていた。――モルゲンだ。彼が生きている。
「ああ……」
シャーロットは胸が締めつけられるようだ。彼が生きているという、その現実に。
「……」
視線はモルゲンからもだった。彼もまた、シャーロットを見ていた。だが、それは一瞬のこと。すぐにアルトへの指導に戻っていた。
「別に説明いらないんだけど。――ああ、この人ね。うちの学校の先生で。まあ、あとは」
アルトが説明しようとしてくれている。
「……うん。紹介お願いしてもいい?」
「うーん。シャーリーにお願いされちゃあね」
シャーロットもお願いすることにした。アルトも彼女から頼まれたならと、仕方なさそうにしていた。さあ、紹介しようとしたところ。
「紹介が遅れたな。俺はアインスト・モルゲンだ。この学園の教師をしていて、担当は歴史。アルトの兄でもある。お前の推薦の話も聞いている」
モルゲンの方で一気に説明してくれた。アルトが割り込んだことを怒っているが、モルゲンは気にもしない。
「……はい。改めまして。私はシャーロット・ジェムと申します。今回は推薦のことについて、伺いにきました」
「わかった。では、俺の方から説明させてくれないか。……そうだな、職員寮にするか。道を戻ってもらう必要があるがな、時間はとらせない。今晩は女子寮に泊まっていけばいい。準備も整っているぞ」
「……はい。お手数をおかけしますが、よろしくお願い致します」
トントン拍子に話が進んでいく。シャーロットも今回は、教師からの誘いを遠慮することはなかった。シャーロットも理解が進んでいる。モルゲンの時間も浪費しなくて済むだろうとも考えていた。
「え、ちょっと待ってって。そんな怪しい男についていくの?」
「怪しいってな。俺は教師だぞ」
「いや、怪しいって! その見た目からしてさ!」
確かにモルゲンの見た目は、フェロモンが漂ってそうな退廃的な見た目だ。
「……見た目のことは言うなよ。俺、気にしてるんだけどな」
「ふん、なんだかんだで得してると思ってるくせに」
「思ってない、思ってないぞ」
「シャーリー! この男、距離感おかしいからね? よく幼児相手にスキンシップはかってくるからね!」
「いや、その言い方やめろ」
「あと、思わせぶりだから! それでさ、うちのクラスの女子で争い勃発してるの、俺見てるから」
「いや、本当にやめろ」
弟兼生徒の暴露は続く。シャーロットは重々承知していた。モルゲンはそういうところがある。それは、身をもって知っていたからだ。とはいえ。
「アルト、そのへんでね? 良い先生だと思うし、一部誤解はあるかもよ?」
「誤解とかないし。やだやだ、シャーリーがこんな奴にひっかかったらやだ!」
「いや、勘違いとかしないから。もう、心配性だなぁ」
「俺は心配なんだよ……だめだ、俺もついていく!」
アルトの心配が極まって、ついていくとまで言い出した。
「アルト。門限、守れたじゃない? 偉いなー、アルトは」
「……?」
急に褒めだしたのはシャーロットだった。突然過ぎて、アルトはキョトンとしていた。
「真面目だね。偉いね。そんな優等生が、寮にも早く戻ったらね? すごく立派だと思うな?」
「……」
「明日、校舎の案内楽しみにしているね?」
「……シャーリー、本気でそう思ってる? 偉いね、かっこいいね、好きって」
「勝手に盛らないの。とにかく、本当だよ」
シャーロットは彼を見つめた。アルトが単純なようで単純ではないのは、わかってはいる。これはダメ元でもあった。アルトに帰ってもらう必要があった上での、行動だった。
「……偉いねしてくれたら、信じる」
「偉いねするってなに」
シャーロットは真顔で訊いた。アルト独自の動詞だった。
「もう、シャーリー。偉いねって頭を撫でること。さあ、シャーリー!」
アルトは両手を広げた。両手を広げる意味は、彼にしかわからない。
「とりあえず、偉いねはするけど……」
シャーロットは彼の前に立ち、不慣れな手つきで彼の頭に触れようとする。それは、長身の彼を見上げ、腕を精一杯に伸ばして頭を撫でる行為だった。シャーロットは体勢的にきつかった。
「くっ」
「か、かわいい……。下からシャーリー……」
アルトは両頬に手をあてて、悶絶していた。といっても、彼女が大変そうなことは確かだ。
「えへへ、シャーリー。待ってて、今屈むから――」
「もういいだろ。俺は待ったし、耐えたぞ」
割って入っていたのは、モルゲンだった。行こう、とシャーロットにも声をかけていた。
「アルト。気が済んだだろ?良かったな、偉いねしてもらって」
「……あ?」
モルゲンは弟を、生徒を煽っていた。一触即発だった。
「さて。職員寮の面談室にしようか。そこで説明をさせてもらうな」
「待て、淫行教師! 面談室って、防音でみ、み、密室だろ!?」
密室で防音の部屋。声を荒げるアルトもだが、シャーロットも動揺はする。するも。
「教師と生徒とか。……ないでしょ」
シャーロットはそう伝えた。それは、シャーロットにとっても、言い聞かせ、そして戒めの言葉でもあった。
「……」
モルゲンからの視線も感じる。何か言いたげで、でもどうとも言えない。そういったものだ。
「本当にこのへんでな。帰す時間、遅くなるから」
「はい、よろしくお願いします。また明日ね、アルト」
シャーロットは手を振ると、モルゲンと一緒に職員寮へと向かっていった。
残されたのはアルトだ。
「……どういう顔して、言ってるの」
彼はそう呟いていた。




