【レポート】迷世《まよ》の森について
※本文中の説明を補うものなので、飛ばしてしまっても構いません。
<リト>の森は、外側から見ると異様な空間だ。
遠目に見ても、周りと比べてその森だけが少しばかりトーンダウンしたような色合いで、俗世とはどこか隔絶した雰囲気を感じさせている。
そのためソラステレス国のほぼ中央に位置しているが、街道はその森を避けるように整備されており、街や村は森から一定の距離を保って点在している。
古くからの言い伝えでは神聖な場所であるとされているが、あまりの不気味さに近付くものはおらず、現在は国の直轄地として管理されているためその実態を知っている者は少ない。
森に最も近いピリト村の者たちは、村の北西側を覆うその森を<迷世の森>と呼んでいた。
森に近づくほど俗世から遠ざかるような、えも言われぬ雰囲気があるのだ。
一度入ってはこちら側へ戻ることは叶わない、と詩に歌われるほどに。
実際には戻ってくる者もいる。
……が、その証言もまたこの森を<迷世の森>たらしめるものばかりだ。
一昔前は、この森を横断して首都へ売り込みに行こうと意気込む商人たちがいた。
隣国との関係が良好であった前王の時代、国境に近いこの村は街道の終点であり、貿易で栄えていた。
しかし街道は森を避けるように大回りしなければならず、長旅で鮮度を維持できないと考えた商人は、地図上最も合理的であろう、森横断ルートを発案したのだ。
当時の王は森の環境を損なわないことを条件に、街道を作ることに同意したが、問題は街道予定地の下見の段階で起きた。
リトの森はモヤに覆われているため、その内部は日中ですら薄暗い。
視界が悪いため、木の根に足を取られて怪我をした者や道に迷った者が、幽霊の仕業だと騒ぐことも珍しくはなかった。
その上夜は月の光が届かず、漆黒に包まれ何も見えない。
そのため恐怖に耐え一夜を森で明かしたとて、またあの夜が来ると思うと恐怖で足がすくんでしまい、2日目の明るいうちに逃げ帰ってしまう者ばかりだった。
そうして「この森で二夜過ごしたものは正気を失う」
という話がまことしやかに囁かれるようになり、計画は頓挫。
やがて現王の時代となり、隣国との関係が冷え込むと貿易も下火になり、この森を横断しようと考える者はいつの間にかいなくなったのだった。
この森は実は、静かすぎて気が狂うという側面もあったりします。
普通の森では自然の音に重なるように鳥の鳴き声やカエルの歌が聞こえますが、
この森の動物は念話を使うので、川のせせらぎや葉擦れの音しか聞こえません。
近くに川がなく風も吹かない時には、まさしく無音になってしまう。
なんとなく生き物の気配はあるのに声はしない。
それが違和感や不安を生むようになっています。




