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女神像破壊事件、容疑者はシャーロット・ジェム。

「なっ!」

 シャーロットは耳を疑った。大罪。そのようなもの、シャーロットは全くもって心当たりがなかったのだ。違うと否定しようにも、委員達に拘束されてしまっていた。暴れようにも力では敵わない。

「シャーロット・ジェムさん? 貴女、昨夜はどちらにいらして?」

「どちらって。家にいました。その、外に出る事もありました。それは庭先まででして」

「ええ、ご自宅にいた。それは、どなたか証明できて?」

「証明……」

 昨日は不自然なまでに、客が来なかった。周囲に村人もいなかった。どういったタイミングだったのか。あと証明してくれるとなると――。

「……」

 カイゼリンの腕の中にいる犬だけだ。犬に証明させろというのか。

「……わ、わん! わふっ、わふっ。きゅーん」

 犬は語っていた。犬語だ。必死な気持ちだけは有難かった。

「ええ、どなたもいないと。……夜までは、健在でしたの。門限ギリギリの生徒達複数名。彼らからの目撃証言もあり。その後、閉門。――学園の生徒以外は、立ち入れられない」

 カイゼリン側の主張はこうだった。彼女は続ける。

「もちろん、寮生以外からも確認はとりました。彼らは皆、証言者がおりました。貴女にはありまして?」

「私には……」

 シャーロットのアリバイを証言できる人物。あと一人、確実ではないが思い浮かんだのは。――アルトだ。

 どうしても幻とは思えない。アルトは来訪していたはずだ。彼はシャーロットを見ていたとしても、おかしくはない。ただ、心配事はあった。彼はずっといたわけではない。そして、謹慎処分にも関わらず、出歩いていたことになる。

「……」

 アルトの名前を出すべきか。そうではないか。

「……ふふ、意地悪だったかしら。アルト・モルゲン。彼からも申し出があったの。――壊したのは自分だと」

「アルトが……?」

 カイゼリンは何を言い出すのか。シャーロットは耳を疑った。

「ええ。ただ、彼には証言もあります。彼は自室待機で、部屋からも出る事もなく。窓から?高さが何階あるかご存知?人の身では、到底不可能ね」

「アルトは私を……」

「ええ、庇ったのでしょうね」

「!」

 シャーロットは胸が痛くなった。自分のことを思っての行動は嬉しい。だが、自分の立場も悪くなってしまうのに。それでもアルトがそう申し出たのだ。

「目に余る言動もそう。捜査を混乱させたのもそう。よって――アルト・モルゲンは独房行となりました。無期限でね?」

「!」

「これでも温情よ。共犯扱いにしてもよいくらいですのよ。それだけのことを彼、そして貴女は。……しでかしたの」

 カイゼリンがさらに叩き落してきた。

「アルト……」 

 シャーロットの声が震えた。アルトが、アルトが自分を庇ったせいでと。

「本決定です。今頃、大人しくしてもらっているわ」

「カイゼリン様……」

「悲しいものね。――誰も、あなたを証明できないのよ」

 この人は上品で。悲しげに目を伏せながらも。なんと残酷な言葉を言ってのけるのか。

「……その子を、その子を返して!」

 シャーロットは、カイゼリンも。そしてリヒターをも睨みつけた。何が信用に足るだ。それを信じて渡した自分をも、シャーロットは罵りたくなっていた。

「……」

「この人は……」

 リヒターは表情を変えることもなく、シャーロットを見ていた。それがより、シャーロットを腹立たせた。

「……あらあら。アルトさんの方がよっぽど、大人しかったわよ。彼、生気を失っておりましたもの」

「アルトにもなんてことを……」

 アルトもそうだ。アルトも。こんな、こんな事でと。シャーロットは体を震わす。

「ああ、言ってましたわね。『女神像、壊したくらいで!こんなことってない!』と。お忘れではないかしら。――我々は春の女神様を信仰してならないと」

「……」

 シャーロットは黙り込んでしまった。アルトはどんな気持ちでそう口にしていたのか。幼馴染が覚えのない罪状が、大罪とされるそれが。そのようなことでと。今、シャーロットが抱いている思いと同じように。

 呪ったのかもしれない。

「都の方の破壊は不可解ではありますわね。貴女一人で行ったとも考えにくい。いっそ吐いてくださらないかしら」

「……」

 都の女神像も破壊されていた。シャーロットはそちらも当然心当たりはない。わからないものはわからない。知らないものは知らない。

「……追々と、ですわね」

 片方の眉を上げたカイゼリン。シャーロットが黙秘をとったとみたようだ。

「そちらは、『本職』の方にお任せしましょうか」

「ええ、カイゼリン様。――ジェム様。私共はまだ話が通じる方です。あの『獣』達に比べればでございますが」

「口が過ぎてよ、リヒター」

「失礼致しました、カイゼリン様」

 このへんで、とカイゼリン達は去っていく。犬も連れ去られたままだ。

「……」

 シャーロットは最後の抵抗もむなしく、連行されることとなった。

 辺りに響き渡るのは拡声器による声だ。きっと、国中に知れ渡ること。

『春の女神像破壊事件。容疑者はシャーロット・ジェム。共犯者の情報を求む――』

 それらは学園内にも風に乗ってばらまかれる。――生徒らを覆うのはビラだ。街中にもきっと。貼り紙がいたるところに貼られているだろう。

 容疑者シャーロット・ジェムの顔写真を載せて。


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