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29 所在不明

 前方には炊事場から立ち昇っているらしい煙がちらほらと見え始めていた。

 どこかの家で煮込み料理でも作っているのか、薄っすらと香草のような匂いも流れてくる。

 ドレイクの討伐を終えた俺たちがようやくディララ村に帰り着いたのは、もう日も暮れようかという夕暮れ時だった。


 先頭を歩くコルトとジャックはふたりで二本の棒を肩に担いでおり、その真ん中に見えるのはこれみよがしに紐で吊るされたドレイクの頭部。

 エネルギー弾の直撃で半分ほどになっているとはいえ、元々1メートル以上あるドレイクの頭部分だ。相当重いに違いない。

 消息不明のバームの捜索でけっこうな時間を取られたということもあるが、そんなものを担いでえっちらおっちらとのんびり歩いて帰ったものだから、必要以上に時間がかかっていた。


 ドレイクという比較的珍しい魔物の頭部だ。

 ほぼ完全な状態なら、貴族などの好事家こうずかに剥製として売るのも有りだろう。だが、こんな状態ではそれも無理。

 じゃあ、なんでわざわざこんなものを持ち帰っているのかといえば、どうやら自分たちがドレイクを討伐したことをディララ村の住人にアピールするためらしい。

 最終的にドレイク退治はあの場に居合わせた全員で協力して行ったことにしたからだ。


 というのも、自分が倒した獲物を他人に解体してもらう場合、ギルドを通して依頼を出さなければならないという決まりがあるのを、冒険者連中から聞いたためだった。

 何となく胡散臭い話の流れだなとも思ったが、後でこっそりエルパドールに確認したところ、一応それっぽいルールがあるにはあるらしい。

 といっても、きっちりと線引きされている感じではなく、後で揉め事になった場合、無届けだとギルド側はその揉め事には関与しませんよというだけらしいが。

 戻ってギルドに依頼を出すのもいちいち面倒くさい話。

 それなら全員で協力して倒したってことで口裏を合わせれば済むという話になったわけだ。


 ドレイクを討伐したことでランクが上がるとか、別報酬が出るということもなさそう。得られるのはおそらく名声だけだろう。

 そんなもの不必要な俺たちにとっては、手柄なんかなくていっこうに構わない。そもそも戦力としては見做していないが、協力体制にあったのも事実だ。

 最初は手柄の譲渡や虚偽報告となるとさすがに問題があると拒んでいたダンですら、コルトとジャックに説得され、渋々とだが頷いていた。

 多少問題であっても話し合いで何とかなるならそれでオッケーってのが、冒険者間での流儀らしい。

 俺としても依頼を出したりなんだりで時間を取られるのは御免被りたかったので、その提案に否やはなかった。

 ただ、どうせいっぺんに素材を持って帰れないのだから、一度ディララ村に帰って荷車でも持ってきたほうがいいんじゃないかという意見だけは言ったが。


 それも結局、最近戦争だなんだのと暗い話ばかりなので、ディララ村の住人がお祭り騒ぎになるようなものが欲しい。

 帰るときにドレイクの頭部を一緒に持っていったほうが盛り上がるとコルトやジャックに言われ、そのまま押し切られる形になってしまった。


「すげえ、何だこれ。でっけえええ」


 ディララ村に入った瞬間、目聡く俺たち集団を見つけた少年たちがこちらに駆け寄ってくる。そして、ドレイクの頭部の周りに群がると声を上げ始めた。


「うわあ。魔物の頭だあ」

「きゃあああ、痛そう。頭にでっかい穴が空いてるよぅ」

「なあなあ。これってコルトのおっちゃんが倒したの?」


 ドレイク自体は見たことがなくても、これが魔物の頭だということはさすがにわかるのだろう。

 子供たちが次々と歓声を上げて騒ぎ立てる。


「あ、ああ。まあな。つうか、ここに居る皆で倒したのさ。これが湿地帯に巣くっていたドレイクだぞ。どうだ、デカいだろ? 身体なんかこれの7,8個分くらいあったんだからな」

「うーん、それってジャックの兄ちゃんよりも大きい?」

「ドレイクだってさあ。私、初めて見た」

「えー、嘘だー」

「なんだ、俺の言葉が信じられねえってか? もしドレイクが生きてたら、ジムリのちっこい身体なんかひと呑みにしちまうだろうな。ほれ、こうやってガブっとな」


 担いでいる二本の棒を地面に置き、その場で子供たちの相手をし始めるコルト。

 コルトが予想外に子供たちの面倒見がいいことに俺は驚く。当の子供たちからも相当好かれている様子だ。

 てっきり斜に構えたひねくれた性格だとばかり思っていただけに、意外な一面を見た気がする。

 まあ、コルトたちと会ったのも今日が初めて。俺に対する態度と、村人に対する態度が違うのも当然だろうが。


 そうこうしているうちに、大人も子供たちの騒ぎに気付いたようで、なんだなんだと俺たちの周囲に寄ってくる。 


「とりあえずジャックはバームの家まで行って、あいつを連れてきてくれ。いくら命が惜しいからといって、依頼を放り出して逃げ出すなんざ冒険者として許されることではないからな」

「あいよ。でも、説教はほどほどにしてやってくれよ。ディーディーたちのおかげとはいえ、なんだかんだこうして大成功のうちに終わったわけだしさあ」

「わかってるさ。クドクド言うつもりはない。ただし、あいつの分の報酬は辞退させるつもりだ。とりあえず今回の報告ではそこら辺を上手いこと誤魔化しておくが、ずっと隠し通すわけにもいかんからな」


 ジャックとバームは同年代ということもあってか、比較的仲がよかったように見える。

 バームのことを庇う様子のジャックに対して、ダンのほうはこの問題をそのまま見逃す気がないらしい。

 現実には依頼放棄どころの話ではないのだが、それを知らないのだから無理もないだろう。


 問題はこれだ。

 バームの所在が以前不明のまま。

 二手に別れ、時間をかけて探したのだが結局見つからず終いだった。

 アケイオスがバームの遺体を発見した場所は、A地点から少し南へ向かい、さらにディララ村方面へと近付いた岩場の陰。

 その場所へ俺たちが誘導するのはあまりにも不自然過ぎて疑われるだけだし、帰り道からも少し外れている場所で、A地点やC地点付近を必死に探し回ったところで見つかりっこない。

 最終的にバームは途中でドレイクのことが怖くなり逃げ出したのだろうとほかの3人が結論付けた時点で捜索を切り上げることになり、現在は村に戻ってきているという次第だった。


 そんなこんなで何も知らないジャックがバームの家へと向かったあと、コルトのほうはドレイクの周りに出来た人だかりに向かって、自慢げに戦いの様子を説明し始めていた。


 すいぶんと脚色まみれのストーリーで、コルトやダン、ジャックがけっこうな活躍をしたことになっているが、それは最初から俺も承知のうえ。

 そんなに活躍したことにして、今後身の丈に合わない依頼を出されたらどうするんだと、こちらが心配になったほどだったが。

 だが、一応コルトやジャックの言っていたとおりであるのには違いない。

 どことなく暗く重苦しい雰囲気を漂わせていたディララ村に、ドレイクという危険が去ったことを喜ぶ、明るい空気が生まれ始めているのは事実だった。


「すごいな。まさかドレイクを倒してくるとは……」


 不意に横合いから発せられた声が知り合いのものであることに気付く。

 そちらを振り向くと、少しだけ驚いたようなゲイツの横顔があった。

 ディララ村に入ってくるときには入口付近に姿が見えなかったので、もしかしたら早々に酒場に繰り出しているのかと思ったが。

 ほかの大人と同じく子供たちが騒ぐ様子につられ、何事が起きたのかと様子を見に来たのだろう。


「すげえだろ、ゲイツ。俺たちで倒したんだぜ」

「あ、ああ。驚いたよ。だが、いったいどうやって倒したんだ?」

「俺たちがドレイクの注意を引き受けているうちにディーディーが必殺技でこれもんよ。俺たちはこう、ギリギリのところでドレイクの攻撃を躱し続けてな。ディーディーが必殺技を撃てるチャンスを作ったってわけさ」

「必殺技?」

「まあ、そこらへんは何て言うんだ? 冒険者の秘密ってえやつよ。俺が勝手に他人の奥の手をベラベラと喋るわけにもいかねえ。どうしても聞きたきゃ直接、ディーディーに聞くこったな」


 コルトの言葉を聞き、ゲイツの顔が俺のほうへと向く。

 ダンたちに披露した以上、絶対に隠さなければならないことでもないのだが、俺が口を開くより先にダンがゲイツへと話しかけていた。


「それはそうとゲイツ。バームのやつを見なかったか?」

「ん? バームか? いや、見てないな。というか、お前ら依頼で一緒だったはずだろ。そりゃ、いったいどういう話なんだ?」

「バームのやつ、わけあって先に帰ったのさ。いつものように夕方まで村の入口で門番をしてたのなら、バームのやつを見てないかと思ってな」

「いや。今日はちょっとアリアの調子が悪くてな。ドーソンのおっさんに代わってもらったんだ」

「ああ、アリアちゃんか。というか、俺たちが帰ってきたときには入口に誰も居なかったぞ」

「ちっ、あのジジイ。日が落ちるまでは居てくれって頼んだのに」

「ドーソンのおっさんのことだ。当てにするほうが間違っていると思うが」

「仕方ないだろ、人手がなかったんだ。それでいてしっかり酒代をたかろうってんだから始末に負えんよ」

「水で薄めた酒でも出してやれよ。というか、村長への報告がまだなんだ。俺とディーディーは今から報告に向かうので、悪いがドレイク退治の話はコルトにでも聞いてくれ」

「ああ、わかった」


 そんなダンのひと言で、ゲイツやコルトとも別れる。

 バームの一件に関して、俺は余計な口を出すつもりはない。

 率直な気持ちを述べれば、今日会ったばかりの関係ない赤の他人なのでどうだっていいってのが本音だ。

 自分たちに疑いの視線を向けられないかぎり、犯人捜しをする必要はないと考えているぐらい。

 それでも念のために監視役のピットを張り付けてはいるが、わざわざ犯人が殺害現場に戻ってくる可能性も低いと思っている。

 というのも、金銭や物品を盗られた様子がまったくなかったからだ。

 俺とラウフローラはバームのことなどまるで素知らぬ顔をしたまま、ダンとともに村長の屋敷へと向かうことにした。

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