シャーロット、色々と変えてみる。
知識があるから。行動を変えているから。だからといって、変化するのか。それはシャーロットにもわからない。
「お、おっちゃんらじゃん。いらっしゃーい」
「お、アルトじゃねぇか。……ん、二階から?」
「……あー。シャーリーに頼まれて、二階で作業してただけ」
現にアルトは、早々に一階に戻ってきていた。常連客に挨拶をし、雑談をし。シャーロットの仕事も手伝いだしていた。
「……アルト、休んでなさいって」
シャーロットはこっそりと話しかけた。アルトも小声で返す。
「俺もさ、休もうとしたけどさ……?好きな子の匂い、満載じゃん……?眠れるわけないじゃん!」
いや、最後は大声になっていた。
「また、そういうことを……」
「いうよ? つか、結婚したいし」
可愛い。好き。アルトがよく言う言葉だ。
「……責任だって、とりたい」
「アルト……」
そんなにか、とシャーロットはこめかみに意識がいった。――それほどまでに、傷を残すこになってしまったことを。気にしているのかと。
「ってわけで、眠れません!俺、水汲んでくるから。ドアの汚れとかも気になって」
「それじゃ!……お客様の相手しててほしい。大事なお仕事だし」
「え、いいの? 俺、喋りつくすけど」
「うん、お願い」
せめて座っていてほしかった。アルトは納得してくれたようなので、シャーロットも安心して業務に戻る。
その後も続々と客がやってきて、盛り上がりに盛り上がった。閉店時間も少し押してしまったが、そこはアルトの方で機嫌をとりつつも帰らせていた。見事だと、シャーロットは感心していた。
「……」
夜を迎えた。これから吹雪いてくることだろう。
アルトが目をつけたのは、使われてない暖炉だ。
「つかさ、暖炉つけようよ。俺、薪調達してくるからさ」
「寝てなさい……薪は、今度お願い。今日はいいから」
「え、暖炉使う気になった? 今からでもやるよ!」
「ううん、今日はいいから。今から料理するから。その間だけでも休んでくれる?そこのソファで寝てて」
まだ何かやろうとしていた。シャーロットは止めた。とにかくシャーロットは彼に休んで欲しかったので、ここは変えずにいた。
「それじゃあ、お料理シャーリーをガン見してよっと!」
「いいよ。好きに見てて」
「……いいの? 俺、ずっと見てるけど」
アルトは拍子抜けしているようだ。シャーロットは笑った。
「うん。その代わり、眠くなったら寝てよ?」
「……眠れるわけ、ないじゃん」
それはシャーロットにも聞こえないような声だった。アルトはソファにもたれかかりながら、料理をするシャーロットを見ていた。
「……」
前は寝てたのに。シャーロットは思うだけで留めた。困った事に、アルトが眠ることもなかった。
食事を終えて、ソファで再びくつろぐのはアルトだ。
「シャーリィー。こっちおいでよー。一緒にまったりしようよー」
「……ううん、いい。私、仕事の残りやってるから」
シャーロットは前回のことを思い出した。そう、アルトと並んでソファに座っていた。そこで、雰囲気が変わったのがアルトだ。
『――言葉で伝わらないのなら。これなら、わかってくれる?』
そう言いながら、アルトはキスをしようとしてきた。第三者によって、中断されたものの。あのままだったら、二人はどうなっていたのか。
シャーロットは首を振った。彼女はもう一度あのシチュエーションを迎えるわけにはいかなかったのだ。
「えー。……じゃ、俺、また見てるよ?」
「いいよ。飽きるまでどうぞ」
それならガン見され続けている方が、気持ちが幾分落ち着くものだった。
「……飽きるとか。――ねえ、シャーロット」
アルトがゆっくりとソファから立ち上がろうとした。その時。
ピンポーン。鳴ったのはドアチャイムだった。扉を叩く音もする。
「――シャーロット・ジェムさーん。夜分遅くにすみませーん。郵便のお届けに参りました。昨日の吹雪の影響で遅くなってしまいまして」
郵便配達人が夜分に訪れた。持っているのは『推薦状』だろう。シャーロットは来た、と玄関まで急ぐ。
「え? え? シャーリー……?」
置いてかれた感があるアルトがいたとしてもだ。
「ありがとうございました。大変だったでしょう。気をつけてお帰りくださいね」
シャーロットは郵便配達人から手紙を受け取った。彼の体には雪が積もっていた。この大吹雪の中、さぞかし大変だっただろう。前回は最低限のやりとりしかなかった。今回は言っておきたかったようだ。
「ああ、ありがとうございま――」
癒されていた郵便配達人だったが。一気に顔が青くなった。
「お疲れ様でーす。気をつけてくださーい」
「ひっ!」
可憐な少女の背後にいたのは、長身のイケメンだった。青年は笑顔だったが、この子は自分のものアピールをしてきていた。
「ぶ、無事お渡しできてよかったです! では、私はこれで!」
何も悪くない配達人は、そそくさと帰っていった。
「……手紙、読むね」
シャーロットは内容がわかりきった手紙を、もう一度読み直した。
ここは変わらなかった。王立ブルーメ学園からの推薦状だ。シャーロットの入学を特典山盛りで歓迎している。
「アルトが通っている学園から、推薦が来ていた。私を通わせてくれるって」
「……シャーロットを?」
アルトが訝し気にみていた。シャーロットが惑うこともなく、それを受け入れていること。それは確かにおかしいと思われても、だった。
「……アルト。私、学園に興味あったんだ。でもね、この推薦状も謎過ぎて。だから。――今すぐにでも確かめたい」
「今からって……」
「一緒に行こう。お願いします」
シャーロットはアルトに頼んだ。これでアルトを猛吹雪の中、帰らせなくて済むし、門限も守れる。学園に向かっているであろうリッカとも合流できるだろう。それが最善だと彼女は思った。
「俺も見ていい? 怪しかったら破くから」
「破かないでほしいけど、見るくらいなら」
シャーロットから手紙を受け取ると、アルトは確認した。
「……偽造とかじゃないか。じゃあ、シャーロット。俺からのお願い。泊まることになるとは思うから。女子寮でお世話になって」
「うん、わかった」
「ん。まあ、見学と考えれば……。俺がシャーリーを案内して、んで一日ずっとつきっきりだと考えれば……。お店はたまには休んだっていいわけだし、俺とのデートの為にと考えれば……。ブツブツ」
アルトが一人で何か言っている。シャーロットは構わずに吹雪の勢いを和らげた。自分とアルト二人なら十分な範囲だ。
「ごめんごめん。俺、浸ってた。……でもさ、シャーロット。少しでも危険を感じたら、俺、連れ出すからね?」
「うん、ありがと」
シャーロットは心配性の幼馴染と共に、学園へと訪れることとなった。
学園にはきっと、彼もいる。――モルゲンだ。
彼も生きていると信じて、吹雪の中を突き進んでいく。




