甘いものがお好き(SIDE:ナギ)
考えることは山積みだが、ひとまず時間が欲しい。
その為には何よりもまず、この異彩を放つ容姿を隠す手立てを考えるべきだが、これについては心当たりがあった。
ユウには「誰かが尋ねてきても、何があっても家から出ないこと」と釘を刺し一人家を出る。
まず向かったのは、流行り物や装身具を扱う村の雑貨屋だ。
元々我が国では、名家ほど髪や瞳の色が薄いため、
お忍び旅行や身分を明かしたくない場合には、そういった部分を隠す装身具を着用する。
その際に使われる色付きのメガネや頭に巻くスカーフは、名家への憧れからファッションとして根付き
今では一般人にも広く浸透する文化となっているため、それらの調達はこの村でも難しくはなかった。
肌を露出しない服と併せて調達すれば、とりあえず外見だけはなんとか誤魔化せるだろう。
(安物のメガネは色と見え方のバランスがよくないな…私のものを貸すか。)
ユウに似合いそうなスカーフを数枚購入しがてら、店主に既製服の商人が来ていないか尋ねたら、
ちょうど今朝の市に来ているという。
村人は基本的に手持ちの服を繕って使うため、既製服を買う機会はほとんどない。
そのため村にはそういった店舗がなく、不定期で訪れる商人から買うしかないのだが。
とりあえず急場しのぎで店主のお子さんの服を買い取らせてもらおうと思っていたので、
このタイミングで商人の訪問があり、新品を購入できるのは幸運だった。
広場では服の他に、甘いミルククリームを挟んだパンも購入した。彼女の好物だ。
猫の時は、たくさん欲しがっても体が心配で少ししか食べさせなかったので、今日は思い切り食べられるように3つほど購入した。
(喜ぶだろうか……?)
そして帰りにはおかみさんの宿屋に寄った。
出自については、変に触れ回るのも逆に怪しいので、お世話になっているおかみさんにだけ伝える。
私の実家の事情を知っている彼女に「訳あって遠縁の子を預かっている」と伝えておけば、あとは村中になんとなく事情が伝わるはずだ。
帰宅すると、ユウは私が出て行った時のままの姿勢で、布団に埋もれて眠っていた。
(よく寝る子だな。猫なだけはある。)
椅子から落ちては危ないので、そっと持ち上げてベッドに置こうとしたら、その瞳がカッと開かれた。
「甘い匂いがする!!!!!!」
思わず目を見開いた私とユウの視線がぶつかり、時が止まる。
すごい顔だ。
匂いで起きる食い意地もそうだが、そのなんとも言えない表情も笑いを誘う。
優はお姫様抱っこの状態に気づいたのか、途端に顔を真っ赤にして慌て始めたので、落とさないようにゆっくりベッドに座らせた。
紙袋を見ながらそわそわしているので、声をかける。
「ユウの好きなパンを買ってきたから、食後にどうぞ。もう猫じゃないし好きなだけ食べていいよ。
あぁでも、まずはスープを飲んでからね。」
そう言うと、ユウが瞳を輝かせて私を見上げる。
「本当ですか! ありがとうございます、ナギさん!」
「……そんなに畏まらなくていいよ。ナギでいいから。」
敬語を使われると、少し距離が離れたような気がして寂しかった。
「じゃあ、ナギ。スープは私が温めますね。猫の時にやり方は見てるから!」
そう言ってユウはスープの入った鍋を暖炉の方へ持ってきた。
私も買ってきた品物を片付けて、机の上を整える。
そして食卓に向かい合って、一緒に食事を摂った。
「う〜ん、やっぱりナギのスープは美味しいね! ずっと、美味しいって、伝えたかったんです!」
「そうか、口にあって何よりだよ。」
「料理は誰かに教わったんですか?」
「……昔職場の上司に教わった。野営で食べる飯はうまい方がいいからって。」
誰かと会話しながらゆっくりと食事をしたのは、本当に久しぶりだった。
色々と聞きたいことはあったが、なんだか気が抜けて、他愛のない会話しかしなかったし、それが心地よかった。
結局、ユウはスープを食べた後、買ってきたパン3つを全て平らげた。
そしてパンが全て無くなってから
「しまった、おやつに取っておけば二度美味しかったのに!!」と叫ぶものだから、思わず苦笑してしまった。
良識あるサラリーマン(29歳女性)野生風味でお送りしました。
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