冬休みも彼任せ。
明日には冬休みを迎えることになる。冬休み前に、自治委員総動員で仕事を終わらせた。彼らは終わらせると、心はもう冬休みに向かっていた。
自治委員会にとってもそうだった。数日交替で出動するも、大半は好きに過ごしていい。カイゼリンの計らいによるものだった。
こうして残っているのは、リヒター。そしてシャーロットくらいだった。明日からの業務の準備ということで、シャーロットはそれを手伝っていた。カイゼリンは別件で校舎内に残っていた。
「カイゼリン様は御多忙な方ですから。各方面へのご挨拶もありますし、年末は迎賓館でのパーティも控えています」
カイゼリンも自治委員としての仕事は休みとなる。となると、リヒターが常駐するようなものだった。カイゼリン不在につき、委員会の責任は彼が持つことになる。
「リヒターさん、それはあんまりじゃ……」
シャーロットは彼を気の毒に思っていた。こうして、結局は残業をしている彼をも。
「いえ、リヒター家の者として。当然ですから」
リヒターの喋り方。カイゼリン襲撃の日は畏まったものになってしまっていたが、ここ最近の若干砕けた喋り方には戻ってはいた。それでも彼は、『リヒター』で在ろうとしたままだ。
「あの、リヒターさん。その節はお騒がせしました……」
「いえ。カイゼリン様も気にしておられませんから」
シャーロットはその後、カイゼリンにまずお詫びをした。彼女は驚いたことにより、事を大きくしてしまったと。逆に謝ってきたのだ。ああ、やっぱり優しい人だと。シャーロットはそう思っていた。
「リッカだけど、冬休み終わるまではエーデル村でお世話になることになって。犬好きのご婦人がいて、リッカも懐いているから。私も店をって思っていたけど……」
シャーロットはリヒター、そして今はいないカイゼリンを思った。これまでが平和過ぎた。事が起こるのはこれからだろうと。今自分に何がやるべきことか、考えた末。―カイゼリンの動向と自治委員会に集中することだった。最優先だと考えていた。
「私も冬休み返上します。私もいいかな、冬休みの間いても」
「……ジェム様」
リヒターは肯定も否定もしない。特に反対されないのなら、シャーロットは出動するまでだ。リヒターに恩があるのもそうだ。彼の負担を減らしたいのもそう。
「モルゲン先生もそうだけど、リヒターさんもでしょ。リッカの件で動いてくれたの」
「何のことでしょうか」
「……もう」
リッカとの面会を許され、エーデル村までの付き添いも許された。彼自身も言っていた便宜を図ってくれたのだと、シャーロットは感謝していた。こうして知らん顔をしていてもだ。
シャーロットは改めて思った。この人はずっと、そうしてフォローしてくれたのだと。ループしている間の随所随所もそうだった。この無表情の下、気遣ってくれていたのだ。
かつてシャーロットの中にあった、リヒターへの苦手意識。―それがもう溶けていた。
「―では、本日はこれくらいにしておきましょうか」
「はい、お疲れ様でした」
まだ残っているが、明日に回すようだ。
「……カイゼリン様を送り届けてからになりますが。よろしければ、送りましょうか」
リヒターは校舎にいるカイゼリンを送っていくようだ。その後にと、シャーロットのことまで申し出てきた。
「ううん、こっちは大丈夫。というか、大変だろうし」
それはさすがに悪いと、シャーロットは断る。カイゼリンさえ送ってくれれば十分だろう。これは単なる気遣い、リヒターもすぐカイゼリンの元へと向かうと思われたが。
「大変ということは……」
リヒターはどこか躊躇っているようだった。顔にもそれが表れていた。そんなに気を遣わなくても、シャーロットは笑った。
「ほら、リヒターさん。帰りましょう?カイゼリン様が待っているよ?」
いつまでも動こうとしないので、シャーロットから動くことにした。彼女から扉を開けて、リヒターを促す。
「……承知、致しました」
リヒターはすっと表情を整え、立ってくれた。シャーロットも安心した。
「……そうだ、リヒターさん。二人きりだよね」
「え」
リヒターの肩が震えた。どこに動揺する様子があったのかと、シャーロットは疑問に思うも続ける。
「冬休みの話。ほら、皆さんも来てはくださるけど。常駐するのは私達くらいじゃない。それでどこかで気を抜けたりできないかなって」
「……お言葉は有難いですが、私はリヒターとして」
リヒターはこう言う。シャーロットもそこは否定はしないが、でもとは思う。
「せっかくの冬休みなんだし。リヒターさんをお休みしてもいいんじゃないかなって。ほら、カイゼリン様の前では、いつものビシっとしたリヒターさんでいいけど。私の前では手を抜いてもいいんじゃないかなって」
本命のカイゼリンの前ではいつもの恰好良い姿を見せればいい。これは決してリヒター本人には言わない。格好良いと言おうものなら、見下げた目で見られるのがオチだと、シャーロットは思っていた。
「……手を抜く、ですか」
「あ、いえ。リヒターさんが嫌なら。無理強いもしたくないし」
彼のプロ意識的にも許せないことだったかもしれない。シャーロットは訂正しておいた。
「……いえ、善処します」
リヒターは考えてはくれているようだ。これでリヒターの負担が減ってくれることを願った。




