決意
寝込んでしまったあの日からは、身体のだるさに悩まされた。
全然頭を使ってもいないのに、働きすぎた時のように頭がぼーっとする。
そんな感じの、普通は寝れば良くなるような身体の不調は日に日に積み重なっていった。
食欲もガクッと落ちてしまい少量しか食べられなくなったので、ひどい夏バテにでもなったのだろうか、と思っていたけれど、体に力が入らなくなってきてからはいよいよ何かの病気を疑った。
グッタリとした様子を心配した彼が、私の顔を覗き込む。
「何か私にできることはないか?なんでも言ってくれ」
「……もう色々してくれてるの、知ってるよ。ありがとう。」
私は精一杯の力でニコッと笑って見せた。
日中ベッドには陽が当たるので、彼は日陰になる位置に私が休める場所を作ってくれたり、
滋養に良さそうな根菜や葉っぱを買ってきては、スープに入れてくれているのも知っていた。
(だって味がちょっとまずいからね……笑)
そうやって心配して、私のために色々してくれることが嬉しかった。
その一方で、手を尽くしても一向に体調は良くならない。
万策尽きたとばかりに、彼は村に一人しかいないらしいお医者様を連れてきてくれた。が、お医者様にも原因はわからないようで、ひとまず滋養の薬をもらって様子見となった。
「医者でも原因がわからないと……残るは神頼みか。」
お医者様が帰り、ふとナギが呟いた時。
私は、はっ!とポチの言葉を思い出した。
(そうだ……<リト>は神聖なものから栄養を得ていたはず。もしかして今、私は神聖な花から離れているから……それが足りていないってことなのかな?)
もしそうだとしたら、何をしても良くならないはずだ。
神聖なものなんて、今のところリトトリルとあの池しか私も知らないんだから。
でも急に森に行きたいなんて、この体調ではとてもじゃないけど許可されないだろう。
そうなれば少なくとも<リト>のことは……いや多分、全てをナギに話さないといけなくなる。
人になったあの日から、いずれは話さないといけないとはわかっていたけれど。
私の中でまだ決心は固まっていなかった。
だって前世のことも、転生したことも、祈りの力だって、どれも到底信じられる話じゃない。
今でもまだなんて伝えたらいいのかわからない。
(……それでも、ナギはちゃんと聞いてくれる気がするから。)
これ以上ナギに心配も、迷惑もかけたくなかった。
森に行けば元気になるかもってわかったんだったら、隠してはいられない。
「……あの、ナギ。実は聞いて欲しいことがあって……」
そう言ってナギを見上げると、彼は無言で口元に人差し指を当てていた。
そして私と目が合うと、窓の外に目線をやる。
人の気配があるので、どうやら家の外で聞き耳を立てている者がいるようだった。
ナギの言っていた監視者というものだろうか。
この状況で内緒の話をするのは危険だろうが、私は文字が書けないから他に伝える術がない。
困った私は、座っているナギに近づいて耳元で確認する。
「これならしゃべってもいい?」
ナギは無言で頷いた。
「……森に連れて行ってほしい。誰にも気付かれずに。」
「今は言えないけど、そこで……ちゃんと、私のこと話すから」
ナギが目を見開く。
正直体調も万全でない病人が、あの<迷世の森>に行きたいなんて自殺行為に等しいということは、自分でもわかっている。
健康な大人でさえ、下手したら帰って来られないと恐ろしげに噂されている森だ。
いくら元動物であったとはいえ、事情を話していない私の願いを聞いてもらえるだろうか。
そんな私の不安を吹き飛ばすように、ナギは何も言わずに頷いてくれた。
何も聞かずに、私の願いを尊重してくれた。
私のこと、信じてくれた。
温かい気持ちが胸に溢れて、瞳が潤む。
……彼に本当のことを伝えよう。 全部。
もしそれで、伝えたことで彼が離れていってしまっても、それでもいいやと思えた。




