モルゲン先生は人気者。
「おはよー、アインストせんせー」
「モルゲン先生、おはようございます!」
「朝早いんですねー」
寮生達が突っ立っている教師に声を掛けていた。彼女達は色めき立っていた。
「ああ、おはよう」
そう返ってくると、少女達は手を取り合ってはしゃぐにはしゃいだ。次々だ。教師は続々と挨拶を交わしている。女子生徒からの人気は高いようだ。
「……」
シャーロットは声が掛けづらかった。意を決してかけようにも、タイミングが掴めずにいたのだ。
「!」
波が途切れた。今だ、とシャーロットは声を出した。
「おはようございます!」
挨拶に気合が入り過ぎてしまった。シャーロットは赤面した。注目を浴びている。これは恥ずかしい。
「――おはよう、シャーロット」
「え……」
小さく笑いながらそう口にした。それも、名前呼びだ。
「どうかしたか?」
シャーロットとしては、冬花としては。どうかしたか?ではないのだ。こんな、何とも思ってない。軽く呼んだだけ。的なものではなかったのだ。
「……ああ、呼び方か? シャーリーの方が良かったか?」
「いえいえいえいえ」
シャーロットは両手を振って遠慮した。
シャーロットの脳裏に浮かんだのは、あの激しい幼馴染のことだ。シャーリー呼びはアルトくらいだった。アルト以外からそう呼ばれたとなると、面倒なことになりかねないと。理由はわからない。
とにかく、シャーロットは遠慮したいところだった。
「なんでかって? 名前の方が短いだろ」
「はあ」
「長いだろ。ここ、長ったらしい苗字が多いんだよ。ごっちゃになるんだよ」
「はあ……」
いや、それはおかしな話だった。シャーロットは明らかに苗字の方が短い。この男自身もそうだ。といっても、彼は嘘を言っているようでもない。
「……うーむ」
彼は女生徒だけではなく、男子寮から出てきた生徒にも。話しかけられては、生徒の名を読む。そう、名前の方で。苗字呼びを徹底していた片桐とは違っていた。
「――それでだ。お前は泊まったわけだ。なら、朝から行動してもいいだろうなってな」
「そうですが、朝早くというのも、申し訳ないというか。私も店が気になって」
「シャーロット」
「!?」
シャーロットは頭を。――撫でられてしまった。
「店、大事なんだな。頑張っているからな。たまには、休んでもいいんじゃないか?」
「先生……」
優しく丁重に撫でてくれる。シャーロットはそのままでいたい気持ちを押し込め、失礼がない程度でその手をどかした。
「……はい、大事です。どうしてもお店のこと、気になってしまいます」
「ん、わかった。手短に過ごしておくな」
「……すみませんでした、色々と」
男は手をどけられたことも、時間を短縮することも嫌な顔はしなかった。本当に優しい先生なのだろうか。あくまで労わってくれたとしたら、あの態度は無かったとシャーロットは反省する。
ああして、頭を撫でてもくれたのに。シャーロットの頭を――。
「……!?」
他の生徒の目もある中でだ。また前世の時のように悪目立ちをしてしまうのか。シャーロットは青褪めるも。
「あはは、まーたやってる」
注がれる視線は温かいものだった。生温かいといっていいものだ。
「モルゲンちゃんさー、初等部の子相手じゃないんだからさー」
「ちゃん付けはやめろ」
「へへー、モルゲンちゃん!」
男子生徒筆頭にいじられてもいた。親しみを覚えられているのもそのようだ。不安そうな初等部の子には、頭を撫でて励ましている。そのこともしっかりと揶揄されていた。
彼は色々な呼ばれ方をしている。名前呼びしかり、苗字呼びしかり。あだ名でもわりと呼ばれていそうだ。
「……」
片桐を彷彿してしまう。どうしても彼と重ねてしまう。
「それでは本日はお願いします。――モルゲン先生」
「……ああ」
男、モルゲンは何とも言えない表情をしつつも、笑った。




