自宅(仮)
(こ……これは…… <もふ花> だよね……??)
森に入る前、私がつるんと出てきたその蕾は
チューリップみたいに上を向いていたはずなのだが。
今目の前にあるそれは、さっき見たサイズの倍以上はある。
しかも蕾が大きくなりすぎてしまったのか、茎が重さに耐えられず首を垂れるように下を向いている。
蕾が開いた形で地面に突き刺さっていて、かぼちゃみたいな形だ。
(なんか大きめの玉ねぎみたいなのだったはずが……巨大かぼちゃになったな。)
まあでも、蕾が下に降りてきてくれたのはラッキーだった。
あの蕾の中のもふもふで寝たかったのだが、この茎は伝って登っていくのには少しばかり心配な太さだったからだ。
ただ、ひっくり返ったこの蕾の中にはどうやって入ればいいのか。
にゃーんと唸って首をひねる。
(このかぼちゃ、なんかテントっぽいな。)
(そういえば出てきた時も、花弁が開いて滑り台になったし、この真ん中のところをペロンと持ち上げたらテントのそれみたいに……)
なった。
人間の手であれば、器用に巻き上げておきたいところだが
咥えてガクの方まで引っ張り上げて、茎に巻きつけてみる。
(うん!それっぽい! これなら自宅(仮)と呼んでも差し支えない!)
るんるん気分で屋根(もといガク)からおりて、新居をまじまじと見つめる。
(夢のマイホーム一戸建て!)
前世では安アパートを借りるので精一杯だったから、自分だけの家というのはかなり嬉しい。
そして中に入ってみると、さらに幸せな気持ちになった。
(黄金色のもふもふ、ご健在。びっしりふわふわ幸せ……)
壁に張り付いて、もふもふを全身で感じる。
自分も猫になったとはいえ、やはりもふる側は格別である。
花弁が重なっているところを内側から一枚とって、ベッドも作ってみた。
寝心地は言わずもがなである。
(草原にもふベッド、もふテント…最高すぎる。)
前世でいうところの断熱テントにコットが揃い、思わずビールで乾杯したくなる。
猫なので味覚的にお酒は美味しくないのだろうな、とは思ったが、記憶の中の至福の味を思い浮かべながら、私はベッドの黄金色の毛を撫でた。
(乾杯の時はいつもそばにいてくれたよね、モフ助。)
(会いたいなあ。)
そのままベッドに顔を埋めていたら、いつの間にか夜が明けていた。