シャーロット・ジェムの初めての死。
逃亡する二人を、追手が迫る。兵も増援されていた。
「心配するな。逃走経路は確保している」
「先生……」
森の茂みを走り抜け、アルト愛用の裏口。――そこはとっくに抑えられているだろう。
モルゲンが考えているのは、地下道を通るルートだった。そこは独房も通過することになってるという。
「アルトも?」
「……ああ。あいつも只では済まないだろうからな。あの犬にもこっそり伝えていた。伝わってればいいけどな、言葉」
「……はい!」
逃げるのが優先といいつつも、モルゲンは考えてくれていたようだ。
「……モルゲン先生。希望が見えてきました」
未来が見えてきた。シャーロットはそれを望んだ。
「そうか。それは何よりだ」
モルゲンが笑った。シャーロットも笑う。そう、このまま上手くいくと――。
「――こっちだ!」
「!」
突如、体を引き寄せられたシャーロット。モルゲンによるもので、彼はそのまま後退した。
目の前に現れたのは、覆面で顔が隠す者達だった。一同に隊服を着用しており、胸元には国章も携えていた。国公式の部隊のようだ。
「――金糸雀隊、こんなところまで。……走るぞ!」
「はいっ!」
モルゲンに手を引かれるまま、シャーロットも駆けていく。
シャーロットも噂だけは耳にしたことがあった。国直属の部隊、『金糸雀隊』。春の女神が好んだ鳥から名付けられたというその隊は、女神の狂信者で構成されていた。
表立って動くことはない、影の部隊。――その残忍さは計り知れない。
「まずいな……」
相手はじわりと追い詰めてきた。退路を塞いでいき、誘導されるかのように。――破壊された女神像の前まで辿り着いてしまった。――そこで二人はついに捕まってしまう。
「くっ!」
地面に伏せられ、押さえつけられてしまった。二人は身動きがとれない。
「あ……」
シャーロットは地面から取り巻く人々を見渡す。
冷めた目で見ている学園生達。様子を見ている自治委員会達。抵抗しようものなら加勢する気でいる警備兵達。――誰しもが、シャーロット・ジェムを犯人として見ていた。
誰しもがシャーロットを犯人として捉えている。誰もが、敵であると。彼女がそう思えていた時だった。
「シャーロット!」
「!」
ワンワン吠える犬と共にいたのは、アルトだった。手にもっているのは、鍵束だ。涎つきだったので、どこぞの犬がくわえてきたのだろう。
「クソ兄貴、だっせーの」
「はは……」
モルゲンは耳が痛かった。不利な状況に変わりなかった。
「……兄貴。助けだしてくれて、ありがとう」
そう告げると、アルトは金糸雀隊に突進していった。飛び蹴りをくらわすと、兵から武器を奪う。
「シャーロット!助けるから、待ってて!」
アルトは襲いかかる金糸雀隊を掻い潜りながらも、シャーロット目掛けて駆けていく。
「……あいつ一人にやらせるわけにもなっ!」
隙をついたモルゲンも拘束から逃れた。モルゲンも加勢する。
「――そこまでだ。真犯人、確保」
シャーロットを拘束していた隊員が、彼女を立たせた。シャーロットの両腕を片手で封じ込めていた。
「どうして……!?」
シャーリーは氷の魔力を発動しようとも、それが出来なかった。何回も試してもだ。何回抗ってもだった。
「……人質か」
モルゲンが吐き捨てるように言った。近寄ったアルトが耳打ちする。
「――兄貴。少しでいい、隙を作って。奪い返すから」
「わかった」
弟のアルトは自信があるようだった。少しの間でいい。それさえあれば可能だと。それは過信ではないと判断したモルゲンは、従うことにした。兄弟は動き出そうとするも。
――それはほんの少しの時間だった。一瞬ともいえるよな。
「人質?――死が決まっている身に?」
「え――」
あっという間だったのだ。――シャーロット・ジェムの一生を終わらせたのは。
「我らが女神を愚弄した。――その罪は死をもって償え」
拘束していた金糸雀隊が、迷いもなく。――シャーロットの心臓に短剣を突き刺した。飛び散るのは血だ。
「次はお前達だ。――共犯者共が」
地面に倒れたシャーロットは、薄目のまま。生の終わりを迎えようとしていた。
「……」
声が、言葉になってくれない。もう、何も伝えられない。
またか。シャーロットは自己嫌悪に陥っていた。冬花の時とは変わりない。
まただ。また、大切な人達を巻き込んでしまうのか。それだけは嫌なのに、避けるべきだったのに。
どうしてか。どうして、逃げてくれないのか。
アルトが絶叫していた。狂乱しながら、金糸雀隊に斬りかかっていた。だが、取り押さえられ、彼もまた。トドメをさされていた。
モルゲンは。モルゲンは放心しながら、それでもシャーロットに近寄ろうとしていた。冷たくなった彼女に、触れようとしたところで。無慈悲な刃によって、それは叶わなくなった。
犬は吠え続けていた。ああ、逃げて。そう願っても、鳴き声ももう聞こえなくなっていった。
時は0時を回り、日付が変わった。
ゴーンゴーン。鐘の音が国中に響き渡った。顛末を告げる音だ。。
――女神像破壊の犯人。シャーロット・ジェムは処されたと。




