雪の朝(SIDE:ユウ) − 1
※Ep9「森のオアシス」〜ナギに出会うまでのお話は、メインのストーリーがひと段落したら執筆予定です。
森の動物との交流など、ほのぼのストーリーがメインなので本筋にはあまり影響しない(予定)です。
祈りの検証が頓挫している今、当面はモフ助捜索に照準を合わせることにしたが
なかなか進展がないまま、季節は冬になろうとしていた。
秋口には、
森の冬はさぞかし寒いだろうから、<リト>も冬眠するものなのかな?
なんて考えていたのだが。
蓋を開けてみると、<リト>の住むエリアは比較的温暖に保たれており、
自前の毛皮だけでも快適に過ごすことができていた。
森に入る際は少し肌寒さを感じるものの、動いていれば特に寒さを感じず、問題なく活動できる。
気がつけば遠くの山が白く染まり始め、冬の訪れを視覚的に感じていた。
今朝は一段と冷え込んだようで、
近くの山も雪化粧をして、本格的に冬がやってきたようだ。
まだ早朝なので外は真っ暗ではあるが、もう間も無く空が白んできそうだ。
明るくなってきたらすぐに出られるように、今日はいつもより早起きで準備する。
軽く伸びをして、昨日とってきたリンゴのような果実を齧る。
甘くて美味しい。
これをみると、先日の可愛いポチの声を思い出すな。
というのも、先日祈りの回数制限について検証しようとこの果実を一列に並べて
端から一つずつ「おいしくなあれ」「おいしくなあれ」と唱えていたら、
不運にもポチに見つかってしまい、散々説教されたのだ。
「グルルルぐるルウううう キュキュッ!!!!!」
(信じらんない!神聖な祈りを無駄撃ちするなんて!!!)
興奮しすぎて可愛い鳴き声が飛び出した。
リスってこんな声なんだ。意外だな〜と呑気にリンゴを試食してみる。
う、うまい……!
甘さや芳醇さが格段に増した果実は、ほっぺが落ちるほど美味しかった。
隣の果実も同様の味がしたので、とりあえず2回分は効果を確認できたようだ。
「キューーー?!キュキュキュキュ!!!!」
(ちょっと聞いてる?! ユウの身体にも、この世界にも、どんな影響があるかわからないのに!)
[大丈夫だよ、今のところなんともないよ?]
冷静に念話で返すと、ポチは焦ったように続ける。
[今は大丈夫でも、常識を超えた力だよ?その蓄積で将来何があるかわからないじゃん!
だから試すのはいいけど、慎重に、できればどうしようもない時とか、大切なことに使った方がいいよ。
……僕はユウのことが心配だよ……。]
大きな潤んだ瞳で見つめられ、困ってしまった。
確かに、一定時間ではなく、人生の中で回数制限があるとしたら無駄撃ちすべきではないし
ポチの言うとおり、どこにどんな影響があるかわからない。
そんなこんなで祈りの検証は見送りとなった。
ちなみに森のオアシスはいまだに健在である。
あそこは定期的に効果の継続を確認しに行くのがいいかもしれない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今日は久しぶりに、ピリト村に向かっていた。
というのも、他の村はどこも森から離れており
森の端までは行けても、安全に村を観察できる場所まで行くことは叶わなかったからだ。
森に面した村はピリトくらいなので、この世界の人間や文化について知るためには
ここが一番手っ取り早い。
ポチときてからも一人で何度か足を運んではいたが、
遠目に人間の姿を見たり、パンのような香りを嗅いだりする程度で、場所や時代の手掛かりになるものはなく、目立った収穫はなかった。
ただ、前回来た際に村の中に猫の姿を見かけ、村人が友好的に接していたことから
今回は「野良猫が排除されない文化」かもしれないという当たりをつけて
人が少ない朝の時間に村に潜入してみようと考えている。
万が一人間に見つかった際、排除されそうな雰囲気でも少人数なら逃げ出せるだろう。
リスクを最低限に抑えた結果、相当早起きだったので少しだけ寝不足気味だ。
森の端に近づくにつれて、気温が下がってきたのを肌で感じる。
出発してからずっと走り続けているのでまだ身体は暖かいが、
村の気温には耐えられるだろうか。
少し不安に思いながら進んでいると、数十メートル先に村が見えた。
……が、その景色を見て愕然とする。
(雪が積もってる……)
森の中にも、端から数メートルほどは小雪がちらつき軽く積もっている。
これは相当寒そうだ。
早めに用事を済ませなければ。
今日の目標は、村で人間に目撃されること、その反応を見ること。
そして受け入れムードであればそのまま村を探索して、この世界の文字も見てみたい。
きっと何かの手掛かりになるはずだ。
改めて決意を胸に、雪の上に足を踏み出す。
さくっ……
(?!?!?!)
あまりの冷たさに、思わず後ろに飛び退いてしまう。
私のこの可愛らしい肉球からは、ダイレクトに雪の冷たさが伝わってしまうようだ。
下手したら凍傷になりかねないので、
この雪の上をあてもなく歩き続けるのはなんとか避けたい。
そこで、森の内側から人間を探そう、と村に沿って歩くことにした。
そして歩くこと数分。
(……全然いない!!!!)
どうやらこの雪のせいか
陽はすでに昇っている時間にもかかわらず、村には人影がほとんどなかった。
人が外にいないので、この場で待つ以外どうしようもないが、
この数分で身体も冷えてきたので、あまり長居もできない。
しばし逡巡した末に、予定を変更して雪の中を行く決心を固めた。
より人が多いであろう、村の中心部で人を探すためだ。
近くの家屋の煙突から煙が上がっていることに気づき、
まずあの屋根の下まで走って村の様子を観察すると決める。
(……よしっ!!)
深呼吸して、一気に駆け出す。
(わあああ冷たい冷たい冷たいいぃぃ!!)
(…?!?!!!い゛い゛でででで!!!)
攣った。しかも両脚。
急に走り出したせいなのか、はたまた一気に筋肉が冷えたせいか。
不運にも家屋にたどり着く前に動けなくなってしまい、雪の上にパタリと倒れ込む。
……やばい。
寒いっていうかもう冷たくて痛い。
なんとか屋根のあるところへ……と決死の思いで匍匐前進で進んでいくが
壁まで辿り着いたところで、こちら側には屋根がほとんど張り出していないことに気づいた。
(嘘じゃん……詰んだ。)
両脚はまだ思うように動かせない。
なす術もなく横たわっている身体に、上からも下からも、雪の冷たさがじんじんと伝わってくる。
指先が凍え、だんだん感覚もなくなってきた。
(ああ、こんなところであっけなく死んじゃうのかな。まだ、モフ助に会えてないのに。)
寒くて、寂しくて、胸が苦しい。
(誰か、助けて……。)
祈るような気持ちで天を仰ぎ、私の意識は途絶えた。




