リヒターの看病。
本当に大変な日々だった。だが、これで終わりではない。これから起こり得るのは。
―シェリア・カイゼリン殺害事件。大晦日の前日に起きた。その日がまた、迫ってきていた。
この多忙な日々に加えて、それにも備えなくてはならない。やることは山積みなのだ。
「……」
さすがに無理をし過ぎていたのか。シャーロットは頭がぐらついていた。痛む頭を我慢しながら、委員会の仕事を行っていた。
「―では、皆さん。お疲れ様。また、明日もよろしくね?」
カイゼリンの言葉により、一同解散となった。シャーロットにとっては鶴の一声だった。リッカとの散歩に行って、ご飯とお水をあげて、それだけやったら横になるつもりだった。
「あら、シャーロット?どうかなさったの?」
「いえ、大丈夫です。もう、帰りますから……」
明らかに具合が悪そうなシャーロットに、カイゼリンは声掛けをした。
「そうおっしゃらないの。ほら―」
「私の方で送ります。カイゼリン様、今回は失礼させていただきます。まだ委員は残っておりますので、伴としてお連れください」
「そ、そう?話が早くて助かるわ。ほほほ……」
カイゼリンが言い切る前に、リヒターがやってきた。どれだけ意を汲むのかと、シャーロットは痛む頭の中、感心していた。
「―では、失礼します。ジェム様」
ふわりと浮遊感がした。シャーロットは気がつけば、リヒターに抱え上げられていた。リヒターは相変わらずの無表情のまま、シャーロットを横抱きにしていたのだ。
「……?」
事態を飲み込めてないのはシャーロットだ。
「リ、リヒター?」
気が動転しているのはカイゼリンだ。この男に、お姫様抱っこという芸当が出来たのかと、大層驚いていた。それは、残っていた委員達もそうだ。
「女子寮でしたね。行きましょうか」
「……すみません、リヒターさん」
「構いません。ああ、あえて言うならば。―フラグ回収でしたね」
「本当にごめんなさい……」
シャーロットは遠慮をする気力もなかった。リヒターに身を委ねた。
女子寮に着くと、こちらでもとても驚かれていた。あのリヒターが女生徒を抱き抱えているのだ。
「突然の訪問お許しください。ジェム様を見届けたら、失礼させていただきますので」
呆気にとられていた女子寮長への挨拶を済ますと、リヒターは彼女に顔を近づけた。
「……はい、そちらがあなたの部屋ですね。この容態でよく上る気になれましたね」
シャーロットの部屋番号を聞いていただけだった。それでもこう、見ている周りをドギマギさせるほど、親密さが垣間見えていた。
「―部屋を開けたままとは。どういうつもりでしょうか」
リヒターは信じられない光景を目にしていた。シャーロットは自室の扉を開けたままにしていた。シャーロットにも事情があったので、説明はする。
「うちの子が、出入りしやすいようにって。……あれ」
部屋に着くと、シャーロットは確認した。いつもなら帰っているはずのリッカの姿が無かったのだ。
「リッカがまだ、帰ってきてない」
さらに顔色を悪くしたシャーロットが下りようとしていた。リッカを探しに行く気だ。
「……いいから。休んでいてください。―私が捜しに行きますから。あなたに動き回られるよりは、余程ましです。安静にしていてください」
「……私も、少しでも落ち着いたら捜しにいくから」
「はあ……」
シャーロットをベッドに下ろすと、横にならせた。布団もかけたリヒターは、ベッドに腰かけた。
「本当に必死ですね。あなたはいつもそうだ」
「うん、そうだよ。必死にもなるよ」
いつも言われていることを、シャーロットはいつもの言葉で返す。リヒターがなぜこうも問うてくるのか。シャーロットにはわからない。
「何故ですか。突然自治委員会に入りたいと言ってきたのもそう。そうやって必死なのは、深い事情があるからではありませんか。私は」
「……!」
シャーロットの髪に触れてきたのは、リヒターだ。無表情の中に微かに見えるのは、労わるような。それでいて心を痛めているかのような表情だった。
「―あなたが、重い何かを抱えているようで。そう思えてならない。それをあなたが、私に打ち明けてくださること。それを望んでいます」
優しい手つきだ。そんな手つきとは裏腹に、強く、目で訴えてくる。
「私は、―あなたを知りたいのです」
「リヒターさん、私は……」
それは言えることだろうか。いや、言えないことだ。シャーロットは彼の望みを受け入れることは、出来ない。
「ふふ、おかしな話。そう思われているでしょうね。突然でしょうね。あなたといると、不思議なんです。私は私が―」
わからなくなると。そう言うと思われたが。
「見つけられるような気がするんです。とうの昔に失っていた『私』を」
「……!」
「……戯言が過ぎました。ベッド横に水を用意しておきます。あと、頭痛薬です。愛用してますので、効果は間違いありません」
リヒターの言葉の真意を問えないまま、彼は去ろうとしていた。てきぱきと準備をし、シャーロットを安静にさせていた。
「ありがとう、リヒターさん……」
シャーロットはリヒターからの薬を服用した。痛みも次第に和らいでいく。
「しばらくは側にいさせてください。あなたが眠るのを見届けたら、私は退室しますから。あなたの愛犬のことはお任せを―」
送り届けたら終わるかというと、リヒターはそうではなかった。彼はそばについていたいようだった。
「……」
シャーロットこそ不思議な感じだった。彼はカイゼリンを置いてきている身なのにだ。
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