朝から教師の来訪。
翌朝。シャーロットは快適な環境の中で目を覚ます。疲れが十分に取れていた。背伸びをする。
朝の光が差し込む。締め忘れのカーテンの間から見えるのは、晴天の空だ。吹雪は止んでくれたようだ。
「よっと」
シャーロットは名残り惜しくもベッドから離れた。彼女は本日の予定を思い出す。
「約束か……」
今日は教師であるあの男に案内をしてもらう約束だった。二人きりである可能性も高い。相手は何とも思ってないにしろ、シャーロットは気鬱だった。
「アルトも外出できないんだよね」
意地でも無理やりでも割り込んできそうな彼だが、大人しく謹慎する気はあったようだ。
「気まずいな……」
いつもアルトの明るさとコミュ力の高さに助けられてきた。その彼も今はいない。
「とりあえず準備して。それから家に戻ろう」
約束していたのは夜だ。身支度を終えて、シャーロットは部屋を後にした。一度家に戻り、店を開けようと。閉店時、再び学園に向かう。それがシャーロットの計画だった。
昨日の服装で、シャーロットはロビーへと向かっていた。美味しそうな匂いがした。朝食の時間なんだろう。世話になった寮長もそこにいるのを期待して、食事用フロアを目指した。
「おはようございます」
「おっ、シャーロット君。おはよう!」
寮長もそうだが、他の寮生達も次々と返してくれた。シャーロットも改めて挨拶をした。彼女達は本日が休日ということで私服だった。思い思いの服を着ている。
「ちょうどよかった。君を呼びに行こうと思ってたんだ。ほら、食べて食べて」
「いえ。ご馳走になるまでは」
「いいからいいから。うちのごはん、すっごく美味しくてね」
寮長が自分の隣の席を引いてくれた。ここに座って欲しいとのことだった。いつまでも遠慮しているのも、相手を待たせることになる。
「それでは、ご馳走になります」
「どんどん食べちゃって。うち、ビュッフェ形式だから。好きなの食べていいよ」
「わあ……」
ホテルの朝食バイキングみたいだ。シャーロットは内心浮かれていた。どれも美味しそうであり、迷ってしまいもした。
席に着くと、寮生達があれこれ話しかけてくれた。アルトのことも訊かれたが、学園生活の心得や自分達の失敗談など色々織り交ぜて話をしてくれた。話し下手のシャーロットも気のいい彼女達相手に楽しく過ごせた。
食事を終えた後も、彼女達と雑談をすることになった。店の開始は遅れるだろうが、シャーロットはこの時間を大切にしたかった。待っていてくれるかもしれない客、その人達に申し訳ないと思いつつもだ。
「アルト君は、女子同士のいざこざを心配してるだろうけどね。そうそうない心配だと思うよ。――治安いいからね。うちの学園は」
寮長の眼鏡が光る。
「治安、ですか?」
「そうそう。『あるお方』がね。学園の自治に励んでおられるからねぇ。生徒の自主性もそうだけどね?――教師も素晴らしい方々ばかりなんだ」
「……はい」
まだ過剰に反応してしまう自分に、シャーロットは辟易していた。それだけ冬花にとって、教師、特にあの男性教師は大事だったのだろうが。
「そうだね。当然人気教師もいるわけだよ。――お?」
寮内で呼び鈴が鳴り響いた。この時間なら玄関の鍵は閉められておらず、寮生ならば自由に出入りできた。自室の鍵さえちゃんとしていれば、と寮長は加えた。
「……すみません。私閉めてないです」
「ああ、いいよ。というか、こっちも渡してなかった。お、戻ってきた」
呼び鈴を鳴らすとなると、寮生以外だ。寮長ではなく近くにいた女生徒達が対応したようだが、その二人組は頬を紅潮させながらやってきた。興奮状態でもあった。
「あ、朝からイケボ! 低音で囁かれた、やばい! 朝モルゲン!」
「アインスト先生、かっこいい……」
興奮のあまり、いまいち要領が伝わらなかった。
「ああ、モルゲン先生だね。休日朝からとは珍しいな。どうしたんだろね」
が、この寮長は即座に理解した。息が荒い二人組を宥めつつ、さらなる説明を待つ。
「あの。アインスト・モルゲン先生ですか?」
シャーロットは質問していた。それならば、昨日に会った男だった。本日夜に約束している相手でもあった。
「おやおや、ご存知で?そうか、アルト君とは幼馴染だったもんね」
「……先生とも幼馴染。はいはい、追加きた!」
「……兄弟同士での取り合い。はいはい、盛り上がってきた!」
より興奮させる材料を与えてしまったかもしれない。シャーロットは今回も訂正を試みた。
「いえ。そちらの先生とは面識がないです。初対面です。……ええ」
「なんだ、面識ないんだ」
「いや、わからんよ?アルト君から話を聞いたりとか」
まだ関係を疑いつつも、そこまで彼女達の心に響かないようだった。
「あ、そうだ。シャーロットさん。あなたに用があるそうだよ」
「私……」
確かに用があるとしたシャーロットだ。夜とはいえ、約束していた。
「こっちはいいから。またね」
「はい、また」
シャーロットはお辞儀をすると、そのままにしていた食器を下げにいった。あたふたしながら、玄関口へ。
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次の投稿あたりでモフモフした子が出てくるはずです。
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