表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/532

繰り返される日々の始まり。

 シャーロット・ジェムは横たわっていた。暗く静かな場所だ。ここが生を終えた場所なのか。彼女はゆっくりと目を開けた。

「……え」

 シャーロットの第一声がそれだった。その風景はあまりにも。――見覚えがあり過ぎた。

 よく見る夢と同じような、鳥籠の中。大中合わせて錠前三つだ。

「どういうこと……?」

 シャーロットはゆっくりと立ち上がった。ここは死後の世界か。それとも夢の中なのか。どちらかはわからないにせよ、彼女には感覚があった。このひんやりした空間も。そして、自分の鼓動の音も聞こえていた。

「私、死んだんじゃなかったの? もう終わったって」

 シャーロットはよろめきながらも、扉まで歩いていく。

「――まだ、終わってないよ」

 高めの少年の声がした。拙い喋り方でもあった。誰か、いるようだ。シャーロットは声の主を探す。

「!?」

 暗闇に光るのは二つの目。シャーロットは驚きのあまり、腰を抜かしそうになった。しかも。

「へっへっへっへっ」

 柵を越えた先にいたのは、――あの犬だった。おなじみの呼吸音も添えて。

「君、どこから来たの?」

「?」

 犬は首を傾げた。

「わからない?」

「わん」

 この犬は知らずに迷い込んできたのだろうか。いや、とシャーロットは気がつく。

「待って、君、喋った?私の言ってることもわかってる?」

「……わふっ。わんわんわん」

 犬は素知らぬ顔で犬語を話した。

「いやいや、喋ってたよね?」

「……うん」

 シャーロットは聞き逃してはいない。犬も観念したのか認めた。

「僕、ニンゲンの言葉うまくないんだ」

「そう?十分上手いと思うよ」

「そうかなぁ……」

 犬は舌を出しながら、口元を緩めた。満更でもないようだ。

「君は何か知ってるんだね。ねえ!」

 シャーロットは柵を掴みながら、犬に尋ねた。一刻も知りたいのだ。

「君と私は無事だったんだよね?」

「うん、無事」

「そっか」

 犬は尻尾を振りながら断言した。

「……それと」

 シャーロットは次の質問を切り出せなかった。犬は尻尾を振りながら待っている。口に出しづらい。言葉にもしたくない。それでも。避けられないものだ。

「……アルトや、モルゲン先生。わかるかな、助けにきてくれた二人。あの人達は。――どうなったの」

 あの後、自分達のように助かったのかもしれない。シャーロットは僅かな希望を抱こうとする。

「あの二人はね……」

 犬の尻尾がみるみる下がっていった。

「……うん、わかったよ。ごめんね」

「ううん」

 この犬に言わせることでもなかった。謝るシャーロットに、犬は何てことないと返した。

「あのね、アインシュト・モリュゲン。アリュト・モリュゲン。あの二人は、生を終えた。――あの時は」

「あの時?」

 ちょいちょい上手く言えてないところもあるが、犬はいたって真剣だった。シャーロットもそれどころではない。あの時とは、一体どういうことなのかと。彼女は食いついていた。

「あのね、本当はね。君も『あの時』、……一緒だったんだ。でも、生きてるよね?」

「うん」

「あの二人もそうなんだ。生きてるんだ。――時間が戻るから」

「時間が、戻る」

「うん。僕にもどうしてかわからない。でも、そうだって。『知ってる』んだ」

 ということは。シャーロットは考えた。時間が戻るというなら。――やり直せるということか。

「えっと、説明合ってるのかな」

「うん、大丈夫だよ。わかりやすかった」

「えへへ……」

 犬はニコニコしていた。

「でも、確認させて。どうして?どうして、やり直せるの?……代償とかあったりしないの?」

「だいしょう。えっと、何かとひきかえに、ってこと?」

「そう」

「……えっと」

 犬は答えに困っていた。その場をぐるぐる回っていた。が、ピタっと止まる。

「そこまで聞いてないや。でもね、ニンゲンを『助けたい』って。……あれ、『叶えたい』だっけ?僕のご主人様がそう言ってた。あのね、――僕のご主人様は『春の女神様』なんだ」

「!」

「……僕もそうしたかった。でも、僕にはできなかった」

 この犬は大真面目だ。そして、しょげた。

「ごめんね、シャーリョット。僕に勇気があったら……」

「ううん、いいんだよ」

 腕はぎりぎり間に通した。シャーロットは犬の胸元を撫でた。

「君のご主人様……どうしたの?」

 一人にして、と。

「……僕にもわからない。気づいたら見失っていたの」

「はぐれたの……?」

 子犬は項垂れていた。一匹彷徨っていたのだと。

「あ、でもね!」

 犬は顔を上げてきた、瞳を輝かせながら。

「――春になったら、姿を現わしてくれるの。きっと、そうなんだ!」

「そっか、そうだね……」

 名の通り、春をもたらす女神様だから。子犬はそう信じているようだった。

「そっか……」

 犬は神様の眷属……本来はこうして相まみえることもないような存在。それなのに。

 なのに、シャーロットは。

「……春が来るまで」

 ――うちで暮らさないかって。シャーロットは声を出してしまっていた。

「……」

「……」

 犬はつぶらな眼でシャーロットを見てきていた。無言のまま……。

 シャーロットは考える……ならせめて、保護、しかるべき機関でと。

「……うん」

 一緒にいたいと個人的に願っていても。

「……いいの?」

「いいに決まってるよ!」

 子犬の自信なさそうな様子、シャーロットは声を大にして言っていた。

「あ……」

 犬は彼女の指をぺろぺろと舐めていた。そして――ありがとう、と。

「……えへへ。ずっと言いたかったんだ。ありがとう、シャーリョット」

 くすぐったそうにしながら、犬は気持ちを伝えた。シャーロットも微笑んだ。

「……僕、ニンゲンきらいじゃない。でも、こわい」

「うん……」

 それは傷だらけの体をみたら、そう思えて当然だろう。心無い人間によって、恐怖心を植えつけられたのだろう。

「いっぱい、頑張ったね」

 そんな怖がりな彼が、勇気を出して動き回っていた。犬は頷いた。

「――僕、シャーリョットはね、こわくないんだ。あのね、シャーリョットの力になりたい」

「……いいの?」

「うん。僕は君の味方だっ!」

「うん、うん……」

 もしこの柵さえなければ。閉じ込められてさえなければ。シャーロットは今すぐにでも彼を抱きしめたかった。

「……私だって、このままにしたくない。代償とか、気にしてられない」

 やり直せるのなら。シャーロットだって逃げ出したくはなかった。

「あ」

 犬は何かを思い出したようだ。尻尾を大きく振った。

「ご主人様。こういってた!――諦めないで。強い意志を持って。乗り越えてって」

「女神様が……」

 それは犬に向けてだろうが、シャーロットは自分の言葉としても受け止めることにした。

「それじゃ、シャーリョ……。噛んじゃう」

「ふふ。シャーリーはどうかな?」

 どこかの幼馴染がつけてくれたが、この可愛いモフモフが言うくらいなら、怒りはしないだろう。シャーロットはそう信じていた。

「シャーリー!」

 犬も大はしゃぎだった。

「それで、君のお名前は? 聞いてもいい?」

「うん!とてもいい名前なんだっ!――リッカ!」

「リッカ」

 六花。シャーロットはそう連想した。彼女もいい名前だと思った。

「また、会えるよね。リッカ……」

「うん、シャーリー……」

 眠気がやってきた。シャーロットは横になって、眠った。リッカも丸くなる。

 どこまでさかのぼることになるのか。どういった因果かもわからない。それでも道を開けると信じて。シャーロットは日常に戻っていく。


 この時のシャーロットは知る由もなかった。ただ希望を抱いていた彼女には、想像も出来なかった事。

 ループを繰り返すことで、わかってしまうこと。知りたくもなかったこと。望んでもいなかった結末も迎えるということ。

 それでももう後戻りはできない。引き返すこともできないのだと。


お読みくださいまして、ありがとうございました。

モフモフが仲間に加わりました。

次も投稿予定あります。

よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ