表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

103/532

リヒターの看病。

 本当に大変な日々だった。だが、これで終わりではない。これから起こり得るのは。

―シェリア・カイゼリン殺害事件。大晦日の前日に起きた。その日がまた、迫ってきていた。

 この多忙な日々に加えて、それにも備えなくてはならない。やることは山積みなのだ。

「……」

 さすがに無理をし過ぎていたのか。シャーロットは頭がぐらついていた。痛む頭を我慢しながら、委員会の仕事を行っていた。

「―では、皆さん。お疲れ様。また、明日もよろしくね?」

 カイゼリンの言葉により、一同解散となった。シャーロットにとっては鶴の一声だった。リッカとの散歩に行って、ご飯とお水をあげて、それだけやったら横になるつもりだった。

「あら、シャーロット?どうかなさったの?」

「いえ、大丈夫です。もう、帰りますから……」

 明らかに具合が悪そうなシャーロットに、カイゼリンは声掛けをした。

「そうおっしゃらないの。ほら―」

「私の方で送ります。カイゼリン様、今回は失礼させていただきます。まだ委員は残っておりますので、伴としてお連れください」

「そ、そう?話が早くて助かるわ。ほほほ……」

 カイゼリンが言い切る前に、リヒターがやってきた。どれだけ意を汲むのかと、シャーロットは痛む頭の中、感心していた。

「―では、失礼します。ジェム様」

 ふわりと浮遊感がした。シャーロットは気がつけば、リヒターに抱え上げられていた。リヒターは相変わらずの無表情のまま、シャーロットを横抱きにしていたのだ。

「……?」

 事態を飲み込めてないのはシャーロットだ。

「リ、リヒター?」

 気が動転しているのはカイゼリンだ。この男に、お姫様抱っこという芸当が出来たのかと、大層驚いていた。それは、残っていた委員達もそうだ。

「女子寮でしたね。行きましょうか」

「……すみません、リヒターさん」

「構いません。ああ、あえて言うならば。―フラグ回収でしたね」

「本当にごめんなさい……」

 シャーロットは遠慮をする気力もなかった。リヒターに身を委ねた。


 女子寮に着くと、こちらでもとても驚かれていた。あのリヒターが女生徒を抱き抱えているのだ。

「突然の訪問お許しください。ジェム様を見届けたら、失礼させていただきますので」

 呆気にとられていた女子寮長への挨拶を済ますと、リヒターは彼女に顔を近づけた。

「……はい、そちらがあなたの部屋ですね。この容態でよく上る気になれましたね」

 シャーロットの部屋番号を聞いていただけだった。それでもこう、見ている周りをドギマギさせるほど、親密さが垣間見えていた。


「―部屋を開けたままとは。どういうつもりでしょうか」

 リヒターは信じられない光景を目にしていた。シャーロットは自室の扉を開けたままにしていた。シャーロットにも事情があったので、説明はする。

「うちの子が、出入りしやすいようにって。……あれ」

 部屋に着くと、シャーロットは確認した。いつもなら帰っているはずのリッカの姿が無かったのだ。

「リッカがまだ、帰ってきてない」

 さらに顔色を悪くしたシャーロットが下りようとしていた。リッカを探しに行く気だ。

「……いいから。休んでいてください。―私が捜しに行きますから。あなたに動き回られるよりは、余程ましです。安静にしていてください」

「……私も、少しでも落ち着いたら捜しにいくから」

「はあ……」

 シャーロットをベッドに下ろすと、横にならせた。布団もかけたリヒターは、ベッドに腰かけた。

「本当に必死ですね。あなたはいつもそうだ」

「うん、そうだよ。必死にもなるよ」

 いつも言われていることを、シャーロットはいつもの言葉で返す。リヒターがなぜこうも問うてくるのか。シャーロットにはわからない。

「何故ですか。突然自治委員会に入りたいと言ってきたのもそう。そうやって必死なのは、深い事情があるからではありませんか。私は」

「……!」

 シャーロットの髪に触れてきたのは、リヒターだ。無表情の中に微かに見えるのは、労わるような。それでいて心を痛めているかのような表情だった。

「―あなたが、重い何かを抱えているようで。そう思えてならない。それをあなたが、私に打ち明けてくださること。それを望んでいます」

 優しい手つきだ。そんな手つきとは裏腹に、強く、目で訴えてくる。

「私は、―あなたを知りたいのです」

「リヒターさん、私は……」

 それは言えることだろうか。いや、言えないことだ。シャーロットは彼の望みを受け入れることは、出来ない。

「ふふ、おかしな話。そう思われているでしょうね。突然でしょうね。あなたといると、不思議なんです。私は私が―」

 わからなくなると。そう言うと思われたが。

「見つけられるような気がするんです。とうの昔に失っていた『私』を」

「……!」

「……戯言が過ぎました。ベッド横に水を用意しておきます。あと、頭痛薬です。愛用してますので、効果は間違いありません」

 リヒターの言葉の真意を問えないまま、彼は去ろうとしていた。てきぱきと準備をし、シャーロットを安静にさせていた。

「ありがとう、リヒターさん……」

 シャーロットはリヒターからの薬を服用した。痛みも次第に和らいでいく。

「しばらくは側にいさせてください。あなたが眠るのを見届けたら、私は退室しますから。あなたの愛犬のことはお任せを―」

 送り届けたら終わるかというと、リヒターはそうではなかった。彼はそばについていたいようだった。

「……」

 シャーロットこそ不思議な感じだった。彼はカイゼリンを置いてきている身なのにだ。

お読みいただきましてありがとうございました。

次も投稿予定であります。

よろしくお願い致します。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ