名前を贈ろう
そうこうしているうちに宿屋の従業員さんが呼びに来たので、
おかみさんはお土産のパンを置いて仕事に戻っていった。
室内は静寂を取り戻し、暖炉の木がパチパチと爆ぜる音が心地よく響く。
おかみさんの後ろ姿を見送ってから、どちらともなく朝食を再開した。
スープはすっかり冷めてしまったので、彼が温め直したものを上から少し足してくれた。
こういう気遣いが嬉しい。温かい食事はほっこりする。
私は食事をとりながらふと、先ほどの彼の言葉を思い出していた。
「別にどうということはないですよ。
ただ子猫を拾ったので、しっかりしなくてはと思ってはいますが」
これはつまり、雪が降っていたので家に置いてくれていたわけではなく
私はここで飼われている、ということになっているのだろうか。
これから面倒をみていくために、しっかりしなくてはと思ってくれたのだろうか。
(ということは、今日、出ていかなくても良い……のかな?)
初めは雪が止むまで一時的に居させてもらうつもりだったのに。
ここでの生活が気に入ってしまっていたらしいことに、今気がついた。
前までは森に構えた自宅に一人、静かに過ごしていた。
たまにポチや動物たちと森で遊んだりしてはいたけれど、それは日中だけで。
夜になればみんな家に帰って行く。
私も自分の家で一人。
でも寂しいと感じたことはなかった。
元々一人と一匹の暮らしだったし、今の家はモフ助のように暖かかった。
でも、いざ彼と三日間過ごしてみると、
あの家に帰って一人で過ごすのが、少し寂しいと感じる自分がいた。
(……もう少しだけ、ここにいようかな。)
元々、転生してきた私に帰りを待つ家族はいない。
根無草のようなものだから、どこで過ごすのも自由なのだ。
だから、今はここにいたい。それでいいやと思った。
「どうした、食欲ない?」
彼が話しかけてくる。
どうやら、考え事に夢中で動きが止まっていたようだ。
心配かけまいと食事を再開する。
先に食べ終わっていた彼は、温かいお茶のようなものを淹れると再び向かい合って座った。
「そういえばおかみさんは紹介したのに、私の自己紹介がまだだったね。
私はナギ。本名は長いからこっちで覚えてくれ。
それと、君にも名前が必要だよね。なんて呼んだらいいかな……そうだ、」
そう言うとナギは紙のようなものを取り出し、
三つにちぎってそれぞれに名前の候補を書くと、目の前に並べてくれた。
「好きなものを選んでくれ。」
それらを見下ろすと、明らかに日本語ではない言語が記されていた。
まるで焼きそばの麺を並べたような……前世でいうアラビア文字的な、
そう、日本人がぱっと見で理解できない言語だった。
(今まで会話は動物語も彼らの言葉も理解できたのに、文字はそうはいかないのか……)
色々考えたが、音がわからない以上選びようがない。
流石にとんでもない名前は選択肢にないだろうが……できれば前世と違和感のない名前がいい。
私はナギを見上げて「うぅ(ゆう)」と鳴いた。
じっと目が合う。
もう一度「うう」と鳴いた。
「ウー、がいいのかな?」
「にゃん!」
猫語ではこれが限界なので、ウーで妥協することにした。
「よし、それじゃあウー、これからよろしくね。」
そう言うとナギはぐりぐりと頭を撫でてきて、なんだかこそばゆい気持ちになった。
作品をご覧いただきありがとうございます!
これまで思うままに書いてきたのですが、初投稿なので大丈夫かなと不安になってきた今日この頃です…
もしよろしければ感想や評価で良い点・悪い点をご指摘いただけると幸いです。もしお時間がありましたら、よろしくお願い致します!




