表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/28

雪の朝(SIDE:ナギ) − 3


その事実に気づいてからは時が止まったかのように、子猫を見つめたまま動けなくなってしまった。





動かない私を不審に思ったのか、目の前の子猫がぱちぱちと大きな目を瞬かせた。

まるで美しい宝石のように澄んだ瞳が、探るようにこちらをじっと見つめてくる。


(とても綺麗だ……)


目が合っても逸らさない、というより瞳を覗き込まれている。


まるで心の中まで見透かされてしまいそうな、どこまでも深い、蒼い水底。


それは息を呑むほどの美しさで、見つめているうちに違う時空に飛ばされてしまいそうだったので

少し目を逸らして子猫の姿かたちを観察してみることにした。




真っ白な雪の中にいるときは気づかなかったが、よくみると子猫の身体はほのかに輝いて見える。

白というより白銀に近い、まさに陽の光を受けて輝く雪のような見事な色合いだ。


あの時茂みの奥に見えた不自然な光は、この毛だったのか。


特徴からしておおよそ普通の猫とは思えないが、この子は森から来ただろうから

この森の独自の生態系で育まれた、固有種の猫、と言ったところか。



何気なく頭を撫でてみると、初めは少し驚いていたが

すぐに目を細めて気持ちよさそうに膝の上で丸まった。

仕草は猫そのものだな。



「元気そうで良かったよ……。」


ひとりごちて猫を撫でながら、ひとまずホッとする。

この様子なら雪が止んだら元気に森に帰れるだろう。



「……んにゃー。」


子猫がこちらを見上げて鳴く。


飼い猫ではないとわかったが、それにしては見慣れぬ人間相手に大人しすぎる。

気性が穏やかで、野生動物感は皆無で。

本当に、不思議だ。




目の前の子猫について思案していると、

こちらを見上げてもう一度「にゃー」と鳴いた。


どうしたのかとその視線を追うと、朝食後の皿が目に止まる。



腹が減ったのだろうか。

……しかし、猫に何を食べさせたら良いのかとんと見当がつかない。


ひとまずヤギのミルクをぬるめに温めてスープ皿に盛り付けてみたが

匂いを嗅いでそろそろと一口舐めると、それ以降口にしなかった。


これじゃなかったか。


子猫だから固形物は食べないだろうし、他に食べさせられそうなものはあるだろうか。

食糧をしまってある戸棚や貯蔵床を探してみるが、良さそうなものは見当たらない。

そもそも何を与えるべきなのかはわからない。



「困ったな……後でおかみさんに聞いてみるか。」



一旦食べ物は諦めて水を飲ませよう、と新しい皿を手に振り返ると

子猫が机の上に移動していた。



後ろを向いていたので、見知らぬ人間に背後を取らせるとは不用心な猫だな、と面白がっていたが

近づいてみて、子猫がスープ皿をすごい勢いで舐めていることに気づいた。


クリームスープは食べて大丈夫なのか……?と思いつつ、水を入れてやろうと机に皿を置いたら、

驚いたのか、飛び跳ねて空のスープ皿に手を突っ込み、滑った。

そのまま机から落ちそうになっていたので首根っこを掴んで持ちあげる。



バツの悪そうな顔をして宙ぶらりんになっている猫がおかしくて、思わず笑ってしまった。

恥ずかしそうに睨んでくる猫にごめんごめん、と断って床に下ろす。


「食後のお水をどうぞ。」


目の前に水の入った皿を置くと、こちらをちらっとみてからぺろぺろと飲み始める。

この気まずい表情。

なんとも人間味のある猫だ。




水を飲む姿を眺めながら、思わず目を細める。


こんなに笑ったのはいつぶりだろうか。


一挙手一投足が予測不能で興味を惹かれる。




「にゃあん。」


子猫が物欲しげにこちらを見上げてくる。


「スープまだ欲しいの?」


「にゃん!」


「……っくはは!!お前、猫じゃないだろ!」



まるでこちらの言葉がわかっているように目を輝かせ、返事をする。

その反応がまた面白い。

いっそ話し相手にでもなってもらおうか。


そう思いながら少し冷めたスープを器に盛り、水の横に並べると

子猫は勢いよく顔を突っ込んでがっつき始めた。



「気に入っていただけて光栄だよ。」


「hgなうにゃgぬうぅぅ」



芋とミルクだけの質素なスープだが、その味がいたく気に入ったのか

子猫はあっという間にスープを平らげて満足そうに水を飲んでいる。



自分の作った料理で喜んでもらえるのは、なんだか気分がいい。

満腹になったのかうとうとし始めた子猫を眺めながら、不思議な満足感に浸る。



そのままうつらうつら、と船を漕ぎ出したため

顔面から水に飛び込まないように、スッと持ち上げてベッドに寝かせた。




スープでべちゃべちゃになった口元を軽く拭う。


「警戒心ゼロだな……。」



もはや子猫というより人間の子供のようだ。

撫でていると、すやすやと規則的な寝息をたてはじめる。


柔らかな毛並みを感じながらその姿を眺めていると、ぼんやりとしてきて

子の寝かしつけで寝てしまうというアレか……と思いながら

自分も誘われるようにベッドに吸い込まれた。



ナギの一人称「私」に変更しました。

「俺」がずっとナギのイメージにしっくりこなかったので、

主人公と被るけどまあいいやと断行しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ