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モフモフがやってきた。

 シャーロットは今晩も寮で世話になることになった。夕飯まで馳走になり、快適な部屋で休む。

 今度こそ渡された自室の鍵で、施錠もしっかりとした。

「……おやすみなさい」

 自分の家もそのままにしてしまった。明日こそは店を開けよう。シャーロットは明日のことを考えながらも、眠りについた。


 次の日は快晴だった。シャーリーは世話になった寮生にお礼を告げ、女子寮をあとにした。

「今日は店に行くんだな」

「はい。営業したいなって思いまして。お世話になりました」

 門まで見送りにきていたのは、モルゲンだ。彼にも大変世話になったので、シャーロットは頭を下げて礼を述べた。

「それと、アルトのこともお願いします」

 アルトの謹慎二日目。まだ一日ある。彼への自室待機の命は続いていた。

「わかった。生徒で、――――俺の弟でもあるからな」

「……はい」

 同じ孤児院だったアルト。このモルゲンは同じ孤児院ということもないだろう。シャーロットは見かけたこともなかった。離れて暮らしていたと考えるのが筋か。

 いずれにせよ、深入りすることもなかった。アルトも、話したがらない。ただ、アルトに関しては彼が話したくなったら、聞こう。そして力にもなりたい。シャーロットは大切な幼馴染のことを思った。

「それでは、失礼します」

 シャーロットは学園をあとにして、帰路に着く。

 あの兄弟以外で、考えたのは。――――あのモフモフの犬のことだった。

「……学園の中の方が安全なのかもね」

 名乗り出ないままだったが、モルゲンが世話を焼いているようだ。あの学園の生徒達も面倒をみてくれているのだろう。


 シャーロットは家に帰った直後、営業の準備にとりかかった。

「……どなたか、やってくれたのかな?」

 まず昨日の大降雪だ。地獄の雪かき作業をシャーロットは覚悟をしていた。が、雪な見事なまでに慣らされていた。ひとまず、今日来店してくれる人に尋ねてみることにしたようだ。

 おかげでいつも通りの準備だけで済んだ。立て看板を表にして、客の来店を待つ。


「……」

 客がまったくこなかった。

 暇を持て余したシャーロットは、普段見過ごしているところを清掃したり。薬品の整理をしようともしたが。

「……綺麗だ」

 いつもシャーロットがやっているよりも。より入念に、より磨き上げられていた。自分ではここまでも綺麗にならないと。シャーロットは認めるしかなかった。

「……」

 シャーロットはすることがない。新薬の開発をするか考えていた。それとも、氷の力の精度を上げる練習でもするか。

「……静かだね」

 アルトがいないと、こうも静かなのか。アルトがいるだけで明るさが全然違った。彼がいるから、客も笑って帰ってくれると。

 ウダウダ考えている間の時間はゆっくりと流れるように感じる。ただ、時というものは確実に流れている。一日が終わってしまう。

「よ、呼び込み、してみよう!」

 シャーロットは勇気を出すことにした。今までやろうとしては、諦めていたものだ。

「いつもアルトに頼ってばかりじゃ、よくない!」

 シャーロットは奮起した。潔く玄関の扉を開いた。

「へっへっへっへっ」

「……ん?」

 店先にいるのは。――――見覚えのあるモフモフだった。

「……あっ!」

「!」

 店の前で待っていたようだが、犬はまたしても逃げようとしていた。

「君、待って!」

 シャーロットは呼び止めたくなった。犬は薄汚れていて、包帯が巻かれたのもそうだったが。足にしもやけまでも起こしていたのだ。走り方も力強さはなく、ヨレヨレしていた。

「あっ……!」

 ついにはその場で倒れてしまった。それでも、犬は体を起こしてふらつきながら歩こうとした。

「ねえ、待って」

 シャーロットは追いついた。犬の前方に回る。

「おいで。寒かったでしょ。手当もするよ」

「……」

 犬は後ずさりをしようとするも、力が入らないようだ。

「ごはんもあるよ」

 キュルキュルと音がした。犬の腹からだ。涎もたらしていた。

「ごはん食べたいんだね。待っててね」

 食べてくれるかはわからない。だとしても、シャーロットは急ぐことにした。

「えっと、確か……」

 シャーロットは覚えていることを思い出す。幼馴染との下校途中で、捨て犬を拾ったことがあった。アルトではなく、冬花だった頃の幼馴染の方だ。彼とは結局、疎遠のまま別れることになった。

 その時、幼馴染が一度家に帰って与えていたもの。思い出したと、シャーロットは扉を力任せに開けて、家に飛び込んでいった。

 前世の知識を元に自作した冷蔵庫もどき。シャーロットはそこから保存していた茹で野菜を手にした。一昨日なので大丈夫だと信じることにした。チーズもある。それを少量ずつとっていく。

 小さめの銀のボウルにも水を注いだ。幼馴染の家で飼うことになった犬も、そう飲んでいた。

 シャーロットはそれらを零さないようにしつつも、気持ち急いだ。


「ゆっくり食べるんだよ」

 一気に与えてしまっては、空腹状態の犬に負担がいくだろう。シャーロットは小皿に食べ物、ボウルには水を入れている。しゃがみ込みながら、犬が口にしてくれるのを待っていた。

「……」

 犬は伏せたままだ。一向に口にしない。涎は垂らしたままなのにだ。

「……うーん」

 シャーロットはすっと立った。犬にゆっくりと近づいていく。

「!」

 犬はハッと顔を上げる。また逃げようとしていた。それでも、ままならないようだ。

「ふふ、涎すごいんだ」

 シャーロットは手持ちのハンカチで拭った。拭いても拭いても涎は止まらない。

「ふふふ、食いしん坊さんなんだね」

 シャーロットは優しく笑った。ようやく拭いきると、また犬の前で待っていた。

「……」

 涎を拭かれた犬は、シャーロットはじいっと見ていた。目を合わせてきていた。

「ん?」

 シャーロットも目を合わせた。犬はずっと見てくる。時折瞬きをしながらだ。

「……はぐっ」

 犬は小皿の上の茹で野菜を含み始めた。チーズにいたっては一飲みだ。それから、ボウルに顔を突っ込んで水を飲んでいた。

「あ……」

 シャーロットは胸を撫でおろした。犬が食べてくれた。あとは、少量ずつ与えていけば、絶食状態もマシになるだろう。

「さ、おいで。手当するからね」

 シャーロットは犬の霜焼けも治療することにした。抱っこしようにも、犬はすり抜けていく。逃げられたかと思うと、そうでもないようだ。犬は先にシャーロットの店へと向かっていた。

「ふふ、せっかちさんだ」

 シャーロットも微かに笑いながら、店に戻っていく。

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