前世は人ですが、何か。
ナギとの生活は穏やかで、ゆったりとしたものだった。
日が昇る頃に起きて暖炉に火をくべ、二人で朝食を摂る。
食事が終わったら水を汲みに外に出て、ついでに街の人に挨拶して回る。
パン屋などは朝早くから開いているので、ついでにちょっと寄って買い物することもあった。
ある時、ナギが小脇に抱えたパンの袋を落としてしまった際、両手が桶で塞がっているナギの代わりに私がパンを拾ったことがあった。
意外にパンが軽かったので、そのままくわえてナギの横を歩いていると、街をゆく人たちが口々に、可愛い〜とか、お利口さんだね〜と褒めてくる。
まあお利口だ、なんて言いますが。
私の前世、人(29歳)なので。舐めてもらっちゃあ困ります!
でもなんだかいい気分になったので、背筋をピンと伸ばして胸を張って歩いた。
そして、ふんす!と鼻を鳴らして思いっきりドヤ顔になった私をみて、ナギが横を歩きながらぶふっと吹き出している。
ああ、なんて平和なのだろう。平和で、愛すべき日常のワンシーンである。
この日以来、「小さな品物はお利口な猫ちゃんに渡す」というのが村の人たちの暗黙のルールとなった。
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二人で生活するのが日常となり、毎日がにぎやかで楽しかった。
村の人たちは皆優しく、村の広場には、どことなく温かい雰囲気が漂う。
村人たちは、猫だけでなく色々な動物たちと共生しているようで、村には犬や鶏のような鳥もいた。
そのためナギと並んで歩いていても、特に違和感無く過ごすことができた。
自然豊かで、人と動物が平和に暮らす、理想郷のような村。
ここで過ごしていると、日々温かい気持ちで心が満たされた。
あっという間に春が過ぎ、気がつけば夏はもうすぐそこまで近づいていたが
この村で過ごす中で早々に分かったことは、ここが前世の地球とは別の場所だということだった。
ナギが読む新聞のようなものは文字がわからず読めないので、村の中で会話を聞く限りの情報だが、
この村は『ソラステレス』という国に属しており、隣国は『プラテレス』という名前らしい。
前世ではもちろん、歴史上でも聞いたことのないような名前。
つまり、ここは前世とは全く関係のない世界、<異世界>に他ならない。
(……私が異世界に転生しているということは、モフ助にはもう二度と会えないんだろうか……)
穏やかな日常の中で不意に湧き上がってくる喪失感。
もう一度会えるかもしれない、という希望が無に帰してしまった。
お別れもお礼も、何も言えなかった。
もう一度、一目でいいから会いたかった。
(……でもそういう祈りは、<リト>の力でも叶わないのかな。)
そうやってモフ助を想って落ち込むこともたまにはあったけど、落ち込んでも何も生まれないし、いいことなんてないから。
そう言い聞かせて、私は私の新しい人生(猫生)をどう楽しんで生きていくか考えよう、と無理やり気持ちを切り替えて日々を過ごしていた。
2人の日常パートは死ぬほど妄想できるのですが、あまりにボリュームが増えると話の腰を折ってしまいそうなので短めにしています。
後々書きます。




