三つの約束
食事も済んで落ち着いたところで、ナギが大きな袋をくれた。
中には買ってきた服が何着かと、スカーフのような布が入っている。
(この布は何に使うんだろう……?)
ナギに確認しようと顔を上げると、真剣な表情の彼と目が合った。
「ユウ、これから話すことをよく聞いてほしい。
この村で暮らすにあたって、君に必ず守ってほしいルールがあるんだ。」
ナギは食後のお茶を出しながらそう言うと、この国と神子について簡単に教えてくれた。
わかったことは、ここソラステレスは代々王様が治める国で、現王の代では周期的に災禍が迫っているということ。
そしてそこに、神子を彷彿とさせる容姿の私が現れれば、その身に危険が及ぶ可能性があるということ。
つまり私は、勘違いされないようにこの髪と瞳を隠しながら生活する必要がある。そのためにスカーフを買ってくれたらしい。
顔を隠しているなんて不審者じゃない?と思ったが、こういった色彩を隠す装いは色素の薄い名家の方達が先駆けとなり、今はおしゃれとして浸透しているのだという。
「それとこれを。安物だと普段使いには見えづらいようだったから。」
そう言って彼は戸棚の方からサングラスのようなものを取り出して、私に手渡した。
かけてみると、PCレンズのように少しだけ景色が暗く見える。
「それは私が以前使っていたものだが、この村では必要ないからね。ちなみに一点ものだから、壊すなよ。」
「……ありがとうございます。」
なんでもこのメガネ、特注品で、制作にかなりの手間と時間がかかるのだという。再発注が面倒なので無くさないように、とも釘を刺された。
つくりもしっかりしているので、高価な物に違いない。
(このメガネ、極力かけたくない……。 不用意な外出は避けよう……。)
そう心に誓った。
そんなわけで、ナギとは3つの約束をした。
1、外に出る時は、髪と瞳の色を隠すこと
2、身の回りでおかしなことがあればすぐ相談すること
3、猫は森に帰ったことにすること(素性は秘密にすること)
ナギには諸事情で監視がついており、彼らは王様と繋がりもあるらしい。
監視に気づかれるのが一番厄介とのことだったので、二つ目は特に重要だと念押しされる。
(ナギって実は、いいところのお坊ちゃんだったりする……?)
そう一瞬頭をよぎったが、家出少年にしては年がいってるし、隠居にしては早すぎるよな…と思い直した。
「神子と疑われたら確実に王都送り、軟禁生活だな。」
そう言ってナギが苦笑する。
現王様は災いの時代で苦労しており、そんな王様を慕う者たちは藁をも縋る思いで神子を探しているのだとか。
人違いで軟禁なんてまっぴらごめんだ。
一通りの説明を終え、ナギはお茶を飲んでいる。
窓の方を見ながら何かを考え込んでいるようだったが、しばらくして彼は口を開いた。
「…王都はここより栄えているし、娯楽もたくさんある。
神子候補なら悪いようにはされないだろうし、ユウが望むならそれもいいのかもな。」
遠い目をしてナギがつぶやく。
そして何かを決心したように、真剣な顔で私の目を覗き込んできた。
「……ユウは、これからどうしたい?」
少しだけ違和感があったが、気づかないふりをする。
「どうしたいも何も、私は神子じゃないですよ。
疑われて慌ただしくなるのは嫌だし、できればここで静かに過ごしたいです。」
「……そうか、わかった。じゃあさっきの約束、忘れないで。」
そういうとナギは少し考えた後で「用があるから、留守番よろしく」と家を出て行った。
いつもと違う様子で出て行った彼の背中を見つめながら、私の胸は不安で埋め尽くされていく。
常に何かを考えている様子だった。
会話の中で感じた違和感。
(……もしかして彼は、私に出ていって欲しいんだろうか。)
猫から人になったのも、信じてくれているのかわからないけど詳細を聞かれないし。
もし私が逆の立場だったら、気になってすぐに問い詰めてしまうに違いない。
面倒なことに関わりたくない、ということなのだろうか。
(聞かれても答えに困るからいいんだけど……。彼が何を考えているのかわからない。)
猫だった頃は仲良くやっているつもりだったけれど、今は少し距離も感じる。
(ナギが帰ってきたら、どんな顔して迎えたらいいんだろう……)
私は彼が出て行った後も、しばらくドアを眺めていた。




