アルトの本当。
店を閉める時間となった。片付けまでもアルトはやろうとしていたので、シャーロットは止めに入った。
「お願い、アルト。今からでも寝てください。お願いだから」
シャーロットは改めて頼み込んだ。結局は寝なかった男に対してだ。
「……え。泊まっていいの?」
「それは許可しないけど。私が夕ご飯作るから、その間だけでも休んでて」
「えー……」
アルトが期待の眼差しで見てきても、シャーロットはすげなく断る。アルトは仕方なさそうに一階にある方のソファへと向かっていた。
そこで目にしたのは暖炉だ。長い間使ってないと見受けられた。前の住民が使ったのが最後だろう。
寒さに震えるこの国だからこそ、建物一つ一つの防寒性能はそれなりだ。それでも豊かではないシャーロットの家は、お世辞にも暖かいとはいえない。寝室などには、簡易で安価なヒーターで補っていた。
「つかさ、暖炉つけようよ。俺、薪調達してくるからさ」
「寝てなさい」
まだ何かやろうとしていた。シャーロットは止めた。
「……はあ、また今度にしよ。それじゃあ、お料理シャーリーをガン見してよっと!」
「寝てなさい」
「えー……」
ソファに座ったはいいが、まだシャーロットの方を見ていた。ここまで相手にされてないのでアルトは観念したようだ。ソファに深く座り込んで、天井を仰ぐ。そのまま目を閉じた。
しばらくして、規則正しい寝息が聞こえてきた。寝てくれたようだ。
「ふう。それじゃ、作りますか」
正直、料理の腕はアルトの方が上だ。凝ってもいる。シャーロットは得意の煮込み料理、彼が好きと言ってくれたものを作ることにした。
ぐつぐつ煮込む音、とんとんと食材を刻む音。静かで穏やかな時間が流れた。
食事を食べ終えた二人は、ソファに座って寛いでいた。未使用の暖炉の前だ。
「あれ使おうって。俺、今からでも薪割ってくるからさ」
「いいって。食べたあとだし、ゆっくりしてようよ。門限まで時間もないだろうし」
「ああ、そうだ。憎き門限め……。そうだ、時間は限られているっと!」
言うと同時に、アルトがとった行動は。
「ちょっ!?」
「時間ぎりぎりまで、満喫させて?」
隣りにいるシャーリーの肩にもたれかかった。驚くシャーリーに対して、アルトは笑っていた。
「……ああー、ここで暖炉の火が揺らめいていたらな。なんか良さげなムードなんだけどな!」
「今からつける気はないからね」
「もー、シャーリーはさ。……でも、いっか。俺が今、シャーリーを独り占めってね」
アルトは呟く。いつもの騒々しさは潜めていた。
「……うん、独り占め。今、俺と君だけだ」
「アルト……?」
「……どうしたら、シャーロットは本気にしてくれるのかな」
いつもの明るさは無く、声も真面目なものだった。
「いや、本気って――」
「全部、本気なんだよ」
体をそっと離されたと思ったら、シャーロットは目を見開いた。掴まれたのは両腕だったからだ。痛くはされてないが、彼の力の強さからして逃れられはしない。
「あのさ、アルト? 本気っていっても」
「本気だってば。シャーロットへの愛の言葉は、全部本当。……昔からずっとそうだよ」
「と、とりあえず落ち着こう?アルト?」
いつもと様子が違う彼を宥めようとするも、そうはならず。より、腕の力が強まるだけだった。
「――言葉で伝わらないのなら。これなら、わかってくれる?」
「!?」
互いに近づくのは顔。そして、唇だった。このままでは、重なってしまう――。
ピンポーン。鳴ったのはドアチャイムだった。扉を叩く音もする。
「――シャーロット・ジェムさーん。夜分遅くにすみませーん。郵便のお届けに参りました――。昨日の吹雪の影響で遅くなってしまいまして」
ということだった。郵便配達人がやってきたのだ。
「……郵便?」
この時間帯なのは、少しでも早く届けたかったのだろう。もしかしたら不在の時にも届けにきてくれていたのかもしれない。こちらの世界には不在票は存在しない。そして、郵便受けに入れるだけではなく、配達という形をとったこと。
何か、緊急を要するものだろうか。
「……アルト、私いかなくちゃ」
いつもと様子が違うアルトが気になるが、郵便の方も気にはなる。シャーロットは離れたかった。
「あ」
そう声に出したのアルトだ。しかも。
「ああああああああああああああ」
声をあげて。真っ赤な顔面を両手で覆い隠して。
「あ、あ、あぶなっ! 俺、シャーロットにチュ、チューするところだった。付き合ってないのに! あっぶな、危なかった!」
「……」
一人悶絶していた。シャーロットはどう反応したらいいかわからなかった。
「ぐぬぬ、郵便の人、今はありがとう、ありがとうとしか……! シャーロット、早くいっといで!」
「う、うん。大丈夫なんだね?」
「わりと大丈夫じゃない。チューしたい!でも抑えてるから……」
「う、うん……」
どう返事をしたらいいかもわからない。シャーロットは急ぎ玄関へと向かうことにした。




