表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/532

名門学園からの推薦状。

 郵便配達人が渡してきたのは、金縁に花があしらわれた豪華なデザインの手紙だった。こんな立派そうなものを送ってくる相手、シャーロットには覚えがなかった。

 ソファのところまで戻ってくると、アルトが体育座りで顔を埋めていた。まだ顔が赤い。

「アルト……?」

「俺、君のこと大事にしたいから。こう抑えてる」

「そう……」

「でも、門限ギリギリまでは居座りたいから。こうしてる」

「うん……」

 その状態は、アルトが望んでのことならば。彼のことは置いといて、シャーロットは手紙を開封することにした。

「――推薦状?」

「ん?」

 シャーロットが口に出すと、アルトも反応した。シャーロットが彼を見ると、アルトは再びうずくまった。

 シャーロットは文面を確認した。その後、顎に手をあてて考え込んでいる。

 その内容は信じがたいものだった。シャーロットが予想だにしていなかったものである。悪戯かとも思ったが、国章もある。正式なものと考えるのが自然だった。

「……アルト。相談に乗ってもらっていい?」

「はいはい、喜んで!」

 即レスでアルトが飛んできた。許可を得たものとして、手紙を覗き込んできた。

「なにこれ。イタズラ、でもないか」

 そこは既にシャーロットが反応済みだ。

「むしろイタズラの方が理解できるというか」

 何の考えがあって。何の企みがあって。シャーロットに送られたものなのか。内容はこうだった。

――シャーロット・ジェム。貴公を王都ブルーメ学園高等部に招き入れたい。

 あとは、入学試験も免除し、中途編入という形をとる。入学費含む費用は学園持ち。入寮も可能との事だった。好条件には違いなかった。

「いきなり入学って……」

 シャーロットは困惑していた。この美味しすぎて怪しい話もそうだが、学生生活もそうだ。「……」

 冬花の時は、特に高校生時代となると。片桐一色であり、ろくに交友関係も築けなかった。恋に溺れていた当時は多幸感溢れていたが、冷静になった今では複雑な心境でもあった。

 今更行ったところでどうなのか。学園生活なんて、憧れもしない。友達を作ろうなど――。シャーロットは推薦状を断る気持ちに傾いていたが。

「えー。シャーリーと同じ学校に通えるってことぉ? うっしゃ、こんなんもうね?毎日デートじゃん!常時いちゃつき放題じゃん!」

 アルトはひとしきりはしゃいだ後、シャーロットの顔を覗き込んだ。

「って、俺は単純に喜ぶけどね。……怪しくもあるからさ。裏もあるかもしれないし、君に危ない目にも遭ってほしくない」

「そうだよね……。うん、やっぱり――」

 そう、アルトもこう言っている。やっぱり断ろう。シャーロットは伝えようとしたが。

「でもシャーロットは? チャンスかもしれないんだよ。君がどうしたいか、教えてほしいんだ」

 アルトは真剣な表情で問う。

「答えはどっちでもいいよ。どっちを選んでもさ、俺はシャーロットの力になるだけ」

「アルト……」

 彼が本気で考えてくれている。それにシャーロットも応えたかった。

「……一晩、考えさせてほしいんだ」

「ん、わかった」

 アルトは彼女の髪をゆっくりと撫でた。小さい頃はしょっちゅうだったが、久々だった。シャーロットはその感触に懐かしくも照れくさくもなってしまった。

「っと、何気にシャーリーの髪触っちゃった。へへ、へへへへ……」

 自分の手と、シャーロットの髪を見て。アルトは一人ニヤニヤしていた。シャーロットは若干引いた。昔はシャーロットからも触っていたこともあるが。それでもだ。

「まあ、一晩といわずさ。もうちょっと考えてもいいと思うけどね。――じゃ、俺帰るね」

「うん」

 このままアルトが帰るのかと思われたが。

「えへ」

「えへ?」

 アルトは舌を出して自分の頭をコツンとした。あざとくわざとらしいポーズだ。これは何かやらかしたな、とシャーロットは察した。

「えへ、だって! シャーリーかわえぇぇぇ! ねえ、ポーズつけてやってみて! ねっ!?」

 ほら俺の真似をして、とアルトは息を荒くした。

「アルト」

 シャーロットは名前だけ呼んだ。その目は冷たかった。

「うう、わかったよ。……門限、過ぎちゃた」

「あ」

 アルトに言われて、シャーロットも気がつく。これはシャーロット側の失態でもあった。いつもならもっと早く帰ってもらっていた。

「まあ、平気平気。裏口から入るから!」

「……平気、なのかな」

「平気平気! ってことで、またね! 俺も充電できました!」

 アルトはあっけらかんと笑っていた。この笑顔を見てしまったら、シャーロットもつられて笑ってしまった。

「……うん。今日もありがとね、アルト」

 彼のおかげで今日も楽しい一日となった。アルトといるといつも楽しい。シャーロットはそう思いながら微笑んだ。

「っしゃ! デレいただきました!」

「デレ……」

「……シャーリー、遠い目しないで」

 帰る直前までも騒々しいアルトは、扉を開けた。――扉を開けたまま硬直していた。どうかしたのかと、シャーロットも彼の後ろから見てみると。つい声が出てしまった。

「うわあ……」

 外は雪が猛威をふるっていた。昨日も大雪だったが、今日の方が激しかった。

「アルト、これ危ないよ」

 棒立ちのアルトもさすがに考えているのだろう。この猛吹雪の中から、そこそこ距離がある学園まで。歩きという強行をしないとならないと。

「うーん……」

 泊まりを許可しない。そう告げていたのはシャーロット自身だ。

 泊まりとなるとアルト相手でも気にしてしまう。アルト自身は紳士で、かつ単なる幼馴染相手に手を出してこないとしても。気にしてしまうものは気にしてしまう。

 かといって、この状況で彼を帰すのも望ましくなかった。

「……泊まってく? 安全を考えたら、そうした方が」

「はい! 安全とか関係なく泊まりたいです!」

「うん、やっぱり無し」

「ええ!? 引いた? ドン引きした!?」

 振り返ったアルトは興奮状態だった。息も荒くなっていた。彼のテンションは高い。

「……でも! 狼確定なので、俺は帰ります! それじゃ、また明日も来るから!」

「ちょっと、アルト!」

 そのテンションを維持したまま、彼は荒れ狂う天候の中を突進していった。

「……アルト?」

 アルトの姿は見えなくなっていた。彼の無茶無謀ぶりはいつものことだが、この猛吹雪の中では無理が過ぎないだろうか。

「……?」

 シャーロットの胸がざわつく。手にしていた推薦状を握りしめた。彼女は何かに駆られるかのように、一歩踏み出すと走りだしていった。

「――ちょっと、大人しくしててね」

 シャーリーは走りながら、手を前方に振りかざす。阻むような雪は消滅していった。これで彼女のゆく手を阻むものはなくなった。

「最初から付き添ってれば良かった!」

 あの彼が戻り道でシャーロットが一人になるのを良しとしないだろうか。というか、シャーロットが失念していたことでもあった。うっかりしていた。

「アルト、いたら返事して?」

 アルトだって人の子だ。この強風の中を駆け抜けられるだろうか。――どこかで倒れている可能性もある。シャーロットは見落とさないように、かつ、急いだ。


 エーデル村を抜けて、シャーロットは走り続けていた。アルトの姿は無い。

 雪が積もった木々は風にうちつけられている。山道を駆けあがっていく。山道の横道から入ると、ダイヤノクトの首都へと通じている。とがった三角屋根や色とりどりの建物が目を楽しませてくれる。景観が美しい都だ。その奥にあるのが、王族が住まう城である。

 用があるのは、ブルーメ学園。というよりは、アルトだ。アルトさえ発見出来れば良い。

「無事に着いてるのかな」

 別ルートを通ったと言わればそれまでだが、アルトは無事に寮に着いてのではないか。

 山道をある程度進んだ時点で、ランダムに敷き詰められた石の舗装路となっていた。特殊な加工をされているのか、雪を溶かしていたのだ。植えられた木々の実もそうだ。ランタンのように辺りを照らしていた。

 このまま進めばブルーメ学園だ。シャーロットが招待されているところである。

「……この感覚、なんなの」

 学園に近づくにつれ、ざわつくのはシャーロットの心。心臓がギュッとなるようだ。

 引き返した方がいい。

 このまま帰った方がいい。

 頭の中では警告が続いているのに。

「……」

 シャーロットはそのまま歩き続けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ